知事からのメッセージ 平成30年8月31日

知事からのメッセージを紹介します。

平成30年8月31日のメッセージ

台風20号と七川ダム

 和歌山県は7年前の9月、台風12号による紀伊半島大水害で大変な被害を被りました。死者、行方不明者61名という大変な犠牲も払いましたが、県を挙げて協力してこの被害から迅速に立ち直り、奇跡的なスピードで復興を果たすことができました。
 和歌山県では、この大水害を教訓として、様々なシミュレーションをし、最新のテクノロジーの助けも借りて他に類を見ない防災対策を充実させてきました。

 あの大水害の時、とっさに編み出した復旧復興の新手法や動員方法は、その後、常設、常備軍化して、格段に防災力が上がったと思います。

 その和歌山に8月23日から24日にかけて台風20号が襲いかかりました。その進行ルートはあの7年前の台風12号とまったくそっくりで、台風が四国を抜けるわけですから、その東側に当たる紀伊半島、和歌山県には、台風に吹き込む南からの水蒸気がどんどんぶつかり、大雨が降るというあの時の悪夢がよぎります。ただ救いは、前回の台風12号が四国上空でほぼ3日間停滞したのと違い、今回の台風20号は時速35~40kmで北上したということでした。したがってものすごい大雨が降るとしても、数時間それに耐えたら、雨も風も抜けてしまうという期待もできました。

 しかし、最悪のコースに変わりはないので、我々和歌山県は身を引き締めて、台風に備えました。その1つがダムの水の事前放流です。ダムは、大雨の時、そこに水を貯め込んでくれます。流入量がものすごくても、流出量を制限して、下流の川の氾濫を防いでくれるわけです。

 私が知事に就任して間もない頃、ダムが無駄な公共工事の筆頭のように言われ、近隣の県でもダム建設が中止となり、ダム中止を叫ぶ知事達がマスコミの英雄となり、それは危険だと抵抗する時の地方整備局長は極悪非道の大悪人みたいに叩かれて、私は正論を吐いているのに、気の毒だなあと思っていました。その後の民主党政権の時に地方公共団体のダムも見直せという声が高まり、すべてのダム建設を白紙から見直してその結果報告せよという指令が政府からありました。和歌山県でも切目川ダムがちょうど建設直前で、これに対する中止圧力が随分あったのですが、何回も水害の被害に遭っている切目の人々の気持ちも痛いほど分かっているし、どう考えても科学的に見てこれは絶対に必要だという結論が出るものですから、ダム悪者論のあの時の「風」に必死に抵抗して、この構想を守り切りました。その後しばらくして紀伊半島大水害の時、またしても切目地方は、切目川の氾濫に遭うわけですから、あのダム建設死守は、歴史がその正しさを証明してくれたと思っています。今はダムも完成し、かなりの雨でも前のような氾濫は起こらなくなっています。昨今のように度々の大水害を各地がくらうようになった時、マスコミもいわゆる世論もダム悪者論など忘れてしまったかのようです。その時ダム反対の英雄となり、結果として、住民の安全を守る術を放棄したり、その完成を遅らせたりした人はどう言い訳するのでしょう。その責任を今どうとるのでしょうか。

 そのダムは本来災害時の治水機能を持っていますが、昨今のあまりの大雨により、その治水機能のリミットがオーバーしてしまうような事が各地で起こっています。前述したようにダムの操作によって、大雨が降った時、ダムの流入量と放流量に差をつけるのですが、そうすると、その差分だけダムの貯水量が増えていきます。大体はものすごい容量がとってあるので、ちょっとぐらい貯水量が増えて、ダムの水位が上がっても、ダムが溢れることはありません。しかし、昨今は現にそれが起こってしまっているのです。
 紀伊半島大水害の時は日高川の椿山ダムでそれが起きました。今年7月の西日本大豪雨の時も広島県や愛媛県のいくつかのダムでそれが起こったと記憶します。ダムに容量いっぱいに水が貯まったらどうなるか。ダムはそうなると流入量と放流量を一緒にして放水せざるを得なくなります。そうすると、それまでダムが放流量を抑えてくれていたおかげで氾濫を免れていた下流にそれまでの流量の何倍もの量の水が流れていくことになりますから、あっという間に下流は壊滅的な打撃を被ります。それが7年前日高川流域で、そして今年広島や愛媛で起きたことです。その損害の程度たるや目を覆うような状況となります。

 このような事態を少しでも避けるためには、台風が来る前にダムの水を予め放流して、水位を下げておくことが考えられます。現にどこのダムも、皆これをマニュアル化して行っていると考えます。しかし、かなりの数のダムはこのような治水機能とともに、利水機能も持っています。とりわけ少し大きいダムは発電を行っている場合が多く、そういう意味で複合機能ダムなわけです。発電をするのは電力会社で、これは正当な営業行為ですから、通常のダム操作マニュアルでは、ダムの水を予め放流する際は、この利水用に確保されている水は考慮されません。ここは利水のベースとして確保されていて、治水機能は、上部にある水だけで行うということが行われていて、それはある意味まっとうな考えです。

 でも現にダムのオーバーフローが起きた以上、和歌山県は、このまっとうな考え方に挑戦する挙に出ました。大水害の直後発電をしている関西電力の当時の八木社長に特にお願いをして、非常事態が予見される際に県から特に要請をした時は、発電ができなくなる水準まで水位を下げる事を了承してほしいとお願いをしました。八木社長はこれを快諾してくれました。考えてみれば、当然の権利である営業を停止してくれと私が言っているわけですから、よくOKしてくれたなあと思うのですが、快諾してくれました。人々が大変な危害に遭う災害を避けるためという、人道的に極めて立派な立場に立って下さったものと感謝をしています。

 その後6年間、この要請は危機が迫るごとに行われ、今回の台風の前まで、既に35回も電力を止める形で水の放流が行われ、人々の安全を守ってきたのです。今回の台風20号の際も和歌山県は、関西電力にお願いをして各ダムの水位を下げる放流を行いました。古座川の上流部にある七川ダムもその対象でしたが、ここは、ちょうど工事のため発電を止めていて水位がぎりぎりまで下がっていたのです。そこに8月23日から24日にかけて、台風20号の大雨が襲いました。前述のように、今回の台風はスピードが速いし、前よりはより万全の体制を取っているので、まず、大丈夫だと私は思っていました。台風接近とともに、局所的ではありますが、古座川地方などに記録的な大雨が降ったという報も入り、熊野川や古座川の水位も危険ラインまで上がっているという報にも接しましたが、七川ダムのコントロールセンターは、大規模な氾濫を避けるために放流量のコントロールをやってくれているので、そのうち台風が抜けるだろうから、まず最悪の事態は避けられるだろうなと思っていました。
 ところが和歌山市で猛烈な風が少しおさまり、台風も抜けたかと思っていた23時半ごろ、河川管理の最高責任者県土整備部長から連絡があり、あと30分で七川ダムがいっぱいになり、いわゆるただし書き操作(流入量と放流量を同じとせざるような事態)をせざるを得ませんので、この旨古座川町と串本町に伝え、あと30分のうちに避難の徹底をしますという報告を受け、跳び上がりました。

 そこからは両町長、振興局に住民避難の徹底を頼むという電話をかけまくりつつ、ダムの状況が県庁ホームページで逐一分かりますから、それを見ながら何とか雨が早く上がれ、流入量が減って最悪の事態が回避されますようにとひたすらお祈りをしていました。もちろん避難勧告や指示は出ているわけですが、どうしても避難してくれない人はいます。このただし書き操作による放流の前は、ダムが最悪の事態を防いでくれていたわけですから、それで安心して自宅にいる人たちに、この放流があればそれまでの何倍もの水量が襲いかかることになります。これはあの紀伊半島大水害の再来だと本当に心の底から震撼しました。
 結果は、雨が早期にやみ、流入量が徐々に減り、ダムがいっぱいになる時間が刻々と後ろ倒しになり、それでも徐々に上がっていった水位が午前5時ごろを境に下り始めたのでした。
かくして古座川一帯は最悪の事態は避けられ、救われました。本当によかったと思います。

 後で分析をした所によれば、仮に七川ダムの水位が通常の最低水位、すなわち発電を続けられるレベルの水位にあったとしたら、七川ダムは、ただし書き操作によって、流入量に等しい放水を余儀なくされていて、下流の一帯は大変な被害に遭っていたということが判明しています。
 今回の七川ダムは修理のための自発的水位低下という状況であったとはいえ、あの時県が関電に協力してもらって非常時の緊急事前放流の制度を作っておいて本当によかったと思います。

 しかし、このような対応によって、かろうじて最悪の事態を避けられたとはいえ、あのような短期間の雨で、極限まで水位を下げていた七川ダムがすんでのところで一杯になりかけたという事実は残ります。自然の猛威は凄まじいものがあります。したがって、和歌山県では、今回古座川を救った特別措置の成功に安住するのではなく、もっとやるべき事があるのではないかという検討に入っています。
 例えば、ダムに流入が多くなり始めた時から、下流が氾濫する限度に近い所まで放流量を増やして、ダム容量の確保につとめ、満タンになる時間を少しでも稼ぐといったことはできないか等どんどん考えていこうと思います。
 人の命は限りなく重いものです。災害時でも命が失われることがないように、考えること、やれることはやり尽さなければなりません。
 また、もちろん7年前の紀伊半島大水害の時とは比べものにならないものの、各地で甚大な被害が出ています。住居の損害はもちろん、観光、農業はじめ局所的ではあるかもしれないが、産業活動にも大きな影響が出ています。和歌山県は県をあげて、このダメージからの回復を図らなければなりません。
 とりわけ、川から温泉の出る大塔川の川原に面した川湯温泉の被害は甚大です。一日も早く、旧に復する復興ができるよう和歌山県はさっそく支援政策を整備しました。被害に遭った施設の再建のため、立地助成金と同様の再建支援を準備する等、前回の紀伊半島大水害の時と同じような制度を早速作り、国からの支援も要請していくつもりです。

 幸い今回は、被害は局所的でした。和歌山県の大部分の産業、観光地は無傷です。元気な人々が精一杯働き、傷を負った人々の回復を急ぎましょう

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