知事からのメッセージ 平成22年9月

知事からのメッセージを紹介します。

平成22年9月のメッセージ

平成22年9月

エルトゥールル号(その2)

 目の前に背広の襟につける徽章があります。白に赤い十字の救命ブイの中に錨を挟んで右側に旭日旗、左側にトルコ国旗が描かれています。エルトゥールル号の遭難から120周年を記念して行われた「トルコにおける日本年」の諸行事のうち、最も大事な9月2日のエルトゥールル号120年慰霊式典に参加する和歌山県代表団のバッチとして、ずっと昔から作られていたデザインのこのバッチが採用されました。和歌山から約200人の代表団が、このバッチをつけてトルコの地中海沿いの港町メルシン市で行われたこの式典に参加しました。(メルシン市はエルトゥールル号の慰霊碑がまつられている港町です。)中でも、我々県と串本町の議員や職員を除く180人余の人々は、志に準じて自費で参加下さった民間の人々であります。

 あの120年前の嵐の夜も我が和歌山県の串本町樫野の人々は、危険を顧みず、且つ、なけなしの衣類や食料を献じてエルトゥールル号の乗組員を助け遺体の収容に尽力しました。トルコはこの恩を決して忘れません。そして、イラン・イラク戦争の渦中のテヘランでとり残されそうになった日本人を救うため、危険を顧みず2機のトルコ航空機がテヘランに飛んで来てくれました。日本トルコ両国の友情はあの120年前の串本で始まったのです。

 そして、この友情を確かめるために計画された慰霊式典に、少なからぬ費用を払ってまで、多くの和歌山県民と県外のゆかりの方々が参加して下さいました。単に観光地で楽しむだけでなく、国と国との友好と県の名誉のために、大勢の方々が参加して下さったのです。暑い中、港近くの慰霊碑の立つ広場での式典に参加して下さったり、浴衣や和装も色とりどりに、パレードで日本とトルコの国旗を振って、メルシン市の「串本通り」を行進して下さったり、大活躍でした。

 この1日前、9月1日に、2年前串本町にも来て下さったギュル・トルコ大統領が私や県議会議長や串本町長などをイスタンブールで公邸に呼んでくれました。大統領は、2年前の串本の思い出がとても良かった、特に沿道で子ども達がトルコの国旗を振って出迎えてくれたのが忘れられないと言っておられました。そして私が、今回はまた、メルシン市で行われる明日(9月2日)の慰霊式典に和歌山からボランティアで180人の民間の方々が来て下さったのですよと紹介すると、大変感じ入ったようで、皆さんによろしくとお伝え下さいとの事でありました。また、私と田嶋町長から、今日本からトルコへの観光客が大いに伸びている機をとらえて、トルコ航空機の関空便の増便をトルコ航空に対してお願いしているという事と、エルトゥールル号とテヘラン救出劇の2つをテーマにした映画を作ろうとしているので、助力を賜りたいという事を述べましたところ、特に映画については協力を惜しまない、何でも言ってくれというお話がありました。

 外交は外交官の働きだけでできるものでも、首相や外相のパフォーマンスでできるものでもありません。我々日本人の全てがあずかって外交の力を形作っているのです。日本とトルコの関係がとても良好なのも、全てはあの120年前の嵐の夜の串本から始まっているのです。そして、それを引き継いできた日本とトルコの友情の歴史に和歌山県の官民合わせて200名の代表団は、また新しい1ページを書き加えてくれたと思います。これを記念して串本町とメルシン市の姉妹都市関係に加え、新たに和歌山県とメルシン県も姉妹関係を作ろうではないかと先方のハーサン・バスリ・ギュゼルオール知事と約束しました。メルシン県は、美しい海洋リゾートと古代ローマ以来のすばらしい歴史遺産と果樹を中心として豊かな農産物に恵まれた、まさに和歌山県とピッタリの地です。経済発展も著しく、特に元気な地域のような観がありました。和歌山県も120年前に始まった日本トルコ友情の歴史にさらに参加して、日本とトルコとの友好関係の増進にさらに貢献していくことになるのです。その功の多くは、ボランティアで参加して下さった和歌山使節団の善男善女に負っています。串本の樫野にある慰霊碑と全く同じ形のメルシン市の慰霊碑の中に永久にしまわれるであろう記念記帳簿に私は次のように書いて残してきました。

 私は、和歌山県知事として、120年前に私達和歌山県の祖先が、 行った献身と示した善意に誇りを持つ者であります。

 同時に、120年間の長きにわたり、この悲しくも美しい物語を忘 れ去ることなく語り続け、串本に、和歌山に、そして日本に対し尽き せぬ好意と愛情と感謝を示し続けて下さったトルコ国民に対し、心か ら尊敬の念を抱く者であります。

 そして、我々日本国民もまた、あの戦乱迫るテヘランにとり残され た日本人同胞のため、トルコ航空機を救難に派遣して下さったトルコ 政府とトルコ国民に対して、感謝と敬意を1日たりとも忘れることは ありません。

 真の友情は、困難の時にこそ顕れる。120年前のエルトゥールル 号の悲劇によって始まった日本トルコ両国の友情は、この地球が続く 限り、永遠であります。

 2010年9月2日     和歌山県知事 仁 坂 吉 伸

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