知事からのメッセージ 令和4年10月3日

新型コロナウィルス感染症対策(その92)-政府の制度改正に伴うリスクの軽減-

 令和4年9月8日、岸田総理がコロナ対策のうち保健医療行政に関する制度改正を発表し、新制度は9月26日から施行されることになりました。それ以前、全国知事会の要請を受けて、8月24日、岸田総理が、それぞれの県の方針で、コロナ患者のいわゆる全数把握を廃止して、高齢者や病気のある人など重症化リスクの高い陽性者のみを報告の対象とし、残りは保健所などの公的機関への報告をしなくてもよろしい、としてもよいという決定をされてから、今回の決定はその続きということになります。今回は都道府県の任意ではなく、全国一律にそうするということなのです。
 

 そもそも、これは何じゃということを理解している人は少ないと思われますので、制度の背景から説明しますと、以下の通りです。まず、コロナは感染症法の新型インフルエンザ等感染症の2類相当ということになっていまして、コロナの陽性を確認した医療機関は保健所などに必ず報告をしなければならないと定められています。その報告は、厚労省の作ったHER-SYSというシステムへ入力を要しますが、この入力事項がやたら細かく、入力は原則的に医療機関など陽性を発見した者が行わなければならないので、これは大変な負担になっていると言われていました。医療機関は患者の命を守ることが本務なのに、こんな報告に多大の時間を要していては本務に力が割けないではないかということです。しかし、考えてみたら、そもそも入力の項目が多すぎるのをまず簡単にしたらいいのにと誰でも思うことを最近までやってこなかったし(6/30簡素化)、入力を現場の医師にやれと命ずる代わりに、医師の労力軽減のために誰か別の人ないし組織がこれを肩代わりしてやれば済むことではないかと考えるのが当然の流れであると思います。そういう工夫をしないで、大変だ大変だと特に感染症法の元締めである国や県が騒ぐのは、そもそもそういう人たちの職務怠慢か想像力の欠如だと私は思います。現に和歌山県では全数把握のおかげで大変だ、不都合が起こっているぞという声はありませんでした。何故ならば、さっさと県が工夫して、保健所に生のデータを出してもらえば、面倒な入力は保健所で肩代わりします、それも保健所の職員が疲弊しないように保健所業務支援センターという組織を位置付けて、入力は専門業者が行っているので、問題は生じていませんでした。むしろ問題は、全数把握の廃止を無理にやると、クリニックなどコロナ対策に協力してくれている人々に迷惑がかかり、新型コロナ患者の入院を受け入れている病院の入院調整がしにくくなってしまうという問題が生じることなのです。何故ならば、新型コロナの陽性患者を発見してくれたクリニックは、それまでは保健所に報告しておけば、その後のその人のケアは保健所が行ってくれていたのに対し、保健所に届け出ないこととなって、その患者さんが診察時は軽症であったので自宅療養をしていたらその後悪化したとき、その人を入院させるかどうかを判断し、入院の手配をしないといけないことになりますが、全体を見ていないクリニックの先生方がそんな責任を負わされたってできるわけがないということになるからです。入院調整は大変です。病床には限りがある上に、特にICU、HCUなど命の危ない重症者の命を守るための病床は特に限られており、誰を入院させるかのトリアージは本当に難しいからです。感染症法がなく、保健所のないヨーロッパなどで、新型コロナの初期のころ、入院調整がうまくいかなくなって死ぬ人が続出したことを、その映像とともに覚えておられる人がいるでしょう。和歌山県の保健医療行政はこの困難な仕事を全部引き受けて、何とかやりくりをしてきたのですが、それが保健当局に情報が入らないとできなくなるということが、お分かりになることと思います。
 したがって、和歌山県は8月24日時点の任意の時は、全数把握を続けるという立場を維持しました。あれだけ全国知事会で多くの知事が全数把握の廃止を叫んだのに、政府の決定があった時直ちに全数把握をやめると決断したのは、全国知事会の意見を集約して政府と渡り合った鳥取県はじめ4県にすぎません。(後で少し増加)あれだけ皆で主張して平井会長に全数把握廃止の代弁の労を取らせた多くの県はどうなっているのかと私は思いました。(鳥取県は、和歌山県のように、全数把握でも何ら不都合なく日常的な業務を果たしていたのですが、全国知事会を代表して全数把握廃止を政府に要求した手前、自らが全数把握をやめないと示しがつかないと、廃止に踏み切ったのは気の毒でした。)このように多くの県は自らの意思で全数把握を続けていたのです。しかし、どういうわけか9月8日に岸田総理が下した決定は全国一律の全数把握(全数届出)の見直しでした。
 いつも情報をいただいている東京大学名誉教授の黒木登志夫先生は「総数把握は疾病対策の基本。総数把握が医療逼迫の原因のような乱暴な議論が専門家会議と政府から出てくること自体が驚きで、総数把握が困難なら、その原因を探り、改善することが専門家の責任である。簡略化とデジタル化で問題は改善される。」と言われ、また「総数把握をやめた5つの県では実効再生産数も年齢別感染者数も出せない状況になっている。」と指摘しておられます。

 また9月8日、もう一つの決定が行われました。それは入院期間、隔離期間の短縮です。それまでは、症状のある人は発症から10日間、無症状の人は検査をした日から7日間の隔離(療養)期間が課されていました。政府はこれをそれぞれ7日と5日(検査陰性の場合)に短縮しました。
 確かに今回の第7波のオミクロン株BA.5はものすごくうつりやすい一方、重症化する人はかなり少ないということがわかっているので、不必要に長く行動の自由を制約することは正しくないし、病床数が不足する中で入院者の回転率を上げようという気持ちもわかります。しかし、和歌山県で観測をしている限り、10日の療養期間が過ぎて退院した人でぶり返してまた病院へ舞い戻った人もいるものですから、大丈夫かなあという心配があります。また、療養期間が過ぎた人の中にはまだ人にうつす可能性のあるウイルスを体内に持っている人がかなりいることがわかっており、厚生労働省のデータでは発症後8日目でも16%もいるということになっていますから、このような人が療養期間が終わったとして自由に活動すると、他の人にうつす可能性が高まることが懸念されます。

 これらの点について、和歌山県は懸念を持っておりましたが、政府の決定は絶対です。何故ならば、和歌山県で保健医療行政として行っている措置の権限は感染症法で与えられているわけです。隔離とか入院の措置とかは人が嫌がることを強制しないといけません。そういう強制の権限は法律によって付与されていなければ行使することはできません。その権限付与の法律である感染症法の有権解釈権は政府にあるわけですから、それに反することを県独自でやろうとすると違法ということになります。例えば、療養期間を超えても退院をしてはいけない、外出は禁止だ、家から出るなということを強制することは一種の監禁罪にあたるでしょうか。したがって政府の決定通りしないといけないのですが、以上のようなリスクがあるので心配は心配です。
 その際、私が一番怒ったのは、政府の分科会の尾身茂会長が、政府の決定があった9月8日にTVで会見をして、「この措置にはリスクがあります。リスクがないかと言われたらあります。だから政府はリスクがあるということを国民に十分周知されたい。」と言ったことです。
 私がその時思ったのは、「リスクがあるというのなら、そのリスクをどうすれば極小化できるかを考えて、政府に実行させるようにするのが、専門家の役割ではないか。それを政府の決定に反対もしないで、リスクがあるからそれを国民に言えと政府に言うだけというのは、いったい自らの立場をなんと心得ているのか。」ということであります。だから私は大変怒っていました。

 しかし怒っているだけで、和歌山県民の命のリスクを放置したら、私たち和歌山県庁も同罪です。しかし、それではいけないので、和歌山県は、政府の決定内容は法律事項だから従うとして、その上で次のように考え、9月26日から実行しています。

 まず全数把握が廃止されますので、陽性者のうち、従来通り、保健所に報告されるのは、高齢者や病気の方など重症化リスクの高い方に限られます。残りの方々は医療機関を受診して陽性となった場合、新たに設けられる陽性者登録センターに登録するか、陽性を自主検査などで認識した人が自ら同センターに登録することになります。しかし、その陽性者登録センターに登録された人もいつ症状が悪化するかわかりません。その時でも、若くて健常な人は高熱が二日ぐらい続くだけで軽快するのですが、中にはリスクの高そうな人もいて、そういう人が悪化すると重症化して命の危険が生じる可能性があります。したがって陽性者登録センターはそういうリスクのある人の情報はあらかじめ保健所と共有しておきます。そして、病状が悪化して、どうしようということになった時、そういうリスクがある人から、リスクの程度に応じて保健所がトリアージをして、入院調整をするという方法を採用したのです。ややこしいのは病院に救急搬送をされた人が新型コロナ陽性であるということが発見された時です。この時の操作は複雑ですので図を見てください。

PDF形式を開きます01_救急受診後の情報提供(PDF形式 188キロバイト)

 次に療養期間の短縮ですが、その対象者の一部にウイルスがまだ残っていて人にうつす確率が高い人がいることは前に述べたとおりですが、オミクロンBA.5がこうも流行っていては、そういう潜在的感染者予備軍が世間にいっぱいいるということでしょうから、陽性が顕在化した人の療養期間だけを全部について延ばすということはやりすぎでしょう。
 しかし、もしその対象者が病院の関係者だったり、高齢者福祉施設等の従業員だったりしたら、彼らの出勤によりそれら施設に新型コロナが引き入れられ、そこにいる高齢者や、病人にうつった時のリスクはとても深刻です。したがって、これは法律に基づく命令ではありませんが、そういう施設に新型コロナが入り込まないよう、対象者は従来通りの期間が経過しないうちはそういう施設に立ち入らないよう、従業員たる対象者とその使用者である施設側の双方にお願いをすることにしました。これで高齢者や体の弱い人の安全はかなり守れると思います。
 これらの和歌山県の対応とお願いは、図示すると次の通りです。

PDF形式を開きます02_全数届出の見直しに係る対応とお願い(PDF形式 840キロバイト)
 

 和歌山県は、県民に対して尾身さんと同じでいいわけがありません。県民の命は実際の行動、工夫によって守らなければなりません。したがって政府の決定に伴って生じるリスクを避けるため以上の工夫をして県民の命を守ることにしました。

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