知事からのメッセージ 令和3年10月11日

知事からのメッセージを紹介します。

令和3年10月11日のメッセージ 

新型コロナウイルス感染症対策(その76) トップランナー方式

 トップランナー方式という概念があります。国などが補助金を出したり、税優遇を与える際に、国などの政策目的に一番かなう対象機器やシステムを対象として、その購入、設置などに助成をするといった考え方です。
 

 近年、経済産業省が、この考え方を導入して様々な助成に利用し始めています。最近では、他の省庁にもどんどん広がっているようです。
 

 一例を省エネルギー政策にとってみましょう。社会全体で省エネを進めるためには、省エネにすぐれた製品を普及させ、これを消費財なら消費者、資本財なら企業に購入し、使用してもらわないといけません。そこで、まず、同じような機能を有する製品を作っている企業にその製品の省エネ性能又は将来達成する予定の省エネ性能を申告してもらって、それの上位に対して、様々な優遇を与えよという制度を作りました。テレビで宣伝している乗用車の省エネ性能などがこれで、そういうものを購入した消費者に国から補助金が出たり、トップランナー基準を満たさなかった企業には一定の不利益処分を課する等の対策を行います。こういうやり方は何がいいかと言いますと、企業が省エネをよりよく達成したら得だから、省エネ対策に力を入れようというふうに動いていくことが期待されることです。努力したら報われるという、当たり前ですが大事な思想がここには含まれています。企業活動も、人間生活も、どっちへ向いて、どれだけがんばろうかという動機付けが重要です。動機付け又はインセンティブが世の中をよくしていく方にうまく設定されている事が行政でも上策であります。
 

 新型コロナワクチン対策においてもそうです。その各様相において、よい成果を出している所は、偶然そうなっているわけではなく、血の滲むような努力をそれぞれがしていることがそれを呼んでいるわけであります。しからば、そのようないい成果を上げている所の方法を成果が上がっていない所が真似て、努力すれば、全体の成果が上がるはずであります。新型コロナ対策はまさにそうで、和歌山県では大都市に通勤通学している人が多い近傍県ですが、他より感染者数を抑え込んでいますが、そのための保健医療行政による積極的疫学調査を、保健所が疲弊しないよう気を配りながら、頑張ってやり通しました。自宅で放置されて亡くなる人が出ないように、病院の病床数を増やして、とうとう最後まで全員入院を堅持しました。

 このようにうまくいっている所は他にも及ぼせばいいわけですから、関西広域連合では、各県それぞれの工夫、ノウハウをお互いに公開していいところは真似できるようにしています。全国の情報が手に入るはずの国こそ、こういう各県の対策をきちんと集めて、分析し、成果との兼ね合いで、専門家の見解も聞きながら、きちんと評価してトップランナーを定め、成果を上げていない県に対して、改善を助言すべきなのではないでしょうか。あるいは、トップランナーの県には資金面で優遇をするとかのご褒美も与えると、対策をよくしようというインセンティブがさらに強くなるでしょう。

 しかし、そういう動きは、国において、特に厚生労働行政の中でまったく見られません。むしろ、感染も拡大し、陽性者の処置にも問題があって、患者があふれ、亡くなる人も出ている大都会の状況を追認するような見解を示し、制度を変えていったような気がします。無症状者、軽症者を原則自宅療養とするという指導方針の決定は、感染者をフォローすることができなくなった東京都の現状を正当化または追認するような意味しかなかったんじゃないかと私は思っています。
 

 ワクチンも同じです。和歌山県はワクチンしか決め手はないと考えて、県、市町村で連絡協議機関を作り、意見交換をし、助け合い、一部難航していた医師の説得などをものすごく努力をして行って強力な接種体制を作りました。そのため、高齢者の接種が始まるや、直ちに接種率全国一になりました。この調子で突っ走って、高齢者の次の一般接種も全速力で駆け抜ければ、コロナの収束には最も効くはずだと思ってやってきました。接種しようにも打ち手の医師がいないなどと言っている他の自治体もあって、それが接種の遅れのまっとうな原因であるかのような報道が毎日のように流されましたが、我々は、「何を言っておるか、自治体がどれだけ努力して医師を説得して体制を組んできたのか。打ち手がいないなどと言っている所はそれをさぼっただけではないか。」と思っていました。しかし、接種率日本一ということは、配分は、人口比でしたから、在庫減少率日本一の県なわけです。これでは努力して成果を上げたトップランナーを罰することになると、時のワクチン担当の河野大臣に直接働きかけました。「このまま和歌山を突っ走らして下さい。そうすれば、8月、遅くとも9月には希望者全員に打ち終えます。そうしたらもう配分はいりません。だからまず早く打っている所に配分して下さい。そうしても他の県の分を取るわけではありません。そうやって突っ走っている県があったら、他の県も発奮して接種が速くなるでしょう。」というわけです。そうしたら、すぐに和歌山県をはじめ先行5県には多く配分を下さいました。これぞトップランナー方式なのです。「努力すれば報われる」のです。
 

 ところが、その後風向きが変わり、和歌山の配分が随分少なくなり、各市町村で接種スピードを緩めざるを得なくなりました。さらに一番ひどいと思ったのが令和3年8月5日に厚生労働省から来た通知です。以下の通りです。
 

1 ワクチンの割り当ての考え方について
 

 第13クールから第15クールにおいては、各都道府県で12歳以上人口の8割に2回接種できるために必要な量から、これまで配送したワクチンを除いた量のファイザー社ワクチンを基本枠として配分する


 

 手っ取り早く言えば、接種スピードの速い先行県には、ぐずぐずしていた県と接種の最後を合わせるために配分をうんと少なくする。待っておれです。これは本当にひどい。接種スピードが速いのは偶然ではありません。全県を挙げて接種体制を作るために努力したからです。しかもワクチンの早期接種は国策で、総理はじめ要人が各県に強力に発破をかけたものなのです。国策に協力して一番努力したものを急にストップさせて一番不面目に追いやり、感染縮小への努力に水を差すのか。これぞトップランナー方式と真逆のボトムランナー方式で、最大の誤りだ、そう思って私は河野大臣に激烈に抗議しました。それが効いたのかどうか、政府からは調整枠と言って追加配分があり、ちょうどそれまでの平均ぐらいの配分になるようにしてくれました。

 しかし、あのようなことを平気で行い、その旨堂々と考え方を通知してくる政府の誤りを私たちは忘れてはなりません。正直者がバカを見ては正直者がいなくなります。努力する人が損をしたら誰も努力しなくなります。日本が日本でなくなります。努力する人が報われ、社会全体を良い方向へ導くべきだと信じます。

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