知事からのメッセージ 平成21年3月 反省
知事からのメッセージを紹介します。
平成21年3月のメッセージ
平成21年3月25日
「反省」
県では、前知事逮捕の後を受けて、前知事の汚職の場となった公共調達制度を見直して、昨年6月から新制度を実施しています。私が就任してすぐ、今ではマスコミなどですっかり有名になった郷原桐蔭横浜大学法科大学院教授を委員長とする公共調達検討委員会を作り、その報告書は、平成19年5月にすでにできていましたので、どうして実施に1年もかけたのかと皆さん思われるかもしれませんが、それはこの世になかったような新しい制度に移行するのだから、周知期間も必要であるうえに、いろいろと副作用が出てはいかんし、ここは段階をおって考えを公表して、事業者の方々の意見を聞きながら積み上げていこうと考えたからです。すなわち6月に新公共調達制度を発表しました。9月に新業者評価制度(案)を公表し、11月に発表。20年2月には公共工事に係る委託業務(設計・調査・測量)の条件付き一般競争入札制度(案)について公表、4月に「公共調達制度改革について」ということで、建設工事に係る新業者評価制度の格付けの決定、地域要件の決定や建設工事に係る委託業務の条件付き一般競争入札について発表させていただきました。
その都度、業者説明会をしたり、パブリックコメントにかけたりと、とても慎重に行いました。
その結果、例えば新業者評価制度においては、地域に根ざしたきめ細やかな災害対応もきちんと評価することが必要ということで、県だけでなく市町村との災害時応援協定も加点することとしました。また、建設業は地域の雇用の場として大きな役割を果たしていることから、常勤雇用者1名につき1点を加点する予定を2点に増やしました。このように、事業者の意見がごもっともと思われるような点は、原案を修正いたしました。そうやってどんどん積み上げて、周知期間も十分取ったので、施行が平成20年6月となったのです。後で申し上げるように、施行してみると、効果が意図どおりでないと思われるような点が発見され、事業者の方から、新制度への移行が拙速で、唐突だという批判がありましたが、それは以上の経緯からちょっと違うと思います。
そもそも、私が就任したときは、世論は談合防止一色でした。建設業界は悪い業界だとでもいうような議論をマスコミが流していました。全国知事会では、「都道府県の公共調達改革に関する指針(緊急報告)」を増田岩手県知事(当時)が中心になって作って、各県では談合防止のために工事金額いくらまで指名競争入札を一般競争入札に持っていけるのかの競い合いのようなことをしていました。私は、もとより談合防止さえすれば公共調達はうまくいくなどとは考えていませんでしたし、建設業者を悪く言うのはお門違いだと思っていましたから、選挙のときから「事件が二度と起こらないようなシステムを作ります。でも、建設業者に石をぶつけてはいけません」などと演説していました。当時の風潮の中では、「あいつは建設業界寄りのまたもや悪いやつだ」と思われて得票が減ったかもしれませんし、現にそういう見地からそんなことは言うなとアドバイスを受けたこともあります。しかし、それでも真実は曲げるわけにはいきませんから、就任後も「談合を防止して効率性の高い」ということに加え、「公共工事の質を保証できるような」ということと「県内建設業者の健全な発展に資するような」ということの3つをねらいとした公共調達制度を作ることに全力を挙げてきました。
制度としては、談合の温床となりやすい指名競争入札は、1円からすべて一般競争入札に変えました。一方、そうすると、指名された業者に対する安心感はなくなるのですから、すべての入札希望業者にもう一度入学試験を受けてもらい、能力に応じた格付けや暴力団など反社会的企業でないかどうかの審査も行いました。競争を進めるため、地域要件は少し緩和しましたが、一度に、しかもやりすぎると地域雇用に問題が生ずるし、災害時に地域で出動してくれる企業がいなくなるなどの問題を踏まえ、少しずつ、慎重に行うことにしました。仕事ほしさに、全員が、公表されている最低制限価格に張りついて、あとは抽選するというような消耗戦から企業を救うためにこれを事後公表とすることにしました。単純な価格だけのたたき合いを防ぐために、地域雇用などに貢献している優良企業にはそれなりの配慮ができるような総合評価方式を取り入れました。しかも、この総合評価を大規模工事で行う技術提案型(標準型)に加えて、主として格付けのときに使ったようなデータで事務的にも簡単に算定できるような簡易型も取り入れて、中小企業にも配慮することにしました。加えて、地域で多くの企業が生きていけるように、特定の企業だけが仕事を独り占めしたうえで、下請けに丸投げするというようなことができないように工夫をしました。等々挙げ出すと切りがありませんが、皆で必死に考えて原案を作り、それを世間に公表して欠けたるところを補ってきたわけです。
そして、いよいよ20年6月から施行が始まったのです。施行は円滑に進んでいるようにも思えました。どちらかというと建設業界の健全な発展を支援するとともに、最近の何でも公共工事の価格を安くたたき、入札率を下げることを誇る風潮を苦々しく思っておられる自由民主党の公共工事品質確保に関する議員連盟の先生方からも「和歌山県の制度は他県の制度に比べ抜群によくできている。委員会の推奨モデルにしよう」とまで言ってもらいました。
ところが何かおかしいのです。私もやることは他にも山ほどありますから、これにばかりかまけてはいられません。下からも上がっても来ませんでした。そのうち、「業界が、ひどい制度で苦しいと言っている」という声が聞こえはじめました。もともと、建設業界は工事も減って苦しいし、20年6月まで維持された旧制度は、談合汚職で逮捕された前知事の時代にできたとは思えないほど事業者に厳しいものでしたから、私もはじめのうちは、慎重を期するため積み上げを行ったため新制度の施行が20年6月まで延びたから、事業者にとっても多少はましな新制度のメリットがまだ出ていないのではないかなどと考えていました。もちろん、その間も新制度の不都合があってはいかんので、それを発見できるように技監をヘッドとする実務者からなる新公共調達制度推進委員会を作って、日頃の制度ウォッチをしてもらっていました。さらに、企業訪問の際に仕入れた情報をもとに、制度の小さな手直し(実績認定期間を10年から15年に伸ばす等)をしてきました。
ところが、やはりどうも変なのです。これほど業界の健全な発展に気配りをしてきた(つもりの)私や県当局を、業界をいじめる冷酷な輩だと、特に地域の中小建設企業の皆さんがおっしゃっているようなのです。県議の皆さんや親しい友人などから続々とこういうお話をいただきました。しかし、どこが悪い、あそこを直せという声は私の耳には届きません。これが届けば、もともと不都合があれば改める、朝令暮改と言われるリスクはあえて負うと言っている私としては、すぐに手を打つのですが、こういう状態ではなかなか手を打てません。それやこれやで、とうとう秋になってしまいました。
建設業界からの悲鳴や批判はどんどん強くなります。これはやはり絶対何かが間違っていると思いはじめまして、担当からデータを取り寄せると、やはりものすごい低入札です。コスト割れの入札合戦が起こっています。コスト割れの商行為は自殺行為ですし、長く続けられるはずはありません。他の競争者をも害します。独禁法ではこのため、わざわざ不公正な取引の1つとして不当廉売という項を設け、お灸を据えることにしているくらいです。
そこで、まず業界の代表の方に来ていただいて意見を聞くことにしました。そこで徹底的に議論をさせてもらいました。その結果次のようなことがわかりました。
- 不当廉売は自分達もいけないとは思っているが、県の制度でも、しにくいように工夫して協力してくれないと、自分達は苦しくて仕事がほしいからついやってしまう。
- 最低制限価格を事後公表にしたことは評価するが、予定価格も事後公表にしてほしい。これがわかっていると、かなりの社が最低制限価格がどの辺か計算できるので、自らのコスト計算をちゃんとする代わりに、自分の考える最低制限価格で入札してしまう。
- 一定額以上の入札は、一発失格となる最低制限価格でなく、当局が審査する調査価格によっているが、この適用範囲を狭くして、もっと高額のところまで最低制限価格を導入して一発失格にしてほしい。
- 設計が変わったときなど、追加費用が出たりするときは、もうこれまでのように業者の負担でやれというようなことはやめてほしい。
- 総合評価方式は、業者いじめなのでやめてほしい。
などという意見が出ました。
振興局などでも同じような意見が出ていないかよく聞いてもらって、部内で改善案を考えました。いろいろと振興局と建設業者の間でもめ事があったりすることもわかりました。
振興局の担当職員は、大事な県民のお金を預かっているのだから、できるだけこれを効率的に使おうと考えるし、確実に工期内で仕上げるということを考えます。その結果、職員の裁量でできるところについては、ともすれば、安く仕上げるということに力が入りすぎて、事業者にとって合理的でない負担を強いたり、より企業規模の大きい、確実に仕事を仕上げてくれそうな企業に発注しようとするあまり、県外の大きな企業を優遇してしまうというようなことも起こっていました。幹部の話によると、この流れは、木村県政の後半、地方財政改革で県財政が逼迫して、経費の切り詰めが最大の課題になった頃から、職員にマインドセットされているとのことでした。
そこで、まず、12月12日及び1月16日付け、技術調査課長名で、県トップの意向というのを文書にして関係職員に通知を出しました。(別添1:工事等発注)(別添1:諸経費)
要約すれば、もう県と企業の関係は、昔のような言わば「もたれ合い」の関係を期待できないのだから、1回1回必要になった費用はきちんと払ってあげるようにということと、県内企業を信頼して、もっと県内企業優先になるように制度運営をしてくださいということです。
さらに、予定価格の事後公表など、先に要請を受けていたものについても制度改正をして11月25日に発表しました。(別添2)
先の企業要望は検討の結果妥当と認められたので、ほとんど採用しました。ただし、総合評価方式については、もともと、優良企業が価格だけでたたき合いをしなくても済むようにとの趣旨で採用したものであり、それが何故業者いじめになるのかがどうもすぐにはわからなかったので、このときは積み残し、もう一度県内でヒアリングをして、考え直そうということにしました。
そこで、1月28日から2月5日まで、改めて県担当幹部自らも参加し、振興局単位でヒアリングを行い、私自身も、「是非、直接知事に話をしたい」との意向があって、いくつかの地域の企業グループの方々と大いに話し合いをしました。
その結果、これは自分でもショックでありましたが、まじめな優良企業をむしろ保護しようとして考えた制度が、かえってそういう企業をいじめることになっていたことがわかりました。
例えば、過去の県事業の実績と優良工事による加点は、そういういい仕事をしてくれるような立派な企業は、あまり低価格競争で疲弊しなくてもいいですよというふうにして差し上げるために導入したものなのですが、実績のない企業が一度は実績を取っておかないと後々損をすると考えて、大赤字覚悟で低入札をする引き金になっているということがわかり、愕然としました。
そのような問題を整理し、2月18日に制度手直しの第2弾を発表しました。(別添3)
こういう制度改正は、朝令暮改の印象があります。しかし、現実に不都合が生じているのなら、できるだけ早期に改めることは、我々の義務だと考えました。朝令暮改だと言って非難されるのは、制度を作った当局です。そこで当局側(首長、官僚)は、できるだけ制度を変えたくないのです。しかし、自分達の身を守ることより、その行政の対象である県民や国民の利益をより大きくしようと考える方が正しいと思います。「いやはや間違っていましたのでこう直します」です。
和歌山県の公共調達制度は、他県に類を見ない、今までにないバランスを考えたものです。一般競争入札の導入しか考えなかった他県では、いろいろの不都合が発生したと見るや、もとの指名競争入札を単純に復活したりしています。和歌山県の制度は今回の修正でも、もともとの基本的考え方と骨格はまったく変更していません。変更しないで済んだのは、はじめからそういう配慮ができるような設計をしているからです。
前知事の逮捕で、特に和歌山県はひどい公共調達をしているところだと全国の人に思われました。一番ひどいのは、前知事が中央公論で心境を吐露したので、そのインタビューをした人が、インタビューの事後感想で和歌山県は法治国家ではないという話があると言ったことです。そういうことを言われて辱めを受けた県民に対して、私は「今や和歌山県の公共調達制度は、他県のどこにもない立派な制度になっているのですよ」と示したかったのです。そこで、口癖のように「和歌山県の制度は日本一の制度です」と言ってまいりました。
それが「知事は自分の自慢をしている」と映った可能性もあるようですが、私は自分のために自慢をしなければならない動機はありません。それに「この制度は完全無欠で100点だ」と言った覚えはありません。少しでもおかしいと思えばどんどん直して、100点に近づけていけばよいのです。
それでも、私は反省をしております。というのは、6月に施行してから半年近くも、どうして細部の手直しをした方がよいとどうして気がつかなかったかということです。
長い間、県に頼ってこられた中小の建設業者の方々は、なかなか文句を県当局に言いにくいと思います。今でも「抗議行動なんかして、県に嫌なことを言って悪かったねえ」と本気で気を遣って下さる企業の人もいます。決してそんなことはないのです。であれば、そういう遠慮する、地方の中小零細企業の方が困っていないかということを、こちらからもっと積極的に、もっと早く聞きに行って差し上げられなかったかと思います。これが反省点の第1です。
はじめに述べたように、この制度は施行が遅すぎたかと思うほど、積み重ねの各段階で企業の方々の意見を聞いて作ってきました。パブリックコメントやヒアリングを何度も行いました。事実そのプロセスでかなり手直しもしています。私としては、問題は出尽くして、まず、皆さんそうひどいことにはならないだろうと思っていました。
ところが、実施してみるといろいろ問題があったのです。事前に意見を聞いているからというのは我々の責任回避の理由でしかありません。考えてみると、我々当局もそうであったように、まして、地方の中小企業の方々が、制度が適用されたらこうなって、ああなって、これが困る、あれが困ると(こういうのをシミュレーションと言いますが)、考えられるかというと限界があります。どうも我々はこうしたハイカラで新しい手法(パブリックコメント等)に頼りすぎていたのではないか。これが反省の第2点です。しかし、1つだけ評価してほしいのは、問題が発覚したときに、我々は「それはもうあらかじめ聞いてあるじゃないか、今さら言っても遅い」とか言って批判を封殺しなかったことです。
今県では、産業界と県の距離を縮めようと、産業別・企業別担当者制度を作って、大いにコミュニケーションをしようという新しい試みに取り組みはじめました。しかし、今回のような不都合が上がってこなかったということは、もっともっと皆が努力しなければいけないなと思いました。
また、私と本庁幹部がいろいろ議論している真意が十分、第一線の現場に伝わっていなかったということも感じました。ひょっとしたら第一線の発注担当者は「今度の知事さんは何事も厳しい人だから、安く発注して節約を図ると喜んでもらえるかな。前の知事さん時代から経費切り詰めというのはがんがん言われていたからな。それに、発注でミスをしてもそれが明るみに出たら厳しい知事さんにしかられるかな。工事がうまくいかないと困るから、安全サイドに立って都会の大企業に任せた方が安心だなあ」などと考えていなかったかなどと想像しています。また、事実そうだと言ってくれた人もいました。そういう意味では、私も(常人以上におしゃべりだとはいえ)まだまだ職員の一人ひとりとのコミュニケーションにおいて不十分なところがあったと言わざるを得ないと思います。これが反省の第3点です。
今後は、このような反省を生かして、一層の努力をしていきたいと思います。公共調達制度も同様、また不都合があれば直すことに躊躇しません。建設業者の方々はもちろん、広く県民の皆さんも大いに問題提起をして下さったらよいと思います。
ただし、最近いつも人に言っていますが、制度は1つの方向からの要請で変えると、その反作用が出てきます。それを考えて総合的にどう考えるかという問題を、我々当局は解かなければなりません。公共調達の制度も、県内企業を優先するというのは、実施するのにそう困難を感じませんが、だんだんと制度の変更が県内の地域間の争いに絡んだり、果ては、県内の地域内の個別の会社どうしの有利不利に絡んだりしてくるので難しくなってくるのです。とはいえ、今後とも今回の反省を生かして、問題が発見されたら大急ぎで対応するという考えで、毎日毎日、県庁を挙げて努力をしたいと思います。