知事からのメッセージ 令和3年3月8日

知事からのメッセージを紹介します。

令和3年3月8日のメッセージ 

新型コロナウイルス感染症対策(その57) -がんばれ首都圏-

 1月8日から実施されていた、新型インフルエンザ等対策特別措置法(特措法)に基づく緊急事態宣言は、首都圏だけは予定の3月7日をもっては終了せず、2週間の延長になりました。宣言が行われていた他の地域は、コロナの感染者数もどんどん減り、比例して病床の占有率もかなり減って、2月28日をもって宣言が解除されていましたので、3月7日をもって宣言が解除され、もう少し自由な生活と少しは稼げる営業が許されるかと期待していた首都圏の人々は、さぞがっかりされたかと思いますが、このことは同時にその他の地域を含む日本全国をがっかりさせました。なぜなら、感染が低く抑えられている主として地方の各県でも、12月の首都圏を嚆矢(こうし)とする感染の爆発と、GoToキャンペーンの中止、政府による首都圏を筆頭とする11都府県を対象とする緊急事態宣言、そして、感染の急所として飲食があげられ、毎日のように飲食店の危険性がメディアで流されるに至り、地方の生活も経済もガタガタになってしまったからであり、そういう地方の人々は自らの地域では随分と収まってきている感染が首都圏も含めて早く収まって、全国的に生活や経済が戻ってきてくれないかなあと一日千秋の思いで待っていたからです。


 この延長に際して、菅総理など政府首脳も首都圏知事も、この2週間の間に全力で感染を抑え込むのだという決意を露わにしておられますが、ではどうしたらよいかという戦略はいかにと思う次第です。どうもメディアの報じ方を見ていますと、相変わらず、住民への自粛の要請とそれがあまり効果的に受け止められていないといったものばかり目につきます。「気の緩み」、「自粛疲れ」といった言葉が報道で飛び交っていることがその表れです。でも、私は違うと思います。
 首都圏における行動や営業の自粛のレベルは強化されていませんから、いくら首都圏の都県民が「気の緩み」を排して、気を引き締めて行動を自粛しても、今までとそう変わる訳ではなく、このまま2週間経ったとしても、あまり状況に変化はないのではないかと恐れます。そうすれば、宣言は解除できなくなり、首都圏の住民や企業ばかりか全国民の生活や経済が立ち直れません。


 ではどうすればよいか、さすがに政府は気づきました。今回の延長の前後で政府が総理大臣や大臣の記者会見などによる意向の表明を別として、明らかに違う政策に踏み切りました。それは私がずっと言い続けてきた保健医療行政の立て直し、又は積極的疫学調査の再建であります。特措法ではどの地域を緊急事態の対象とするかの宣言は政府の仕事ですが、そこでどういう対応をするかという緊急事態措置は都道府県知事の仕事です。ただし、政府はその中味を基本的対処方針によって影響力を与えようとするのですが、その対処方針が今回の延長に際して、1つだけ大きく変わりました。

それは「クラスター対策の強化」として、

  • 積極的疫学調査の対応強化
  • 変異株への対応も踏まえ、感染源の推定のための調査を強化
  • 保健所業務の外部委託の活用等により、保健所の体制を強化し、感染拡大時に即応可能な人員体制を平時から整備

と定めたことです。
 これは、遅まきですが、政府の大ヒットであると思います。
 私が見るところ、そしてついに政府も認識を新たにしたところによれば、首都圏、特に東京都と神奈川県は、日本の他の県と比べ、極めて保健医療行政又は積極的疫学調査への傾倒が特異的に弱体であると思います。日本には感染症法という、便利で、コロナの流行といった時には極めて有効な制度が、それがほとんど欠如している欧米に比して、元々あって、これが機能していれば、コロナの流行はある程度抑えられるということは、明らかであります。実際に地方の各県は、これを知事以下県庁が一丸となって、必死になって頑張ったからでしょうか、感染は、全国とともに消長したものの、首都圏に比べ、より抑えられ、特に最近の収束ぶりは顕著です。
 とは言え、感染の流行が進んでくると、保健医療行政の力をはるかに凌ぐ感染者が発生し、とても完全にはその積極的疫学調査が及ばなくて、現場がパンパンの状態になるのを各県とも経験したところです。しかし、首都圏以外は、大変な気力と努力で、最後までこの対応を死守したのに対し、例えば神奈川県では積極的疫学調査の中心である濃厚接触者の感染の有無を調べるPCR検査を、症状のない人は感染者の家族と(驚くべき事に)COCOA関係以外はしなくて良いという通達を県内傘下の行政部局、保健所に対して下したのでした。東京都はこれほどはっきりしませんが、陽性者の重症化リスクの把握に重点を置くという臨時対応を発表して同旨の対応をしました。忙しくて手が回らないのは責められないということは当然としても、それと、もう感染者を追わなくても良いと指揮官が命令するとでは大違いです。追わなくて良いというのは感染者は自由に移動しても良いということですから、感染が拡がる事を防止することは諦めたということです。そうしながら、一方で都県民に自粛しろと言って迫るのは、どういうことか。私は和歌山県の知事で、保健医療行政といえども行政ですから、その行政に甘くても良いぞと言いながら、クライアントである県民に自粛せよなどとは絶対に言えません。
 首都圏が他と比べて、コロナの収束スピードが遅いのは、このせいだと考えるのが当然ではないでしょうか。でも主として東京から発信されるメディアがずっと報じ続けているのは、感染を止めるのは、住民の行動を止めるしかない、それが不十分だから中々感染が収まらないということで、このトーンでいつも発言される大都県の知事さんの発言や感染症の専門家という人々の発言がクオートされます。
 そして、そういう考えに影響されている人は、首都圏で感染が止まらないのは人口が多いからで、人口密度の違う田舎のようにはいかないよというふうによく発言されます。しかし、田舎でも何十万人という人が固まって住んでいて、ある場合は和歌山や奈良のように、大阪のような大都市との交流がものすごくある所だって、ほとんど例外なしに顕著に感染拡大を抑えているではないかということをどう説明できるのでしょう。さらに、保健医療行政に力点を置きつつ、県民の生活と経済には本格的制限を加えないで、感染拡大防止は保健医療行政で対応するという方針を堅持していた和歌山などで、感染者が減ったことをどう説明できるのでしょう。
 また、仮に田舎は田舎と百歩譲ったとしても、同じように感染爆発に悩んだ京阪神が、首都圏に比べて加速度的に感染者数を減らしたことはどう説明をするのでしょう。
 京阪神は、確かに一時大変な感染拡大に悩んだけれど、崩壊しそうになる保健医療行政をリーダーが一時たりとも軽視することもなかったし、手を抜いてよしと言ったこともなかったということは、側でハラハラしながら見ていた私はよく分かっています。和歌山と違って、例えば大阪は大都会ですから、東京都の小池知事ほどではありませんが、その一挙手一投足はメディアの報じるところとなる吉村知事も、首都圏の知事と違って保健医療行政と病院体制の強化をずっと発言し続けてきたと私は思います。
 我々が参加している関西広域連合では、各府県が行っている保健医療行政分野での工夫をその都度報告し合って経験の共有をしています。みんなで力を合わせて頑張ってきたのです。


 今、日本全国の最大の関心は、首都圏でコロナが収束に向かうかどうかということです。収束に向かわせるには、保健医療行政の立て直ししかありません。過去、不十分であったことの科を責め立てても今は仕方がありません。政府も対処方針の変更で舵を切りました。保健医療行政は行政ですから、100%知事の責任でどんどん出来ます。都県民はそうはいかず、言うことを聞かない人が居るのが当然ですが、行政は言うことを聞かない人が居るなどという言い訳は知事には出来ません。
 是非大至急保健医療行政の体制を立て直し、弱い部分の強化を図ってもらいたいと思います。減り方が鈍いとは言え、ひと頃に比べると感染者が減ってきたので、立て直しには良いチャンスです。
 さすがに東京都や神奈川県もかつて行った積極的疫学調査の「臨時対応」や「簡略化」を修正するという方向に舵を切ったようであります。

 しかし、「臨時対応」や「簡略化」の前が十分であったかというと、そうではないから、あのような大爆発を招いたのですから、以前より、頑張って強化して欲しいと心から願います。ではどうすればよいか。そんなに難しい事ではありません。日本人は、困難に陥ったときは他に学ぶことになっているではありませんか。それに不振の時は基本に立ち返ることになっているではありませんか。まず感染者の早期発見、早期隔離と感染者の徹底的な行動履歴調査を行って、また、その先に早期発見、早期隔離を繰り返していくことでしょう。また、このコロナという病気の性格上、小さくテリトリーを区分された独立の保健所で出来ることには限界があります。だから都道府県レベルで保健所の統合ネットワークを作って、県に指令部を作って機能させるのが基本中の基本でしょう。さらにあの県は上手くやっているな、成績が良いなと思うところのやり方をよく研究して、真似をすればよいと思います。保健所が大変なら、他を動員して補うテクニックなど、各県は皆苦労しながら工夫してやっています。一例を東京都にとって申しますと、東京都は他の府県や政令指定都市の関係に比して、特別区に対する都の権限はずっと大きいのに、保健所だけは、区が独自に運用していて、その運用の中身も報道などで知る限りかなり違うようです。私も東京に住んでいましたからよく分かりますが、都民のかなりの割合の人は区をまたがって毎日生活をしています。その時、区だけで感染者を追って囲い込みをして感染の拡大を防止するなんぞ、できっこないのは子供でも分かることだろうと思います。また、患者を入院させる病院についても区内の病院だけで最適な入院調整が出来るはずがありません。病院にもそれぞれの特色があり、コロナ患者を各ステージ毎に仕分けして入院させるべきタイプの病院が東京全体で考えるのならともかく、区内にワンセットなどあるはずがないではありませんか。また、力の強い病院が、東京都の言うことならともかく、区の言うことを聞いてくれるとも思えません。和歌山県でも県の各地の保健所と和歌山市の運営する保健所がありますが、それぞれの地域だけでのコロナ患者の入院調整なんかできるわけがなく、全部県庁で行っています。また、関西広域連合の各府県も、大阪市や神戸市、京都市といった大都会が府県内にありますが、すべて府県単位の入院調整センターを持っています。強力な小池都政がこの統合システム化にのり出し、積極的疫学調査に全力を挙げて取り組めば、すぐに目に見えるような結果が出てくると私は思います。
 そして、その仕事を知事さんたちがやりやすいように、あるいはそっと仕向けてあげるためにも、メディアも住民の自粛ばかりを強調しないで、この保健医療行政が行う、積極的疫学調査と病床数拡大努力の重要性を報じるべきではないでしょうか。政府も対処方針に書いただけでなく、親切な支援とその旨の積極的発信に心がけるべきでしょう。


 がんばれ首都圏。我々地方も含めた日本全体の再生は、ひとえに首都圏の行政にかかっています。

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