知事からのメッセージ 令和3年2月25日
知事からのメッセージを紹介します。
令和3年2月25日のメッセージ
新型コロナウイルス感染症対策(その54) 一番苦しいことと今すべきこと
コロナの流行も全国的に少し落ち着いてきて、緊急事態宣言の解除の是非が議論されるようになってきました。
和歌山県も、ようやく感染者が減ってきて、ここのところ1~2人の日が続き、ついに2月21日、22日の2日間は感染者が出ませんでした。それまでも、減りかけては、病院、保育園、福祉施設とクラスターが出て、懸命の感染拡大防止努力をしても10数人の感染者が出てしまうという日々が繰り返しましたので、このまま感染が収まってくれればと願うばかりです。
これまで1年余り、コロナとの苦闘してきた者として、私が一番苦しかったのは、万全のケアにも関わらず死者が出てしまったということはもちろんのことですが、あまり県民に行動や営業の自粛を求めず頑張ってきたことです。そして、そのために、保健医療行政に携わる県庁の内部部局、各保健所の職員にずっと負担をかけてきたことです。また、これに呼応して、コロナ病床を有する病院の関係者や一般の医療関係者、応援に行ってくれた看護師や保健師の方々にずっと負担をかけてきたことも本当に心苦しく思っています。
コロナは怖い病気で感染しやすいわけですから、人々の恐怖もひとしおです。皆コロナに感染したくないわけですから、これをシャットアウトするためのあらゆる努力を行政に求めます。行政も第一波の時の緊急事態措置のように、多くの業種に休業要請を出して、人々に外出を避けるようにして、人と人との接触を出来るだけ絶つようにしてしまえば、行政は十分な対策をしていると自分にも思わせることが出来るし、コロナへの恐怖心でいっぱいの県民の方々にもとても好感を持ってもらえるのは必定であります。事実、第二波、第三波の時も、多くの県では当局はそう動き、知事の多くもそうアピールしていたと思います。
しかし、これをやって、人々の接触を抑え込んだらどうなるか、我々は4月以来の経験で本当は十分に分かっているはずなのです。和歌山県では、21日間続いた春の緊急事態宣言の時だけでおおよそ1200億円の経済的損失がありました。国も救済に動いてくれたし、県も最大の支援に動きましたが、融資を除くと年間で530億円ほど、もし21日にすると30億円にしかなりません。「たかが経済を止めたぐらい何だ、命の方が大事だ。」という事が正しくないことは、それによって起きる生活苦や、失業、病気の進行など健康の悪化、精神の不調、学業の遅れ等々がすぐに想像できなくて、「経済より命の方が大事だということが分からないのか」などと言っていた人も、最近ようやくテレビで、営業不振の生活苦や、自殺の増加、癌などの病気の発見の遅れなどが報じられるにつれ、これが容易ならざる事であることを自覚するに至っているに相違ありません。
したがって、初夏以来、和歌山県はコロナの感染拡大防止対策は保健医療行政でやる、生活と経済に悪影響を及ぼさないように人々の活動と営業活動には出来るだけ制限を課さないようにする、という方針を鮮明にしてやってきました。
もちろん、これだけは最低限という13項目を県民の皆さんに守ってもらうようお願いをしてきましたが、恐らく47都道府県の中で、一番緩い制限しかしていない県ではないかと思っています。その代わり、コロナの感染拡大防止対策を一身に担ってもらった保健医療行政に携わる人々と医療関係者には、1年間ずっと大変な重荷を担ってもらってきたのです。このトップの県福祉保健部の野尻孝子技監はこの1年間全く1日の休みもなく働いてくれていますし、その部下の県職員も交替しながら少しは休んでもらっているといえども、大変な思いを強いてきたわけであります。コロナに携わる病院関係の方々も、ずっと気の休まらない生活をしていただいているのです。もちろん、私としては、働け働けというのは趣味の悪いことですから、応援や代替要員の手当、PCR検査のための施設や設備の強化、待遇の改善などをやってきましたが、それでも苦労をかけていることへの一端でしかありません。
それに、このような政策体系を採用すること自体私にとっても大変なプレッシャーです。人と人との接触を出来るだけ少なくさせた方が感染が少なくなるのは論理的に当たり前ですから、そこをぐっとこらえて保健医療行政に頑張ってもらうというのは、本当に苦しいことなのです。
でもそうしないと和歌山がもっとひどいことになるというのがこれまた論理的に分かっているので、そうしているのであります。従って、いつもヒヤヒヤで、感染が行政や医療のキャパシティを超えてしまったらどうしようかと常時考えている日々でありました。そうなったら県民の皆さんに、保健医療行政で全力を尽くして、感染爆発を防ごうとしていたがかなわなくなった、申し訳ないが、生活と営業を自粛して助けてくださいと頭を下げながら頼む気でいました。幸い今のところ、和歌山県では、このシナリオを崩さないで済んできましたが、他所の感染が余りにもひどいので、和歌山の経済やこれに伴う生活も大変な影響を受けてしまうことになりました。せっかく苦しい思いをしながらやってきたのに、どうしてくれるんだ、という気持ちです。
鉄壁の保健医療行政とあまり制限をしない生活と経済という政策選択は、秋までは上手くいっていたのです。感染もパラパラと出ますが、その都度、保健医療行政当局が上手く囲い込み、全員入院の十全な健康管理をする一方、秋頃には、例えば観光客数は県内各地一部を除き軒並み(コロナのなかった)対前年比でも増という状況まで回復させることに成功していたのです。しかも、外国人がほぼゼロ、団体客が激減という中ですから、収入は結構あったと思います。
ところが、首都圏で抑えられなかった感染が次々爆発して、京阪神などに飛び火し、それが更に全国にどんどん拡がって、とうとう菅総理が断を下して、一部地域に緊急事態宣言が出るに及びました。和歌山県でははっきりとGoToの利用による感染事例は見られないのに、GoTo 主犯説のような説をメディアも専門家も盛んに唱えたためでしょうか、和歌山でも回復していた観光客も一挙に急減し、連日メディアを通してアナウンスされる「流行の急所」(尾身分科会長の言葉)飲食店に対する需要も激減してしまいました。
東京など感染拡大地のみならず、全国の人々も(それほど制限的なお願いをしていない和歌山県も含め)かなりの行動の自粛をされたお陰で、感染はこのところようやく減り始め、冒頭申し上げたように緊急事態宣言の解除をすべきかどうかという議論が起こるようになっています。
しかし、このまま解除すると必ずいつかリバウンドが起きます。あまりの感染の勢いに皆脅え、医療現場の逼迫と、人々の行動の自粛だけに、政府もメディアも、人々も目が向いていますが、本当にこうなったのは自らの責任分野に問題があったからではないかと考えなければならないはずの一部の自治体が、敢えてそれからは目を背けている感があるうちは、コロナをある程度抑えつつ、生活や経済を立て直すことは論理的に出来ないと言わざるを得ません。
ではどうすれば良いかというと、感染の大爆発を招いてしまった地域で保健医療行政を立て直すしかありません。
私は、感染が再び拡大しそうになった頃の感染拡大地のトップの方が住民に対して、行動の自粛を呼びかける以外に何のメッセージも発しないのを見て、自分に直接責任が有り、自分で努力すればかなり強化できるはずの保健医療の行政分野にどうして目を向けないのかなあと思っていました。あれだとまるで流行らなくなったお店があっても悪いのは客だけだと言っているみたいなものです。住民にお願いをするより前に、あるいはそれと同時に保健医療行政を強化しなければなりません。ただし、するにもテクニックがいります。でもそれは、他県の成功例や自らの失敗例や、疾病自体の病理学的特性を考えれば分かるはずだし、分かったことは、行政のことなのだから、全部地方の行政のトップが命じたら出来るはずなのです。でもそれもこれも、あまりにも感染者が増えて、手遅れになってしまっては、中々難しいことは分かります。そういう時に、もっとやれ、責任をとれと言って責め立てるのは、人情にもとります。他の分野では、仕事が大変すぎて機能不全になった行政に、メディアは厳しい批判を投げかけますが、この分野には、責め立てるような論調がないのはなによりだと思います。
しかし、今はあまりにもフォローする感染者が多すぎて十分な対応が出来ていない保健医療行政も、感染者が減ってくれば、対応を強化する余地は出てきます。体制を立て直し、これまで弱かったところを補強し、人員を増やし、機能をコアーかアンコアーかに分けてアンコアーなところは果断に県庁の他の部局や民間に再配分し、少なくなった感染者を徹底的にフォローして感染を抑え込まなければなりません。昨年の今頃政府が盛んに言っていた積極的疫学調査の再強化です。
和歌山県でも一時一日24人という数の感染者が判明した日もありましたが、3つ同時に発生したクラスターに対し、徹底的に行動履歴調査とPCR検査をして囲い込みに奮闘しました。和歌山市の保健所が特に集中して忙しくなったので、市の他の部署の保健師さんの動員はもとより県当局、他の保健所、看護協会などが応援に入り、皆で乗りきりました。それはもう必死です。ここで囲いきれなくて、感染者があちこちに散ったら、大都市で起きているような感染の爆発が次に必ず待っているからです。
やらなければならないことは決まっています。感染者の早期発見と早期隔離です。そのためには感染者の行動履歴の徹底調査も不可欠です。そこで分かった濃厚接触者に対し、PCR検査をして陽性者の早期発見につなげるということです。それでなければ、このうつりやすい病気を止められません。また、保健所任せにしないで県単位で保健所の統合ネットワークを作っておくことです。食中毒などと違って、これはウィルスが感染者の通勤や社交とともに移動します。あちこちに濃厚接触者が発生します。それを1つの保健所でやれというのは無理な話です。入院調整も同じです。小さな地域(例えば東京の特別区のような所)で限られた管内病院だけで入院調整など出来るわけがないではありませんか。大都市でも大阪府はじめ関西の府県にはこの機能を担う部署がちゃんとあります。病院も感染者が少しずつ減ってきた時こそ、病床の再編と拡大、補助手段としてのホテルの確保などをしておくべきでしょう。和歌山県は2月の済生会有田病院の感染の抑圧で名声を得た後、病床数を32から最大400まで増やす体制にしました。それで今回の感染拡大で苦労しましたが全員入院を貫徹できたのです。
また主要病院には、70分で+-が判定できるPCR装置を標準配備しています。陽性者が分からぬうちに院内に入ってしまわないようにするためです。更に今、私が「一人PCR」と勝手に言っている遺伝子検査装置をコロナに限らず入院患者がいる全ての病院に配備し、その他の病院や福祉施設には抗原検査キットを配備することにしました。その施設にウィルスを持ち込まないようにするためです。
和歌山県の事ばかり書きましたが、主として地方圏にあって、コロナと知事以下総動員で闘っている県では事情は同様であろうと思います。しかし、神奈川県などでは保健医療現場が大変だからということでしょうが、濃厚接触者は家族等以外はPCR検査で追わなくて良いという通知を出しました。東京都もこれに近いのではないかと推測されます。これでは、感染は永久に収まりません。人々の活動抑制で感染者が減少傾向にありますが、その自粛を少し緩くすれば、すぐ感染のリバウンドがあるだろうというのが論理的帰結です。なぜなら感染の疑いのある人がどんどん自由に移動しているからです。大阪をはじめ関西では、テレビを見ているだけでも、この面で色々対策を強化するという知事の発言がよく聞かれます。「まだ人通りが落ちないので」としか言わない首都圏のリーダーとは違います。
緊急事態宣言下の各地ではどこでも感染者が減りつつありますが、首都圏と京阪神で減り方のスピードに差があるのは、このように保健医療行政の頑張りの差があるのではないでしょうか。
既に述べたように必死で積極的疫学調査に頑張って、感染を抑えている地方の県にあっても、首都圏などの感染がまた復活すれば、必ず、影響を受けます。万一受けなかったとしても、辛いことに地方の経済は東京など大都市の影響下にあります。東京がいつまでも感染を抑えられないなら、地方の経済が好調でいられるはずはありません。このような事態に、ついに島根県の丸山知事は怒りの声を上げられたのだと思います。
重ねて言いますが、私の見るところ、関西の京阪神の各府県は、確かにコロナの圧倒的な力のもとに負けて、感染が拡大してしまったかもしれませんが、積極的疫学調査を放棄してしまったわけではありません。レベルを下げてよしとリーダーが言ったわけではありません。それどころか、各知事は困難で身動きが取りにくい中で、少しでもこの陣営の強化になるように次々と保健医療行政の工夫をし、それを発信しています。関西広域連合でも、お互いに良いところ、上手くいったところの工夫は参考にしようという意図のもと、詳細に工夫の経験を出しあって共有しています。和歌山県でもコロナ拡大防止で当県より更に成績の良い鳥取県や徳島県で行っていることで、当県が抜けているところはないかなどいつも勉強をさせてもらっています。
私は、京阪神の知事が望むなら、政府は緊急事態宣言の対象地域から外してもいいと思います。何故なら保健医療行政が積極的疫学調査を頑張って感染経路を追求しているからです。しかし、首都圏では、もし、そうしようとした時は、必ず、積極的疫学調査の強化を条件とし、これを見届けてからにしてほしいと思います。
政府もそのことを是非発信して欲しいと思います。メディアもこの事が大事だと是非気がついてほしいと思います。そのためには、影響力のある専門家の方々の働きに期待したいと思います。