県工業技術センター化学技術部長、谷口久次さん

名人対談

和歌山県には、様々な分野でそれぞれの道を究めた「名人」とも呼べる方々がおられます。このような方々は和歌山県の誇りであるとともに、その活動は県民の皆さんにとっても励みとなります。そんな「名人」から高い志や歩んでこられた人生についてお聞きし、県民の皆さんにご紹介したいと思います。

米糠を原料としたフェルラ酸の製造方法を確立し、平成15年に井上春成(いのうえはるしげ)賞を受賞された県工業技術センター化学技術部長、谷口久次さん(知事室)

フェルラ酸はポリフェノールの一種で、抗酸化作用や紫外線吸収等の機能が認められ、食品分野、化粧品分野で実用化が進められています。医療分野では県工業技術センターと国立がんセンターが共同でフェルラ酸を原料とした大腸発ガン予防物質の開発・大量合成に成功、また、血糖降下作用があることも発見されています。最近では認知症予防効果も確認されました。
フェルラ酸はバイオマス(生物資源)である農産物から入手でき、今後あらゆる分野に活用が期待される物質です。

知事:本日はお越しいただきありがとうございました。まず名人対談の趣旨を言いますと、和歌山には谷口さんみたいに立派な人がたくさん活躍していらっしゃいます。そこで、これからみんなで和歌山を元気にしていこう、こういう頑張ってる人もいるじゃないかと。こういう方を各界あちこちで発見して、県民100万人に紹介して、県民みんなに生きる力を伝えていこうというものです。

対談風景(左 仁坂知事 右 谷口さん)
対談風景(左 仁坂知事 右 谷口さん)

谷口さん:このような企画に私をお招きいただきありがとうございます。感謝しています。

知事:谷口さんというと井上春成(いのうえはるしげ)賞を受賞されていますよね。私はあまり賞のことはよくわかってないんですが、実はこれはとっても偉い賞で、県の工業技術センターの谷口さんが受賞されて、しかもそれが今和歌山県の産業で商品化されつつある。大変ありがたいことだし名誉なことだと思うんですよね。 
 ところで、その中身はというとフェルラ酸の製造方法を発見されたということですが、どうしてこの研究を始められたんですか?

谷口さん:実は、事の起こりは伊都郡かつらぎ町に築野食品工業という会社があるんですが、そこは米糠から米油を造っているんです。きれいな油を造るんですが、最終工程に真っ黒なタール状の産業廃棄物が何千トンと出て処理費に1億円程かかっていたんです。

知事:それは基本的にはどう処理していたんですか?

谷口さん:廃棄物会社にタンクローリーで持って行ってもらっていたんです。当時、もし廃棄物会社が悪いことをすると出した会社の責任になると法律改正されることが決まっていました。それで何とか処理する方法はないかと当時の専務さんが相談に来られたんです。

知事:それは何年くらいのことですか?

谷口さん:平成2年の春です。私は専務さんとは親しかったんですが、社長さんの顔は知りませんでした。私はやりますけど社長さんの顔をみせてほしいと言いました。せっかくやるんだから社長さんの顔も知らなくて仕事をやってはいけないと思ったんです。 
 我々公務員というのは失敗しても給料はもらえます。でも会社員は失敗したら給料が下がるかクビだと。それで私もその立場に立って絶壁に立つつもりで取り組みました。

知事:えらい!

谷口さん:それで社長さんが私の部下と私を呼んでくれました。そこで真っ黒な油を見せてくれるんですよ。

知事:その社長さんというのは今の会長さんですか?

谷口さん:そうです。私は当時40そこそこでしたが、偉そうなことを言いまして、「社長さん、私はとことんやるからついてきてください。絶対いい加減にはしません。」と言い切ったんです。その時私はその廃棄物を「宝物」と言いました。社長さんは宝を持っていると。一生懸命やりますと思いっきり言いました。 
 帰りの車の中で、えらいことを言ってしまったなぁ、と思いました。私は絶壁に立たされました。

知事:それはそうですね。

谷口さん:何とかしないと、真っ黒なタールの中に何が入っているのか全然わかりません。でも絶対何とかやる!と。それで一生懸命やりました。私は有機化学出身です。基本に立ち戻って丁寧に分析しました。そして12の成分を見つけました。その中で一番大切な部分がフェルラ酸でした。すべてフェルラ酸とくっついた化合物だったんです。でもそのまま取り出していたらお金がかかるんです。1つ成分を取り出したことがあるんですが、1キログラム抽出するのに100万円の薬剤費がかかりました。 
 この抽出もなかなかうまいこといきませんでした。何故ならこれは油の塊です。水溶液とは混ざりません。1ヶ月位かかって12成分を分離するところまではうまくいきましたが、それから2,3ヶ月は毎日違う条件を考えて頑張って研究しました。でも失敗の連続で気持ちが暗くなりました。社長さんには絶対何とかやると言ってますからね。あるとき、はっと「社長は宝物を持っている」と言ったことを思い出したんです。それまで私は一日に何回も廃棄物、廃棄物と呼んでいたんです。廃棄物という言葉は響きが悪いんですよね。いい言葉はないかなぁとうんうん言いながら考えました。そして未来に利用できる資源、「未利用資源」と呼ぶことにしたんです。明るいでしょ。それともうひとつ「フラスコひと振り10億円」、「きれいな美女がやってくるよ」と言いながら楽しく実験することにしたんです。 
 いつも私は朝から実験するんですが、ある日朝から会議があって昼から実験したんです。 
 実験が終われば片づけて帰るんですが、その日は翌日まで放っておいたんです。 翌朝実験室へ行ってびっくりしました。上が油の層、下が水の層と、きれ~いに二層に分かれていたんです。こんなの初めてだったんです。

知事:それで分離に成功したんですか?

左から 米糠・ピッチ・フェルラ酸
左から 米糠・ピッチ・フェルラ酸

谷口さん:そうです。あのときは水と油どちらにも混ざるものを混ぜたらいいんじゃないかと思ってアルコールを少量添加したんです。しかも安いイソプロピルアルコールを使いました。なぜそんなことに気づかなかったのかなぁ、と後になって思いました。コロンブスの卵ですね。分離には成功しましたが、その当時お米の成分はたくさんあるに違いないと思っていたんです。でもオンリーワン、フェルラ酸だったんです。フェルラ酸をこんなに大量に採れるのは世界で初めてでした。すごい技術になってしまいました。

知事:フェルラ酸は元々どういう物なんですか?どんなふうに採って、何に効くとかどんな価値があるとか?

谷口さん:実はフェルラ酸の使い途は全くわかっていませんでした。トマトとかタマネギの中にほんの少しあるだけで、見つけただけで論文になったんです。

知事:その物質を見つけただけではそうならないような気がするんですが、何か意味があるんですか

谷口さん:抗酸化作用があることだけはわかっていましたが他のことは全くわかっていませんでした。ましてやこんなに大量に採れるなんて。これはうまくいったと思いました。 
 7月ぐらいから始めて12月に成功して、早速築野食品に報告に行きました。皆さんに集まっていただいてこの話をしました。すると目をキラキラ輝かせて聞いてくれている女性がいるんですね。今の社長です。

知事:そうですね。

谷口さん:当時の社長が工場を造ると言ってくれたのにはびっくりしました。私は発明しなかったらよかったのにと思いました。というのも売れるかどうかもわからないのに失敗したらどうしようと。トン単位で採れるのはわかりましたが、ものすごい責任でしょ。非常に嬉しい気持ちと売れなかったらどうしようと。

知事:まあそれは社長の責任ですよ。(笑)

谷口さん:そのとき勉強させてもらいました。我々は発明はします。それを売れるようにするには、どんな機能を持っているのか研究してあげないといけない。でないと売れません。 
 当時慶應義塾大学の非常に有名な先生とお会いしたとき、「谷口さんはフェルラ酸を産んだんだから育てないといけない」と言われました。それで育てなきゃいけないと思ったんです。

知事:発見するだけじゃなくて使い途も谷口さんがいろいろと提案したんですかどういう使い途がありましたか

谷口さん:まず、化学式を見て、化学式に惚れに惚れました。

知事:「化学式を見て惚れる」というのもおもしろい言葉ですね。(笑)

谷口さん:これはすごい化合物だと。一つは抗酸化作用を持っているからガン、糖尿病、老化など病気に効くに違いないと考えました。もう一つは紫外線をカットする作用を持っていることがわかったんです。「お米は偉い」と思いましたね。

知事:お米は偉いですか。いろいろありますね。

谷口さん:お米に太陽の光は必要です。紫外線は太陽光全体の5~6パーセントですがそれでダメージを受けます。それから守る機能を備えているのがフェルラ酸です。また、空気中の酸素によって酸化されるのを防ぐ、それもフェルラ酸の機能です。その2つの機能を持っているお米って賢いなぁと思いました。
 当時はお米だけだと思っていましたが、調べてみると木やいろんな植物にフェルラ酸があることがわかりました。我々はたまたまお米からトン単位で採ることができました。だから使い途を考えてあげないといけない。 
 実は、抗酸化機能を利用して、発ガン予防や糖尿病の研究を丁寧にやっていこうと細々とテストしてたんです。そのうちに当時科学技術庁の3億円の科学技術振興調整費、競争的資金に応募しました。普通は公設機関は応募しないそうなんです。そこで書類審査でベスト8に残りました。ものすごく嬉しかったです。それで喜んでヒアリングに行くと控え室でガックリしました。

知事:競争相手は高名なプロフェッサーばっかりだったんでしょ。

谷口さん:そうです。東大とか東京工大とか京大の教授ばかり。しかも学会の会長をされているような方ばかりでした。田舎から出て来てるのは私たちだけでした。当時の所長にもうだめだと。3番以内に入らないとだめですからね。

知事:そうそう。

谷口さん:所長にここまできたらとにかくやってみろと励まされました。本当にガックリ来てたんです。

知事:よくあるケースですね。

谷口久次さん
谷口久次さん

谷口さん:ヒアリング会場へ行くと、審査委員長が東大の森総長でした。とにかく総長先生めがけて私の哲学を一生懸命に訴えました。フェルラ酸は昔は石油からつくることができました。お米からできるのは世界で初めてのことです。当時は今ほど環境のことが言われていませんでした。石油・石炭はいずれなくなると。農作物から永久にできるということは未来の産業になると言いました。今でも覚えていますが、総長先生が手を挙げて「これはすばらしい!」と言ってくださったんです。

知事:総長先生も興奮されたんですね。

谷口さん:私も興奮しました。嬉しかったです。

知事:それで合格したんですね?

谷口さん:3番以内に入りました。

知事:科学技術庁の資金を受け用途開発をされたわけですが、その結果何ができたんですか?

谷口さん:一つは大腸発ガン予防物質、これは国立がんセンターと一緒に研究しましたが世界で初めてです。それから紫外線吸収作用を利用した化粧品を築野食品などと共同で研究し、すでに厚生労働省のポジティブリスト※に載せてもらいました。紫外線カット剤です。

 ※ポジティブリスト…化粧品に使用できる紫外線吸収剤等の成分を定めたもの

知事:今でも使われているんですか?

谷口さん:はい。日本発のポジティブリストはフェルラ酸だけです。

知事:3つめは何ですか?

谷口さん:もう一つはタマネギの発芽調整です。昔は発芽調整に発ガン物質のあるものが使われていました。でも、フェルラ酸でできることがわかりました。

知事:まだ何かありますか?

谷口さん:もう一つ、今糖尿病の予防に利用できないかと和医大の南條先生と共同で研究しています。

知事:それでフェルラ酸の製造は築野食品さんがやってますよね。じゃあ応用分野は今誰がやっているんですか?大腸ガン予防についてはメーカーか何かが薬を作らないといけないですよね。

フェルラ酸の利用展開
フェルラ酸の利用展開

谷口さん:それは薬事法の関係があるので商品としてはまだなんです。

知事:2番目の紫外線吸収機能についてはどうですか

谷口さん:それは色々な会社が化粧品として使っています。

知事:もう使っているんですね。3番目の発芽調整機能についてはどこかの会社がやっているんですか

谷口さん:これは農薬法がありましてまだどこもやってないんです。

知事:どこかの会社でやってくれるといいのにね。糖尿病予防は研究中ということですが、県内の企業で製品がどんどん作れるといいですね。

谷口さん:今年度都市エリア事業に採択されまして和歌山市の新中村化学さんが高分子用の紫外線吸収剤を作ろうとしています。アーケードや車のプラスチックは紫外線に弱いですからね。

知事:それをコーティングしておけばいいわけですね。それは面白い。フェルラ酸を造るだけじゃなくてどんどん用途が広がっていきますね。

谷口さん:お菓子の方も企業が入って研究しています。糖尿病患者はおやつを食べたくなるらしいんです。食べたら駄目と言われるとストレスになる。食べても血糖値が上がらないような、しかも、合併症を起こさない。そんなおやつをつくろうとしている。患者は1200万人もいるわけですから可能性は大きいですね。

知事:研究所の近くに工場進出してくれたらいいですね。そうでないと技術を売ってやらないとか、是非言って下さい。(笑) 
 そうした研究をされて井上春成賞に繋がったわけですね。この賞はどういったものなんでしょうか。

谷口さん:これには実は条件があります。まず論文がいる。私たちはアメリカとイギリスに論文を出しています。学者と企業が必要です。学者の方は全く新しいことを発見して論文を出す。しかもそれが新聞やテレビに取り上げられるようなものであることが必要です。さらに新しい技術で会社がそれを事業化している。そうしたものに与えられるものです。この賞の受賞は実は以前は大企業と旧帝大クラスの先生ばかりだったんです。

知事:地方の工業技術センターでは初めてのことですか

谷口さん:中小企業ではそれまでなかったんです。私たちが受賞したときに中小企業にも与えるという条文を加えてくれました。そのときの委員さんの一人の先生が私のことをよく覚えていてくれたみたいで、関西に来られたときに神戸で一緒に食事をしましょうと呼んでくれました。一体どんなところを評価をしてくれたんでしょうと伺いました。そのとき先生はフェルラ酸は石油代替となる。大きな意味で環境にも寄与する。いろんな方法で使える。是非育ててくださいよとおっしゃってくれました。

知事:ところで、井上春成さんとはどういう人ですか。

谷口さん:井上さんは工業技術庁初代長官だった方らしいです。

知事:今の工業技術院の長官ですね。

谷口さん:これ、もらっている人はすごい人ばかりなんですよ。もらって私の方がびっくりしたんです。ノーベル賞候補者みたいな人ばかりです。

仁坂知事
仁坂知事

知事:谷口さんもそのうちノーベル賞に当たるかも知れませんよ。今までのノーベル賞の例では、例えば別にフェルラ酸を研究されている方が海外にいて、日本人も偉いがその外国人も偉いということになれば可能性はあると思います。

谷口さん:実は私今、アメリカ化学会とイギリス化学会の論文審査員をしてます。今も糖尿病の血糖値を下げる論文審査をしています。また韓国では認知症を研究している人がいて、メカニズムはわかりつつあります。フランスやイタリア、タイ、中国など世界中で研究が進んでいます。

知事:谷口さんは工業技術センターに奉職されているわけですが、センターに来られるまではどんなだったでしょうか。

谷口さん:実は私は卒業後はアメリカのアラバマ州立大学に行くことになっていました。しかし父から家を継げと言われたんです。生まれは高野口町なんですが、家には御先祖様もあるし田んぼもあるし。

知事:修行にだけ行ってきますとごまかさなかったんですね。

谷口さん:それはできなかったんです。父はものすごく嫌がりました。母は許してくれていたんですが、何週間も迷いまして、最後はやはり父の言うとおりにしようかと思ったんです。当時鮮明に覚えているのは大学院の教授から「君は親孝行なんだな」と吐き捨てるように言われて席を外されたことです。教授に叱られて、それはショックでした。

知事:せっかくアメリカで修行すると決まっていたのにお父さんは家から谷口さんを離さなかったんですね。

谷口さん:父は私を手放すことを嫌いました。伊都高校から大阪府立大学へ行ったんですが、ずっと家から通ってました。高校の先生に父が叱られてました。なんでもっと別のところに行かせないんですかと。家業は染色工場で、それを継げということです。工業試験場でも始めは染色を研究していました。

知事:お父さんとしては、それを勉強させておいて、いずれ家業を継がそうと、そういうことですね。

谷口さん:当時はあまり面白くなくて父に文句ばっかり言っていました。実験器具も何もなくて、なにせ水を飲むコップで実験していたんです。 
 しかし就職して3年経って父が亡くなりました。奇遇ですがその日に化学部に人事異動になりました。有機化学は自分が元々やりたいと思っていた。これからやるぞと、日本一有名な研究所にしようと本当に思いました。

知事:それで今日に至るわけですね。

谷口さん:そのころ、30代の後半ですが、通産省の競争的研究費で4億5千万円の研究費をもらったんです。いろんな人にお世話になりましたが地域フロンティア事業です。それは本当に一生懸命やりました。それで体をこわしてしまいました。フェルラ酸を発見したのはその後です。大病をしたんでだいぶ沈みました。でも飛び板で跳ねるようなものです。少し沈んだけれどもすぐにそれまで以上に精神面で元気になった。人生を考えたんです。自分の人生は良い人生にしなければいけない。それは自分で作るんだと。後輩には自分で良い人生を作って欲しいんです。僕は自分でやってきました。ここには機械も何もなかったけれど何とか入れることができたし、これからもそういうふうに頑張っていこうと。この研究所を立派にすることができたと思っています。申し訳ないんですが和歌山県にはお金が足りません。センターにある化学系のかなり多くの器具は私が入れたんです。日本自転車振興会資金等を獲得して何千万という機械も導入することができた。今ではどの大学にも負けない日本一流の設備を誇る研究所になった。

知事:実験に使う機械はどんどん古くなります。自転車操業的に頑張り続けないといけないです。谷口さんは後輩を育てるとおっしゃいましたが、先日工業技術センターに伺ったときには元気な若い人が多いなと感じました。県の試験場でこんなに活力あるところはそうはたくさんないことだと思いましたよ。

研究室にて
研究室にて

谷口さん:化学技術部の人達にだけですが、とにかく良い人生にしてほしい。そのためにはこうしなさいと言ってます。私の右腕となって働いてくれる職員がいました。毎日午前5時半に帰る。月曜はしんどそうにしている。多分百姓を手伝っているんだなと思いました。しかしそれでは研究できません。ちょっととんでもない話ですが、親に百姓させるなと電話したんです。子供には子供の人生がある。私は博士号を取らせたいと思っている。お父さん、百姓は自分でして下さいと言いました。

知事:それは無茶苦茶ですね。

谷口さん:そしたら息子は任せますと言ってくれました。それが応えたみたいです。私の呼び方が「谷口さん」から「先生」に変わりました。「よっしゃわかった」ってなもんです。私は大学の客員教授もしています。部下でもあるし先生と生徒の関係です。フェルラ酸の研究をしてもらって、それで二人、博士号を取らせました。鍛えました。仕事には厳しいんです。

知事:よし、県庁でも鍛えてやろう。(笑)それから、もう一つとてもいいことですが、和歌山県の工業技術センターは民間の人と一緒に歩んでいますよね。研究所で博士号を目指して研究していると学問の世界に閉じこもりがちです。中小企業なんかに目もくれないところがあります。中央省庁にいても同じです。高邁な政策論や経済学の発信みたいなことをして、偉い大学の先生と話をして数式なんかを見ているわけです。そういうことをしていると実態は見えてこない。企業の人の考えていることにはあまり関心がない。その意味でいつも民間と一緒にやってきたことは偉いと思うんですよ。

谷口さん:東京一極に集中している中で和歌山にいる企業は地元で頑張っています。我々はそういう企業を支援しなければいけない。築野食品は従業員が180人から350人になっています。雇用が増えるわけです。地元で働ける。経済、教育問題、介護問題いろいろあるけど、親子孫3代住めてすべてに繋がる。企業あっての我々です。

知事:昔からそういう土壌にあったんですか?

谷口さん:昔はぱっとしない研究所でしたが企業と共に歩んできていました。 
 でもレベルを上げないと会社はついてこないですね。

知事:特に和歌山は元気な企業は多いんです。規模は小さいんですが世界シェアも結構高い。もともと化学工場はたくさんありましたが昔と比べて今もその数はあまり変わっていません。その間に大きな時代の波をくぐっているわけですから染色で昔から同じことをしているわけではないですね。思えば化学産業の立派なところと工業技術センターの立派なところは軌を一にしているところがあります。

谷口さん:最初は染料顔料から始まってIT産業に変わっている。企業も変わっていますから我々も変わっていかなければなりませんね。引っ張っていかねばならないですから。ずっと勉強は続けないと。

知事:あとは電子、電気とかメカ。それから農林水産物。どんどん頑張ってもらいたいですね。企業はどんどん出てきてます。経済産業省の元気なものづくり企業300社に6社選ばれている。和歌山県は1パーセント県ですから6社は大健闘ですよ。

谷口さん:私は12社のうち6社に関係させてもらってます。

知事:今でもどんどん来ていただいてると思いますが、引っ込み思案でいるのではなく、どんどん相談に来て欲しいですね。

谷口さん:本当に今日知事さんとお話しできることは夢のようなことです。

知事:私もそう。ノーベル賞を取るかも知れない方ですから。(笑) 
 でも地位ではありません。中身です。人は人柄です。谷口さんもこの廃油を見て宝物と言ったり、そういうスタイルでやってきたことが良かったんだと思いますよ。多分ちょっとの運はあるんでしょうけど。私は実は昔学者になろうとしたんです。ただし、すぐ向いていないと思った。わりと効率的にやってしまう。やっていて駄目ならあきらめるタイプです。でも学者はしつこく、まっすぐ進んでも間違っていても何かを見つける。私には向いていないと思って役人になりました。正解。(笑)

谷口さん:今日は知事さんと話をさせていただいて私の一生の宝になります。良い人生と思っています。後輩にもこんな経験をしてもらいたい。こんな人がたくさん増えて欲しいと思っています。

知事:そうですね。これを読んでくれた人が、自分の人生を宝物にするようにこれから頑張ってくれたらと願っています。今日はどうもありがとうございました。

このページの先頭へ