ようこそ知事室へ 知事からのメッセージ 平成19年6月
知事からのメッセージ
知事からのメッセージを紹介します。
平成19年6月のメッセージ
平成19年6月1日
5月10日に公共調達検討委員会から報告書を提出していただきました。これで、和歌山県の公共調達制度を改革する最も貴重な材料ができました。
あとは、これを詳細な制度に直して公表し実施するだけです。
この報告書は、ただいま県民の皆さんの意見募集にかけています。いわゆるパブリックコメントというものです。これから、我々県当局はこの報告書に沿ってこれを実行するために詳細な制度を作って発表し(6月15日を予定しています。)、実施する(7月1日を予定しています。)こととなりますが、意見は報告書への賛否でも、批判でも、詳細制度への提言でも何でも結構です。お待ちしています。
私は、この報告書をきちんと実行すれば、和歌山県の制度はどの方面から見ても断然日本一の制度になると思っています。その日本一というのは、何も日本で初めてというような軽いものではありません(日本で初めての要素が実はいっぱいあるのですが)。県民にとって一番利益になって、公共インフラが一番立派になって、県内建設企業が苦しいけれど頑張ったら日本一力のある建設企業になれるというような意味の日本一です。
そもそも私が知事に就任したのも、前知事が県の公共調達にからんで不祥事を起こし、辞職、逮捕されたからであります。公共的建設工事をめぐる種々の不祥事は昔からありますし、緑資源機構の例にもありますように現在も続いていますが、ちょうど木村前知事が逮捕された時は、福島、和歌山、宮崎と三つの県で同様の理由で知事が逮捕され、和歌山県は「団子三兄弟」ならぬ「談合三兄弟」と揶揄されて、大変恥ずかしい思いをいたしました。和歌山出身の私としても思いは同じで、それが和歌山県知事選に出馬しようとした大きな理由の一つでありました。選んで下さった県民の皆さんも思いは同じであろうと推測しております。
従って、知事として私のまずやるべきことは、二度とこんなことを起こさないようにしなければならないということです。そういう時に人は一般に二つの方法をとります。一つは、天地神明にかけてこういうことは起こさないと誓うことです。もう一つは、どうやってもこういうことは起きそうもないという制度を作ることです。
私は、良心もまずまずあり、親類縁者、友人どっさりいる和歌山で、あんな恥ずかしいことができるかと思うことはもちろんでありますが、それ以上に、この際、誰が知事や県庁幹部になってもあのようなことは起こせないような制度を作ってやろうと思いました。これが「談合防止はシステムで」という新発明のキャッチフレーズになりました。
私は、経済産業省に入省以来、本来民間が張り切って行うべき経済活動をいい方向へ導くような制度作りにずっと従事してきました。今度もそれで行ってやろうというのが私の思いでした。それで、さっそく現在の県の制度も調べました。不思議なことに、既に県の制度は前知事等のあのような行為が起きやすい構造からは脱していました。県庁の職員も実に誠実にクリーンに制度の運用をしているのです。しかし、後に述べるような様々な課題を、まだ100%クリアーできるようにはなっていませんでした。
実はその時、あまりにも多くの県で公共工事をめぐる不祥事が続発したものですから、全国知事会が危機感をもち、本件に関する全国知事会の制度改革提言「都道府県の公共調達改革に関する指針(緊急報告)」が発表されていました(2006年12月18日)。日本人の多くの人は、わりあい「権威」に弱いものですから、この提言が実は公共調達の制度をめぐる「スタンダード」になりまして、どの県がこの提言にどれほど近い制度を早くとり入れるかというところが、特にマスコミの話題になりました。この提言は、行われた背景からすると当然ですが、急いで各県の制度を比較検討して厳しそうな要素を各項目ごとに集めて発表したもので、この時間でまとめられたものとしてはよくできた大変意義のあるものですが、もちろん「オールマイティ」の制度提言ではありません。
私はこれまでの職業的経験から、イヤというほど実例に接してきましたから申し上げますが、制度というものはある立派な法益を達成しようとすると、必ずといっていいほど別な面で副作用が生じます。従って、ちゃんとした制度を作ろうとすれば、この副作用をどうやって克服するかを考えなければなりません。従って、制度設計はこういった多方面からの目配りを効かせた「総合性」という観点が大事になります。また、よい制度を作るためには実態をきちんと把握して、観念的なものにならぬようにすることが大事です。
全国知事会の提言は、その出生の経緯からして、「総合性」を追求したものでも、和歌山県の実態を踏まえたものでもありません。そもそも全国知事会なるものも、少数の団体職員と総務省や各自治体からの出向職員の集まりで、何か特別の物事をなす時は、その案件に熱心な知事と県の行政マンが案を出して、他にはかって議論するのです。要するに「文殊の知恵」というわけです。
どうせそうなら、真似しなくても和歌山県で日本一の制度を作ってやれ、あわてないでも今の県の制度は、そう簡単にもう一度悪事が働けるようなものでもなくなっているし、とそんなふうに考えたわけです。
しかしながら、就任早々の私にとって本件に割ける時間は限られています。ヒアリングも熱心にしなければいけません。それに、私といえどもやはり「文殊の知恵」の一人に過ぎません。それなら、考えうる限り立派なメンバーを集めて、最良の制度を推薦してもらおう、こう考えました。
そこで、日本一と思われる識者の知恵を借りることにしました。そのために大急ぎで人脈を総動員して郷原信郎桐蔭横浜大学法科大学院教授(桐蔭横浜大学コンプライアンス研究センター長)をはじめ六人の識者にお願いして公共調達検討委員会を組織し、和歌山県に最もふさわしい公共調達制度を提言してもらうことにしました。
郷原委員長は元検事で、既に当時本問題で最も識見があると見なされていた方でしたが、メンバーの発表時に私が予言していたとおり、次々と問題が生じた組織に要請され、その分野での不祥事の後始末と制度改革のお手伝いをされています(不二家の再建、水門談合事件に苦しんだ国土交通省本省など)。その他の方々も建設業の産業組織や談合の歴史的意義を研究されている東京大学の武田晴人教授、元島根県警本部長で経済産業省では産業政策、通商政策のプロで、現在京都大学で公共政策学を教えておられる佐伯英隆教授等、第一線の勇士に集まってもらいました。
某新聞に、不熱心で一回しか集まっていないなどとひどい誤報をされて、烈火の如く皆さん怒られましたが、それもそのはず、これほど忙しい方々が1月以来9度も和歌山に集まられ、一度来られると5時間も6時間もかけて熱心にヒアリングや討議をして下さいました。観念的な議論は誰でもできますが、実態に即した議論をするために、県下の建設企業や県の担当職員のヒアリングを極めて熱心にやって下さいましたことは、特筆に値すると思います。本当に感謝をしています。
私は検討に当たって、委員会の先生方に四つの目標をかなえるような制度を提言して下さいとお願いをしました。
それは、第一に効率性を追求して、県民の大事な予算が無駄遣いされないようにお願いしますということです。談合によって、皆が利益を分け合っていてはこうはいきません。しかし、第二に制度が公共工事の質を確保できるようでなくてはいけません。安かろう、悪かろうで工事が遅れたは、橋が落ちたはでは困ります。第三に官製談合など金輪際無くしたいものです。そういうことができにくい仕組みを作って下さいとお願いしました。第四にあの事件で皆がよってたかって建設業界を悪者にしていますが、建設業は和歌山県にとっては県民の雇用を支える大事な産業です。和歌山の建設産業が健全に成長できるような制度を提言して下さいというのが最後のお願いです。もちろん、それは現状を温存して下さいという意味ではありません。
皆さんすぐにおわかりのように、これら四つの目標はともすればトレードオフの関係にあります。それは、一つの目標を追求しようとすると、別の目標を阻害するかもしれないという意味です。それを知恵をしぼって、できるだけトレードオフの関係をうまく調節して、四つの目標すべてにかなうような制度設計を望んだわけです。
結論をいうと、公共調達検討委員会はこの四つの目標をものの見事にかなえるような制度設計を提言してくれたと考えています。
また、この委員会は物事を解決する際に時間軸の考えを入れようと言って下さいました。過去、現在、未来のそれぞれに思いをいたし、観念的でない現実的な思考をしながらも、将来のあり方、理想をふまえて考えようということです。
さらに、この報告書には結論だけでなく、その結論が導かれた論理がきちんと書かれています。(その意味でも先に述べた全国知事会の緊急提言よりも優れたものでしょう。)
以下、私の強調する四つの目標に沿って、簡単にその内容を説明しましょう。
まず第一に、効率性の観点から見ますと、この報告書は1,000万円以上だ、250万円以上だなどとけちなことを言わないで、全部指名競争入札をやめて一般競争入札に移れと言っています。また、マスコミも含め世の中の多くの人々が指名か一般競争かだけで議論しているのに対し、いわゆる「地域要件」の制度にメスを入れ、最終的には和歌山県の企業がどんな地域の工事でも、どんな規模の工事でも参加できるように、参加制限を緩和せよと言っています。こうして競争が盛んになると、その結果、大事な県民の税金が効率よく使えるようになるのです。また、前知事逮捕の舞台となったJV制度にも、より自由化の風を送っています。
一方、公共工事の質の確保という県民にとって大変大事な目標も看過していません。一般競争入札に参加する建設企業は、もう一度その能力を審査し、適正なランク付けを行うように提言しています。例えば、ペーパーカンパニーや能力のない企業が入札に参入して、本当に能力のある企業を押しのけるようなことがないようにするのです。また、雇用の確保、環境の保全、暴力団との関係の遮断など社会的要請に応えてきた企業をランク付けで評価し、ウソをついたり談合に加担したりした企業には、今まで以上の罰を与えるように、また、評価・審査能力の向上のための人材の強化といったことも勧めています。郷原委員会はこういう要請に企業が応えていくことを、コンプライアンスという表現をしています。こうして、能力のある立派な企業が誠実に工事を行うということが、公共工事の質の確保に何よりも大事です。
第三に官製談合の防止に資するかどうかです。これは、単に公共調達システムによるばかりではありません。むしろ、私が4月から導入している監察査察制度や県の職員についての倫理規則などの方が効くかもしれません。特に、監察査察制度は検察関係者を県庁の中に採用して専門の自浄組織を作るというもので、しがらみのないこの検察関係者だけが不祥事の密告、投書などに接することができるようになるというものです。実は、この制度を公的機関が持っているのは、もちろん地方公共団体では皆無、中央省庁でも外務省だけです。しかも、和歌山県の制度は外務省のそれと異なり、組織のトップである知事の不祥事も暴けるようになっています。しかしながら、この報告書の全体を流れる方法論は透明性の確保であり、行政の恣意性、裁量性の排除ですから、監察査察制度などとあいまって官製談合~知事の犯罪など起こりえないような制度ができていくものと思っています。
第四にこの報告書は、和歌山県の建設産業が健全に発展できるように、いろいろな配慮をしてくれています。例えば、地域要件の緩和にしても、時間軸の中で行わなければならない、特に、地域の雇用が全く失われてしまうというようなことがないように、また、災害時に応援をしてもらうべき地元企業が失くなってしまうということがないように、小さな公共工事は今までの振興局単位の工事区分を当分の間は維持すべきだとしています。その上で、より上位のランクの工事になるに従い、より広い範囲の競争にさらすようにと提言しています。また、小さな企業が力をつけてより立派な企業になったとたん、小さな工事はとれないというのでは、企業努力の元気がそがれてしまうので、これは従来どおり参入できるようにせよといったきめの細かい配慮もなされています。先ほど紹介したコンプライアンスについての配慮も、建設企業が県民に信頼され、尊敬される企業になるための有力な手段となるでしょう。そして、こうして立派に成長した和歌山企業が他県にもどんどん進出して、建設和歌山ここにありという名を高めて下さるのが私の将来の夢です。
さて、かくして和歌山県を震撼させた官製談合事件の後始末もあと一歩です。我が和歌山県は、特に熊野の地は古来よみがえりの地です。事件のつらい、恥ずかしい思いから、日本一の公共調達制度を作って、よみがえりましょう。