平成19年度文部科学大臣表彰を受賞された和歌山大学教育学部教授、宮永健史さん

名人対談

和歌山県には、様々な分野でそれぞれの道を究めた「名人」とも呼べる方々がおられます。このような方々は和歌山県の誇りであるとともに、その活動は県民の皆さんにとっても励みとなります。そんな「名人」から高い志や歩んでこられた人生についてお聞きし、県民の皆さんにご紹介したいと思います。

平成19年度文部科学大臣表彰(科学技術賞理解増進部門)を受賞された和歌山大学教育学部教授、宮永健史さん(和歌山大学)

仁坂知事:和歌山県民の方は、それぞれお悩みやご苦労があると思うんですが、やっぱり夢と希望と励みがないといけない。名人対談は、和歌山には立派な方がたくさんいらっしゃるんで、私がお訪ねして、私も励みをいただいて、県民の皆さんにも共同体験してもらおうとホームページに掲載しているものです。

 今日は、実験工作キャラバン隊を組織して和歌山の子ども達に科学技術のおもしろさを見せていただいている宮永先生にぜひお会いしたいと思いお伺いしました。先生は、今年度、文部科学大臣表彰を受賞されました。この表彰は地域で科学技術の知識の普及活動に取り組んでいる方に贈られる賞だと伺っております。その話をいろいろ語っていただけたらと思います。

宮永教授:名人対談をホームページで見せていただきました。非常に立派な方ばかりで、こういうところへ私を選んでいただいて非常に光栄です。

仁坂知事:何をおっしゃいますやら。早速ですが、先生、このキャラバン隊結成のきっかけは何だったんでしょうか?

宮永教授:私どもは主として学校教員を養成しているんですが、ただ講義を聴いて知識を得るだけじゃなしに、実際に実験観察やもの作りを指導できる教員を養成をしないといけないというのが私たちの教育学部、特に理科教室の基本的な考え方なんです。そういう思いでずっとやって来ました。1997年に文部科学省がフレンドシップ事業というものを始めました。これは学生が、ただ大学で授業を聞いたり実験をするだけではなく、実際に子ども達と触れあいながら実践的な指導力を養うという趣旨なんです。和歌山大学は即それに応募し、それ以来ずっと続けています。そこでは子ども達を集めて学生が実験や野外観察、工作等を指導するんですね。

仁坂知事:大学の先生ではなく学生がですか?

宮永教授:はいそうです。これは非常に人気があって、子ども達を募集するといつも定員以上の応募がありました。それで抽選をするんですが、選からもれた子ども達から、なんとかまたやってほしいという希望が寄せられていたんです。 
 それと、もう一つは2000年から「おもしろ科学まつり」というのを和歌山マリーナシティで開催しました。これは子ども達に実験を見せる全国的な催しである「青少年のための科学の祭典」の1つとしてやりました。小学校、中学校、高等学校の先生、大学の学生や教員が色々なもの作りや実験を準備しておきまして、そこへ子ども達が来て体験するんです。子ども達に科学のおもしろさ、楽しさ、素晴らしさを体感してもらうのが目的です。2000年以来ずっとやっているんですが、毎年2日間で4,000人から6,000人が来てくれます。その人達のアンケートを見てみますと、おもしろいからもっと何度もやってほしいとか、いろんなところへ来てやってほしいという希望がたくさんあるんですね。

 2001年になっていくつかの小学校から、学校に来て実験をやってくれないかという要請があり、学生達に参加者を募ったら10人位さっと集まりました。それで小学校へ行って実験やもの作りを指導したところ、子ども達も喜んでくれたし学生達も非常に充実してやれたんです。それじゃあいっそのこと組織化してやろうじゃないかということで2002年の7月10日に発足会をやりました。これが実験工作キャラバン隊の始まりです。

仁坂知事:なるほど。例えば毎回どういう形でやってるんでしょうか?

出前実験教室
出前実験教室

宮永教授:1回出かけるのに準備段階がかなり大変なんです。実験をやろうとすると、何をやるかを決めて学生達はそれを練習しないといけないんです。キャラバン隊の依頼は私のところへ電話やFAX、メールなどで来ます。そして何月何日にどこそこの小学校でやるから行ける人は手を挙げてください、と学生達に伝えるんですね。そうすると都合のいい学生が集まります。

仁坂知事:選手を決めるわけですね。

宮永教授:そうです。それで2週間くらい前に集まって、何をやるか、どういう順序でやるかということを決めるんです。まず全体リーダーを一人決めます。実験は2つ位やるのでそれぞれのテーマを決め、テーマリーダーを決め、各リーダーの下に学生が別れ準備します。

仁坂知事:そうですか。年間何回ぐらい開催するんですか?

宮永教授:年間20回から30回、2週間に1回位です。

仁坂知事:結構多いですね。ということは、準備段階から考えますと1回終わってほっと息をつく暇もないですね。

宮永教授:そうですね。一つ終えると、もう次の準備にかからないといけないですから。

仁坂知事:学生さんはよく協力してくれますか?

宮永教授:はい。実験工作キャラバン隊はボランティア団体なので大学の授業とは全く関係ありません。参加したい人を登録しておいてその中から参加できる学生を募るんですが、本当に積極的に参加してくれます。

仁坂知事:するとすべての学生がその都度というわけではなく、やる気のある学生が登録しているということですね。

宮永教授:そうです。登録していても実際に参加するかどうかは自由です。毎回参加する学生もあれば、1年間1度も参加しない学生もあります。今学生の登録者は52名ですが、教育学部だけでなく、システム工学の学生たちも参加してくれています。それから、教職員では12名が登録しています。この活動は本当に大勢の方々の協力で成り立っているんです。

仁坂知事:どういう実験があるんですか?

宮永教授:現在テーマは30くらいあります。学生にはどんどん新しいテーマを開発しなさいと勧めているんです。

仁坂知事:学生さんにとっても自分で考えることはいいことですよね。

「魔法の壁」
「魔法の壁」

宮永教授:今日はいくつかの実験道具を用意しました。この道具は全部学生達が作ったんです。例えばこの箱は真ん中に壁があるように見えますね。箱に棒を通します。外から見るとその壁を棒が突き抜けたように見えます。でも棒を抜いても壁は破れていません。これを「魔法の壁」と呼んでいます。横から見ると壁はありません。こういう道具を使って光は横波なんだということを体感してもらいます。工作をして楽しいだけじゃなく必ず原理を勉強してもらいます。また、万華鏡を作って外の景色を見てもらったりもします。力学関係では、子ども達にやじろべえを作ってバランスの取り方を工夫しながら重心について勉強してもらいます。また、空気にも質量があり、その結果大気圧があるということを実感してもらう実験もあります。これは料理に使うボール2個にコックを付け球形に合わせたものです。真空ポンプで中の空気を抜きます。

仁坂知事:これは取れなくなるでしょうね。

宮永教授:そのとおり。中の空気を抜きますから外から押す力だけになります。引っ張ってみてください。人間がぶら下がっても大丈夫ですよ。 
 これをマグデブルグ半球と言います。ドイツのマグデブルグという街でゲーリケという物理学者が大気圧を調べるために実験をしたんですが、その時は両側から8頭ずつの馬が引っ張ってもなかなかはずれなかったそうです。大気圧の話をしながらこういう実験を見せるんです。

仁坂知事:これはすごいですね。子ども達は喜ぶでしょう。

宮永教授:はい。とても喜んでくれます。

仁坂知事:その時は勉強して、あぁなるほどと思いますよね。例えば光の反射の話など教えてもらった記憶はあるんですが、黒板なんかも使って入射角とか反射角とか教えるんですか?

宮永教授:黒板は使いますが、普段はそこまでは教えません。そこまでやると学校の授業と一緒になってしまいますからね。キャラバン隊の対象は主に小学生です。今学校は土曜日が休みですからPTAや学校が子ども達向けにいろいろな催しを行います。その催しに呼ばれていくことが多いです。キャラバン隊が中学校の授業として実験を行うときはもちろん入射角、反射角をきちんと教えます。

仁坂知事:学校へ行ってやるんですね。学校も自発的な楽しみを子ども達に提供しているんですね。

宮永教授:そうですね。土曜日の催しの場合、低学年から高学年の子まで年齢が混ざっているので、原理は説明しますがあまり難しい話はしません。でも、いつも子ども達には、「すごいな、おもしろいなと感動してください。そして何故そうなるんだろうと考えてください。今はその理由がわからないかもしれません。でも、大人になるまでずっと何故だろうと考え続けてください。そうするときっと理由がわかるようになります。」と言っています。ただ、実験を見せたり工作をしたりするだけでなく必ず科学的な説明を加えています。5年生や6年生は私たちの説明を理解できる子も多いです。しかし、低学年の子どもはあまり理解できないでしょう。その時理解できなくてもいいんです。なぜだろうと思ったら、それを大切にして大人になるまでずっと思い続けてくれればきっとわかると思います。自然なんかを見て子ども達はいっぱい感動しているんですね。ところがある程度大人になると全部忘れてしまって感動がなくなってしまう。自然のいろいろなものを見てもそれで当たり前になって、「何故か」ということを考えないんですね。そうじゃなくて大人になっても「何故だろう」と考え、「すごい」「美しい」と感動する気持ちを続けてほしいですね。

仁坂知事:全くそのとおりだと思います。よく「覚えさせられる」と言いますが、私は国語とか算数の世界ではそれも大事だと思っているんですが、「覚えたい」のと「覚えさせられる」のは違います。「覚えさせられる」は身に付かないし時間が経つと忘れてしまうし応用が利きません。私は先生の前で白状すると、実は物理はあまり得意じゃないんです。さっきの話も、おぉっと感動はするけれどすぐに理屈がわかるわけではないですね。そんなに好きじゃなかったので覚えてないわけです。でも生物は大好きです。あれは何だろうとか、なぜあれが生きているんだろうとか、自分で次々といろんなことを思い付いて自分で調べるから身に付くんですね。

宮永教授
宮永教授

宮永教授:人によって興味はそれぞれ違って当たり前なんですね。でも必ず何か好きなことがあるんですよね。

仁坂知事:私は昆虫採集が好きで生物がずっと好きなわけですが、同じように実験や驚きにより物理がすごく好きになるということがあるんでしょうね。そういう刺激を与えられるのはものすごく大事なことじゃないかと。びっくりさせてから「何故だろう」と教えるのと、「こうなるから覚えてこい」では全然違う気がします。教育の現場ではなかなか先生のようにはできないですよね。だからこそ余計先生方が子ども達に教えてくださっているというのは大変ありがたいことだと思います。

宮永教授:今おっしゃったように、「覚えさせられる」のと「覚えたい」では違いますよね。また、「覚える」でも「暗記する」と「わかる」で全然違います。私は学生達にはわかることが大切だと言っています。物理ではすぐ公式を暗記しようとする。公式ではないんですよね。現象を言葉で理解し、言葉で説明できるようになりなさい。それができれば公式は後からついてきます、と言っています。大抵の公式は覚えなくても自然に出てくると言っているんですが、それがなかなか難しいですね。例えば小学校で習う「速さ」でも、(動いた距離)÷(かかった時間)と式を丸暗記しているだけだと、いざ使う時に×か÷か、何を何で割るのかなどと迷います。しかし、意味がきちんとわかっていれば迷うことはないでしょう。中学校で習うオームの法則でも式の丸暗記だと混乱してきます。電流は電気という「もの」の流れ、電圧はそれを圧す力というように、現象を言葉で理解していると式が自動的に出てくるんです。こういうことをきちんと積み重ねていけば物理もそんなに難しくないんじゃないかと思います。

仁坂知事:なるほど。全くそのとおりで、子どもの頃に先生に巡り会わなかったのが残念です。先生がおっしゃったように言葉でちゃんと理解するということはとっても難しいことだと思います。言うは易しですが、本当にわかっているということはそういうことなんでしょうね。本当にわかるためにはいろんな経験をしないといけないし、本当に考えて理解して、なるほどと思うところまで勉強しないといけませんね。なかなか簡単なようですが、これができれば本当に偉いということですね。

宮永教授:式で理解するのが先か、言葉で理解するのが先かは人によるとは思いますが、最終的には両方できないといけないですよね。

仁坂知事:まあ式を前にして言葉で説明できるように覚えないと式を忘れますね。私は経済学部だったんですが、そんなに数学の才能はないんです。一般の事象を基にして、経済学は数式で覚え、理解するところがあります。数式を自分ではなかなか思いつかないですね。言葉ではわかるんですが。数学の才能のある人はなんとなく概念を理解して教科書を見ないで数式を書いてしまうということがよくありました。現象を数式化すること、これは才能、センスですね。一流の物理学者、数学者、経済学者はそこまでいかないとだめだと思いますが、何も全員が一流である必要はありません。物理の世界も理解していれば人生楽しいですからね。

宮永教授:練習が大切ですね。慣れればかなりできるようになると思います。

仁坂知事:そういうことですね。ところで、先生は教えに行って子ども達と接するわけですが、「最近の子ども達は」とよく言われますが、先生が思うようなところはありますか?

宮永教授:それは全く思いません。むしろキャラバン隊に参加してくれる子ども達はものすごく集中して聞いてくれます。小学校の授業は45分ですが、キャラバン隊の実験教室は間に10分の休憩をはさんで2時間の授業になります。ほとんどすべての子どもたちが最後まで集中して聞いていくれます。実験を見せながら話すのが良いんでしょうね。

仁坂知事:普通の学校の授業ではなかなかここまでできないですかね?

宮永教授:できれば学校でもこういうものを取り入れてやってもらいたいと思いますが、実際は材料を整えたりしないといけないので大変だと思います。キャラバン隊の活動の目的の一つ目は、子ども達やまた大人達にも、科学のおもしろさ、素晴らしさと、科学が社会で役に立っているということを知ってもらいたいということ。2つ目は教員を目指している学生達にこのような体験を通じ実践的な指導力を養ってもらうこと。3つ目は学校現場で実験をいっぱい取り入れた授業をやってもらうための役に立ちたいということです。

対談風景
対談風景

仁坂知事:少し話は違うかもしれませんが、私は和歌山県の教育でいくつかやりたいことがあるんです。そのうちの一つは刺激です。先生がやっておられるのも一つの刺激だと思うんです。単に教科書で教えるのではなく、驚きを基にして考えていくというのは一種の刺激ですよね。それから、例えば、人生を考えると、これから自分は大人になってどうやって生きていくんだろうかと。そういうことについて考えるチャンスをそれぞれの子ども達に与えたいですね。どうやって刺激を受けるかというと、今の和歌山県の子ども達にはテレビとゲーム、映画など、売られているメディアしかないような気がします。私の友人が東京で昆虫館をやっていて、子ども達は昆虫を自由に触ることができるんです。大人に対しては講演会なんかいくらでもあるわけです。テレビに出てくるような人が目の前で話していて質問もできる、そういうふうな機会がたくさんあります。和歌山県の子ども達にもできるだけそういう機会を与えてあげたい。和歌山県出身で偉くなった人、和歌山県で活躍されているような人がたくさんいるわけです。そういう人もただ黙って尊敬される人になったわけではなくて、それぞれ悩み苦しむ子どもの頃があったわけです。そういう時にどういうことを考えてやっていたのか、それが良いことなら刺激になるし、平凡なことなら逆に励みになる。あの人は特別な人じゃなく自分と同じだったんだけれど、青年になってからちょっと考えて刺激を受けて頑張ったんだ。自分だってその望みなきにしもあらずと思える。そういうふうなことを教育でやりたいなと考えています。

宮永教授:そういう機会は非常に大切ですよね。

仁坂知事:こういうのも刺激だと思うし、刺激を時々受けながら一生懸命頑張ると。何を頑張ってもいいんだけれど自分で考えて頑張る、こういうことが一番大事なんじゃないかと思いますね。

宮永教授:刺激といいますと、海南市にある県立自然博物館では学芸員の人たちはいろいろな体験を提供していますよね。

仁坂知事:あそこのスタッフは立派なもので、よく頑張ってくれています。

宮永教授:和歌山市にはこども科学館があり、たくさんの特別企画やものづくり教室が開かれていますね。大変良いですね。更に欲を言うと和歌山県にもう一ついろいろな体験ができる大きな科学館があるといいですね。

仁坂知事:私も思いますが、ちょっと財布と相談するとつらいので、今ある美術館や博物館をうまく活用して、常設でそういう体験ができるようになるといいなぁと思います。 
 ところで、和歌山県では教育で頑張っていかなければいけないと思っているんですが、先生は長年教員を育ててこられ、また子ども達とも接してこられたわけですが、和歌山県の教育についてはどうお考えですか?

宮永教授:和歌山県の教育というより、日本の教育、特に理科教育について最近思うことがあります。算数理科の学力に関する国際調査では成績が落ちてきてると言われていますが、子ども達の成績は世界のトップクラスであることに変わりありません。問題は一般市民の科学的な常識です。例えば「地球の中心は熱い」○か×か、「初期の人間は恐竜と同じ時代に生きていた」○か×かというような質問を20ほどならべて市民の科学常識を問う調査があります。OECDが調査したんですが1991年の調査では日本は13カ国中12位です。アメリカはトップです。アメリカでは学校で習ったことを忘れないようです。学校で習ったことは自分の生活、社会生活と繋がっていて、ずっと連続していくということじゃないかと私は思っています。

仁坂知事:日本は、学校で習ったことはその時は覚えているんだけれど、社会生活と余りにも乖離しているので忘れちゃうんでしょうかね。

宮永教授:そうでしょうね。2000年の調査でも日本のレベルは低いものでした。ですから、学校で覚えることは社会とこれだけ結びついている、学校で習ったことは社会に出るとこういうふうに役に立つ、そういうことを踏まえて学校で教育をするする必要があると思います。

仁坂知事:なるほどね。そうすると学校教育のカリキュラムの問題でしょうか?

宮永教授:そうですね。それと先生がそういう意識を持って話をしてほしいですね。

仁坂知事:ですから社会生活を踏まえて先生は知識を伝えていくということですね。

宮永教授:いろんな法則や現象、生物などを勉強したら、それは例えば農業とどう結びついているのかとか、私たちの食物とどう結びついているのかということを教えないといけないと思います。

仁坂知事:先生方がそこまでいろいろ教えてくださったら、子ども達はまさにその世界に住んでいるわけですから、それが解明されていくわけですよね。これはものすごく刺激的なことですね。

宮永教授:社会や日常生活、産業界とこう結びついているということがわかれば、理科というものがもっと面白くなるだろうし、卒業してからも社会に出てからも忘れないのではないかと思います。

仁坂知事:同じようなことが社会にもあるのかなぁと今ちょっと思いましたね。一般の生活の中にいくと急に、例えば経済でいうと、金融のテクニックを持っているような人は経済学の式を応用してやっているんだろうと思いますが、そういう特殊な人を除くと、何かやると当然こういう結果が出る。Aということをすれば必ずBになるわけですが、それではCは達成されないという理論的なものがあっても、得てして人というのはAも求めつつCも求める。それで思いどおりにならないとすごく怒ったり、どこかに悪者をつくって納得したりする。それは学校での学習が生きた知識になってないということなのかも知れません。

宮永教授:そうだと思います。理科教育はいろいろな現象の事実を理解するというのも大切ですが、科学的な「ものの考え方」を教えることが大切だと思います。今知事がおっしゃったように科学的なものの考え方は何も自然科学だけじゃないんです。理科でも社会科学でもあらゆるとこころで論理的な物事の進め方、科学的なものの考え方がものすごく大切なんでしょうね。あらゆる教科でこういう考え方に根ざした教育が必要だろうと思います。

仁坂知事
仁坂知事

仁坂知事:論理ということでしょうね。論理で解決できないところもあると思うんですが、多分一番基本的なことは論理できちんと分析したうえで、最終的に勇気を持って一つを選択するということだと思うんです。ところが、論理を棚上げしていきなりえいっと決めないと格好悪いという風潮があると無茶苦茶になってしまいますね。そういう意味では特に、理科や数学の先生はちゃんと勉強して、子ども達にひっくり返ってもそうなるんだよねってというようなことを体感させておくことがものすごく大事だと思います。

宮永教授:私は学校の先生方がキャラバン隊のような活動を学校の外でもやってくださったらいいなと思います。科学は日常生活の外にあるんじゃなく、その中にもあり、社会と繋がっているということを意識してほしいと思います。 
 最近、日本の子ども達は読解力が落ちていると言われていますが、8月17日の新聞に「言語力の育成に関する文部科学省の有識者会議」が、国語力は国語の時間だけじゃなく全ての科目を通じて育成しなければならない、という報告書を了承したということが載っていました。私も全くそのとおりだと思います。

仁坂知事:例えば理科において国語力を鍛えるというのはどういうことをすればいいんでしょうか。

宮永教授:現象を言葉できちんと説明できるようにするということですね。 
 和歌山県の理科教育について言うと、和歌山県はすごく頑張っていると思います。文部科学省で科学技術理科大好きプランというのをやっているんですが、その一つのSSH(Super Science Highschool)に全国から選ばれた100校ほどの高校の中に和歌山県から4校入っています。

仁坂知事:それはすごいことですね。和歌山は大体100分の1県ですからね。

宮永教授:桐蔭、海南、向陽、日高の4校が入っています。

仁坂知事:今それに入ってませんでしたが、先日紀北工業高校が国内最大級のソーラーカーレースで大学や高専チームを押さえて優勝しました。大したものだと思います。高校ではありませんが、御坊にある高等技術専門学校はロボットコンテストでものすごく強いですね。それで、一計を案じまして、子ども達にロボットコンテストをしてもらおうと。小・中・高別のロボットコンテストの体系を作って、一番上では和歌山高専に頑張ってもらって、その下で御坊で毎年小・中・高の子ども達が競い合うというようなことを考えています。今年の12月に第1回目を開催します。その際、例えばHONDAが開発した人間型ロボット「ASIMO君」を呼んだりしてみんなに見てもらおうと思っています。また、和歌山高専は準優勝だったんですが、優勝チームと大学のチームとかチャンピオングループを呼んできてその技をみんなに見てもらい、子ども達が自分たちも作ってみたい、作るためには勉強しよう、というように考えてくれたらと思っています。

宮永教授:子ども達にトップレベルのもの、本物を見せることは大変重要ですね。それと自分でやろうという気持ち、自主性を伸ばすことが大切だと思います。和歌山大学には学生自主創造科学センターがあって、学生が自主的に何かをやろうということを支援しています。これは全国でもユニークな取組なんです。文部科学省では学生教育の向上を目指す優れた取組GP(Good Practice)を支援するプログラムを実施しているんですが、このプログラムの一番最初の年に私たちの取組が選ばれました。それが終わって、今度は紀の川流域を中心として自主的な活動を地域と一緒になってやりましょうという計画を現代GP(現代的教育ニーズの取組支援プログラム)に出したところ、これも選ばれたんです。

仁坂知事:それは立派なことですね。

宮永教授:和歌山大学には自主演習という全国でもユニークな授業があって、本当に学生達がこれをやりたいといったらそれを支援してしっかりやれば大学の単位を与えます。例えばソーラーカーを作ったり、また、阪神淡路大震災をきっかけに始まったレスキューロボットコンクールに出場して大変良い成績を収めた学生もいます。

仁坂知事:学生がやりたいことを追っかけていって、それを補助していくわけですね。

宮永教授:大学は材料費、指導者の先生、場所を提供します。

対談風景
対談風景

仁坂知事:それは立派な試みですね。そうやって訓練していった学生はきっと伸びるんでしょうね。卒業したら誰でも教師がいない世界です。指導者も自分で見つけてこないといけないわけです。その時に伸びるかどうかは自主的にやる訓練ができているか否かによるんだと思います。両親や学校がちゃんと仕込んでくれるかというのもありますね。もちろんそれも大事です。ただそれだけが全てじゃない。例えば夏休みは怠けて大変と。このままじゃだめだと思って、自分で考えて自分でやることが大事です。思わなかったら、例えば受験とか考えるとひどい目に遭うと思うんですね。なぜひどい目に遭ったかと考える経験をすることも大事です。自分で考えて自分でやるということがものすごく大事だと思います。そういう意味では和歌山大学は立派な大学ですね。

宮永教授:そうです。大学は頑張っているんですよ。(笑)

仁坂知事:和歌山大学に関して言うと、私が子どもの頃は先生方が勉強するところというイメージがありました。でも先生達は地域に関心がない。地域も大学とはあまり関係ないという感じでした。しかし、最近は協力することが多くなってきています。本当にありがたいことに、ものすごく県のために役に立ってくれています。観光学部がその一つだと思います。また、いろんなところで和歌山大学が地域研究をしてくれたり、アドバイスをしてくれたり。先生方もできるだけいろいろな形で大学の外へ出ようとしています。これは和歌山にとって本当にありがたいことだと思います。

宮永教授:大学にとっても地域の方と一緒になって研究したりすることは、学生を育てていくうえで大切なことです。キャラバン隊をやってますけれど、子ども達や地域の人たちと接することで学生は大きく成長しています。教育学部には他にも様々なユニークな取組がありまして、本学部の学生が教員になる割合は全国でもトップクラスです。

仁坂知事:それだけ先生というのは面白いぞ、やりがいのある仕事だと学生が思っているということですね。

宮永教授:キャラバン隊が成立しているのも、学生が子ども達と接するのを楽しみにして積極的に参加しているからです。それから和歌山大学教育学部は県の教育委員会と8年前に連携協議会を作り連携しながら教育研究を進めています。この結びつきは全国的に見ても非常に強いものですね。

仁坂知事:そういうところは和歌山の実にいいところですね。和歌山県の魅力のひとつになりうるものだと思います。これからも地域と連携して、一体となって進んでほしいと思います。今後の和歌山大学と先生のますますのご健闘、ご活躍を期待しております。

宮永教授:和歌山県もますます発展しますよう期待しています。

仁坂知事:本日はどうもありがとうございました。

宮永教授:どうもありがとうございました。

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