声のボランティア団体「和歌山グループ声」の代表山本和子さん

名人対談

和歌山県には、様々な分野でそれぞれの道を究めた「名人」とも呼べる方々がおられます。このような方々は和歌山県の誇りであるとともに、その活動は県民の皆さんにとっても励みとなります。そんな「名人」から高い志や歩んでこられた人生についてお聞きし、県民の皆さんにご紹介したいと思います。

声のボランティア団体「和歌山グループ声」の代表山本和子さんとの対談です。(知事室)

仁坂知事:名人対談は、長年いろいろな分野で頑張ってくださって、心から感謝申し上げたい方、また、こういうふうに頑張っている方が和歌山にいるんだとか、県の誇りであると思えるような方を県民の皆さんに紹介して、皆さんの励みになればと思いやっています。
 今日は、声のボランティアで県のためにご尽力いただいている山本さんにお越しいただきました。
 早速ですが、山本さんは「和歌山グループ声」を組織され、皆さんと一緒に頑張っていらっしゃるわけですが、グループ発足のきっかけは何だったんでしょうか。

山本さん:娘が幼稚園に入る前に小児結核にかかったんです。それで保健師さんから毎日午後、決まった時間、安静にするよう指導されました。幼稚園へ行く前ですし、動きたい盛りですよね。実は、若い頃にNHKの放送劇団に入っていて、結婚して和歌山に来てからは和歌山放送でお世話になっていたこともあったんです。それで娘に本を読もうと。昔話を聞かせたらじっと聞くだろうと考えたんです。でも近所の子ども達が外で遊ぼうと誘いに来るんですよ。娘は安静にしないといけないでしょ。それで、近所の子ども達に「おばちゃんが本を読んであげるからね」とみんな呼んで、おやつ付きで読み聞かせを始めたんです。それがずっと続きました。
 子ども達が毎日うちに来るもんですから、お母さん方が自分の子どもに本を読んでやりたいと思ったんでしょうね。それで子どもに本を読んであげると言ったら、「おばちゃんの方がいい」なんて言うものですから、お母さん方が奮起して、どうやって本を読むのか私の所へ聞きに来られたんです。

山本和子さん
山本和子さん

仁坂知事:なるほど。

山本さん:この親子読書会がそもそもの出発点でした。それで、しばらく読み聞かせを続けていたんですが、娘の体も良くなってきたし、本はある程度の年代になると自分で読まないとだめなんですよ。

仁坂知事:そりゃそうですよね。

山本さん:私は、いつでも本を読んでもらうというのが嫌だったんですね。

仁坂知事:ラジオを聞いているような感じですからね。

山本さん:それで、子ども達が高学年になったので本は自分で読みなさいと言って読み聞かせ会は解散しました。でもそのうちに、お母さん達の方が子どもに本を読めなくて寂しいねって言い出して…。それであっと気が付いたんです。目が不自由なお母さんは子どもに本を読んであげることはできないですよね。本を読んで聞かせるということは、親子のつながりの一つですよね。それで目が不自由なお母さんのために読もうと思ったんです。
 知り合いに目の不自由な方がいらしたので、本の録音テープを作ったのでお子さんに聞かせてあげてくださいと渡しました。
 でも大失敗。子どもたちは聞いてくれませんでした。じっと座って聞くより外で遊ぶ方がおもしろいでしょ。それに、親だからこそ聞いてくれるけれど、どこの人ともわからない、一主婦の読んだものは子ども達は誰も聞かないですよね。そこで自分達の不甲斐なさと思い上がりに気づきました。

仁坂知事:思い上がりとも思えませんけどね。

山本さん:これはだめだなぁと思ったときに、その方は私達を救ってくださったんです。子どもは聞かなかったけど、私はおもしろかったですよと言ってくれたんです。

仁坂知事:その方はご自分で読めないですからね。

山本さん:そうなんです。その方が小さかった頃は昔話を読めなかったですからね。すごくおもしろかったとおっしゃってくれたんです。それでその方に何が聞きたいか、何が一番困りますかと尋ねたんです。そうしたら、彼女に、毎日のおかず作るの大変だから知っている料理を教えてよと言われたんです。それで、お料理はどうしてらっしゃるのかお聞きしたところ、皆さん1ヶ月に1回集まって料理を作ったり、時々先生を招いて教えてもらっていたんです。
 そこで、私たちにもプラスになると思って1年間、毎月1回必ず数人で障害のある方々の料理教室へ伺いました。グループみんなが見て感じて、料理の本を録音しようと。目が不自由だとグラムではわからないので、例えばこぶし大とか言い換えました。そんなふうに注釈を入れたりして、一冊の、12種類の料理を録音するのに1年以上かかりました。

仁坂知事:そうすると皆さんと一緒に作ってみて、感じを見ながらこうやって録音するとよくわかっていただけるな、というんでもう一回復習されて作っていったわけですね。

山本さん:そうです。その時に思ったんですが、私達は目で見えているが故にいかに無駄な生活を送っているかと。例えば、動き一つにしても、足下にガス栓とかコンセントの差し込みがあるでしょ。私なんかは何度もつまづいてしまいますけど、目の不自由な方は一度つまづくと二度と失敗しませんね。その感性のすばらしさに私たちみんな感動しました。私達の方が目が見えるが故にいかにいい加減に生きているか。

対談風景
対談風景

仁坂知事:私なんかもそうです。仕事が終わって部屋を出ても、しょっちゅう忘れ物をして戻って来るんですよ。(笑)

山本さん:障害のある方は一つ一つ確実にするのできちんとできるんですね。

仁坂知事:そういう意味では、障害のある方は緊張感を持って、真剣に生きているんでしょうね。

山本さん:障害のある方は私たちの知らないものを持っていらっしゃると感じました。それが「グループ声」の基本、土台になりました。

仁坂知事:ご苦労されて料理の本はアウトプットされましたよね。その次は?

山本さん:子どもたちには失敗しましたが、お母さん達に料理の本が好評でしたので、いろいろ読んで欲しい本を言ってきてくれたんです。

仁坂知事:それは良かったですね。

山本さん:視覚障害者協会の女性の間で口コミで広がってきて、障害者協会と深くお付き合いするようになっていきました。そうするといくらでも広がります。
 それで、これだったら絶対聞いてもらえるというものを考えて「県民の友」を読ませてくださいと県の広報公聴課(現在の広報室)へ言いに行ったんです。県の人は私たちのことは知らないですからね。

仁坂知事:いろんな方とおつきあいしていく中で、この方達は「県民の友」を読めなくて困っているだろうなということがわかってこられたんですね。

山本さん:そうですね。目の不自由な人は情報が偏るんです。情報はすごい宝物ですから。自分では何とも思ってなかったんですけどね。「県民の友」にこんなこと書いてあったよね、なんていう話をしても、その方は知らなかったんですよ。点字版はあるんですが作るのに時間がかかります。声の方が早いですからね。それで自分で言いに行ったんです。

仁坂知事:今は自分から何かをやると言って来る人は少ないんじゃないでしょうか。県庁へ来る私あてのメールなどはみんな読ませてもらっていますが、ご意見や励ましとかは多いですが、これをやってあげるという申し出はあまりないですね。
 しかし、NPOやボランンティア活動に関わっていらっしゃる方は盛んですね。行政の領域と民間との境目で彼らは自分達でいろんな事をやってくれていますよね。
 ところで「県民の友」の録音は何年くらい続けていらっしゃるんですか。

山本さん:「声の県民の友」はもう30年やっています。

仁坂知事:そうですか。本当にありがとうございます。

山本さん:「県民の友」を読ませていただくことは私達にとって知識になります。

仁坂知事:そうですね。「県民の友」には情報がいっぱい書いてありますからね。

山本さん:公で配布される情報紙は障害者全部に渡るようにしないといけませんよね。

仁坂知事:「県民の友」は少し地味ですが、県の施策、行政は幅広いですからきちんと紹介しようとすると今のような体裁になるんだと思います。目の不自由な方に紹介してくださって本当にありがたいと思っています。きっと県政に一番詳しいのは熱心な読者の方々、その次が読み語りをしてくださっている山本さん達ですね。私はその点で負けるかも知れませんね。(笑)

録音テープ製作
録音テープ製作

山本さん:120分テープなので全部はできないんですけれど、大体は録音しています。

仁坂知事:120分間も県政について聞いたら、これは賢くなるなぁ。

山本さん:でも、録音するのは大変なんですよ。

仁坂知事:お一人で録音されるんですか。それとも何人かで?

山本さん:ページ毎に分担しています。

仁坂知事:今、メンバーは何人いらっしゃるんですか?

山本さん:全部で140人です。「県民の友」は10人位で読んでいます。私達は地域に根ざした活動をしないといけないと思ってるんです。「県民の友」や市報の他、小説や時計やパソコン、携帯電話の取扱説明書なども録音します。点字の説明書はないですから。

仁坂知事:それは役に立ちますね。

山本さん:だからとても忙しくて土日も出勤しています。風邪を引く暇もないですね。でも誰も文句言わないですね。

仁坂知事:和歌山は、県民の皆さんの草の根的親切といいますか、人々の温かい心、人情で生きているところがものすごく多いですね。多くの人がそういうことをいとわずにやってくれています。例えば犯罪や交通事故はかつては人口当たりすごく多かったんです。警察も頑張ってくれていますが、ボランティアで防犯組織を作ってくださって地域の安全を見守ってくれている方もいまして、かなり減りました。また、和歌山は山がちで消防署から時間がかかる集落が点在していますから、消防団がものすごく活躍してくれたり、あちこちで頑張ってくれています。こういう善意と奉仕で和歌山は成り立っているんだなぁと、最近ますます思いを強くしています。

山本さん:きっと自分のふるさとが好きなんですよ。私は東京出身なんですが、しみじみと和歌山は非常に気候に恵まれているし、いいところだと思います。

仁坂知事:先程メンバーは140人とおっしゃいましたが、若い方は結構参加してくださいますか?

山本さん:30代の方もいます。子どもさんが学校へ行っている間に来てくれます。

仁坂知事:それは立派なものですね。いろいろなボランティアのグループの嘆きとして聞くのは、若い人がなかなか参加してくれないという話が多いですね。

山本さん:私が活動を始めたときは30代、今は70代ですが、後から入ってくる若い方が頑張ってくれています。

仁坂知事:余談ですが、私は蝶々を採るのが趣味なんですが、いつまでたってもその世界では最年少です。後がないんです。

山本さん:でも、子ども達は好きなんじゃないですか?

仁坂知事:私が子どもの頃も子ども達は昆虫採集は好きでしたがずっと続いているのはほんのわずかですね。しかも、今の子ども達は自然に親しむ機会がないんですね。蝶々の趣味は、人工と自然が交わるところで発生するんです。昔の和歌山は自然に恵まれていてそこらじゅうにギンヤンマなんかが飛んでました。それも大人になるにつれて減ってくる。それで求めて山へも行くんです。そうすると病みつきになる。溢れてたら当たり前になって名前を覚えようともしない。一方はじめから都会に住んでいるとそのすごさも良さもよくわからない。今は両極になっているような気がします。だから我々のような者は出てこないんですよ。それで私はいつまでたっても末席です。山本さんのところのように立派な活動をされていると若い人が入ってきてくれるんですね。

仁坂知事
仁坂知事

山本さん:立派というのではないですが、発表できる手段や聞いてくれる人がたくさんいるから続くんだと思います。知事さんも蝶々を採ったら発表するでしょ?

仁坂知事:それもあまりなくて、基本的には一人で楽しむくらいです。

山本さん:聞いてくださる、知ってもらえるから続くんだと思います。

仁坂知事:自己実現ということでしょうね。それはわかりますね。

山本さん:自分が読んだところは「読み、誰それ」とフルネームを録音します。「県民の友」など、公のものには自分の名前は録音しませんけれどね。自分が知られる喜びがあるから皆さん続いているかもしれません。

仁坂知事:よくわかります。いいことで知られるのは本当にいいことですね。みんなの前で知ってもらうのが大事ですよね。

山本さん:自分から行う方とそれを受けてもらえる方、人間は両方のバランスがいるのかなと思います。

仁坂知事:先程「思い上がり」とおっしゃいましたが、山本さんが障害のある方と関わっていく中で、思うことはありますか?

山本さん:生まれながら目が不自由、途中障害など、障害は人により個人差があります。知り合いに目が不自由な方がいるんですが、その方に会うときは「今日の服よく似合うね」とか、「いい色ね」とか言うのを避けていたんです。でもその方から「山本さん、どんな服を着ているとか、似合っているとか、一つも言ってくれへんなぁ」と言われたんです。私は言ったらあかんと思ってたんです。その方はとっても赤が好きなんです。それである日、彼女に「色が白いから赤い服を着ていると輝いて見えるわ」と言ったんです。そうしたら「そうやろ、私赤大好きなんよ」と。彼女は勘の鋭い方だから、「山本さん、私が赤はわからないと思っているやろ?でも、私の頭の中には赤も紫も空色もあるのよ」って言われたんです。私が見ている赤と彼女が思っている赤は多分違うのかもしれませんが。
 それは少しショックだったし、付き合いが浅かったなと反省もしました。

仁坂知事:見えなくても心で思っていて、私には赤が似合うはずだとかいうふうに考えているわけですね。

山本さん:そうなんです。目が不自由でも心の中に色の区別があることを知ってびっくりしました。

仁坂知事:私もふと思うことがあるんです。例えば、私が見ているオレンジと山本さんが見ているオレンジは同じなんだろうかと。そう考えると同じような話なのかもしれませんね。私たちは鏡で見てこの色が似合っているとか自分で判断する。だけど、目の不自由な方は、人の話とか勘とかから似合っているかどうか確認しながら判断しているんでしょうね。

山本さん:だから、私に褒められてたらこの服を着ると良く思ってくれるなというふうに判断するんでしょうね。

仁坂知事:そういうことを考えておられる方もいるんですね。我々は配慮をするのも大事でしょうが、やっぱりちょっと思い上がりがあるのかもしれませんね。自然にガンガン付き合ってくれということですね。

山本さん:もう一つ感じたことがあるんです。ある会議の時に、たったったったっと点字を打っている方がいたんですが、我慢できないほどの音ではないのに、目の見える人が点字を打つのをやめてくれないかと言われたことがあったんです。その時、私に勇気があれば、私たちが筆記するのと同じなのよと言いたかったんです。でも言えなかった。

仁坂知事:とっさにはなかなか言えないですよね。場の雰囲気を壊してしまうかもしれませんしね。

山本さん:常に健常者の中にいるとそれが我慢できないんでしょうね。私は今までこういう活動をやってきていますから、自分の周りにはそういう考えの狭い方はいないです。
 私は朗読が好きで、社会に出て、いろんな方との触れあいによって、人生を通り一遍ではなく、生きてこれたと満足しているし、今はとても忙しいですが一番充実しています。

仁坂知事:そんな立派な活動をされてきた山本さんは東京ご出身ということですが、和歌山についてはどう思われますか?

山本さん:和歌山はとても気候に恵まれているせいでしょうか、全体にハングリー感がないというか…。豊かなんでしょうね。だからガツガツした人間は少ないですね。これは決して悪い面ではないです。でも、目標を決め、感動を発見する人が出れば、きっと「つれもていこら」ということで大きな盛り上がりになるんじゃないかと私は思います。
 グループ声が今までやってこれたのもそれがあるんじゃないかなと思います。

対談風景
対談風景

仁坂知事:さっきの、ガツガツしてないのはいいことだと思います。でも良い意味でガツガツした方がいい時もあります。つまりしつこく頑張ると。例えば「県民の友」だけでも30年やっていらっしゃる。持続する意志というのは大変難しいんですよ。思いつきでやっても飽きてきますからね。ましてや苦労している中で報われなくても「ひたむき」にという気持ちを忘れてはいけないと思いますね。「ひたむきモデル」とでも言っていいでしょうが、ひたむきさがあるところは発展しますよ。さっき目の不自由な人が真剣に生きているという話がありましたが、みんなが真剣に、ひたむきに生きればものすごい力が和歌山に起きると思います。

山本さん:和歌山は今、ゆったりと楽しんで次に向けての栄養を補給している時期なんじゃないでしょうか。

仁坂知事:「ひたむきモデル」はガツガツしなくていいんです。楽しみながら持続的意志で頑張ればいいんです。

山本さん:持続するのが楽しくなったら、でしょ?

仁坂知事:そうです。それも才能です。私は持続する努力があまりできないんです。例えば英語を毎日聞いて勉強する人はものすごく伸びます。ところが私はすぐ止めてしまうんですね。例えば副知事は毎日走ってます。だからお腹も出てないでしょ。私は何か目的をつけてやらないとできません。だから散歩の時もいろんなものを見つけて歩くことにしているんです。その意味では、私は知事ですから、知恵を絞って和歌山県を良くしようとやっていると、これはきっと楽しいことですよね。
 最後に山本さんの今後の目標をお聞かせくださいますか?

山本さん:「グループ声」はたった140人のグループですが、いつまでも新しいことに挑戦していきたいですね。それと、若い人達がこの活動を引き継いでいってくれたらと思っています。そうしたら私は公園で紙芝居をするようなおばあちゃんになりたいですね。

仁坂知事:素敵な目標ですね。目標に向かって今後とも頑張ってください。今日はどうもありがとうございました。

山本さん:こちらこそどうもありがとうございました。

このページの先頭へ