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和歌山の人、もの、地域 和 nagomi 受け継がれる紀州のココロ 2016 vol.31

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知事対談

澤和樹東京藝術大学学長と夫人の蓼沼恵美子さんと仁阪知事
演奏する澤和樹東京藝術大学学長メディア・アート・ホールにて。中央に立つのが澤和樹東京藝術大学学長。その左に立つのはピアニストであり夫人の蓼沼恵美子(たでぬまえみこ)さん。
和歌山の文化のちから/豊かな自然と悠久の歴史が宿る、和歌山の地。そこには芸術や文化を大切にする人情味溢れた人々がいる。優れた資質を正しく評価し、サポートする。そこから“文化の芽”は大きく育っていく。それこそが“文化のちから”となる。

仁坂知事(以下仁坂)●和歌山市出身である澤先生は、バイオリン奏者として世界的な賞を数々受賞され、また現在は、地元和歌山県の文化振興にもご貢献いただき、本当に感謝しています。まずバイオリンを始められたきっかけをお教えください。

澤和樹(以下澤)●きっかけは、三歳の時に母親が読んでくれた「三匹の子ぶた」という絵本です。作中の子ぶたがバイオリンを弾いているのに非常に興味を示し、母親に「これがやりたい」と言ったそうです。母親はおもちゃのバイオリンでいいだろうと思っていたのですが、「こんなんじゃ音が出ない」と言って、楽器店で本格的な子供用のバイオリンを買ってもらいました。

仁坂すごいですね。三歳で音が分かったんですね。やはり小さい頃から音楽教育を受けていたのでしょうか?

澤●いいえ(笑)。よく「両親のどちらかが音楽をやっていたの?」と聞かれるのですが、全くそういう素地はありませんでした。そこでその楽器店で教えられていた先生に入門しました。小学2年生からは東儀祐二(とうぎゆうじ)先生に師事し、バイオリンの修行を開始。

小学6年生でようやく全日本学生音楽コンクール小学校の部で大阪大会3位となり、トロフィーをもらった嬉しさを今も覚えています。中学2年生で2位、中学3年生で大阪大会1位となり全国大会に出場を決めたのですが、ちょうど修学旅行の日程と重なったので随分悩みました(笑)。しかし修学旅行をあきらめて全国大会へ出場し、幸い全国1位をいただきました。ちょうどその頃、修学旅行帰りの友人たちは夜行列車に乗っていたのですが、京都駅のホームで担任の先生が朝刊を購入し、私が全国1位になった記事を見つけ、その新聞を列車中で回覧してみんなで喜んでくれたそうなんです。それがすごく嬉しかったですね。

今回の対談会場の「きのくに志学館」
きのくに志学館/生涯学習活動の拠点として複数の機能を持つ施設で、県立図書館や文化情報センター(メディア・アート・ホール)、文書館からなる。
場所/和歌山市西高松1-7-38

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多様な考え方と多くの素晴らしい出会い

仁坂それから本格的に音楽家への道に進まれたのでしょうか。

澤●自分としては全国大会で優勝し、音楽家の道に進みたいという気持ちが強くなったのですが、父親は「自分の息子が本当に音楽で独り立ちできるのか?」と考えていたようです。その上、東京の一流音楽高校に進学すると、費用もかなり必要となり…。それで結局、県立桐蔭高等学校普通科に進学しました。しかし音楽専門の高校では経験できなかった事がたくさんあり、それは今でも私の大切な宝物です。

仁阪●それはどのようなものでしょうか。


東京藝術大学学長・英国王立音楽院名誉教授 澤 和彦(さわ かずき)
澤 和樹(さわ かずき)

東京藝術大学学長・英国王立音楽院名誉教授/1955年生まれ、 和歌山市出身。ロン=ティボー国際コンクール第4位やミュンヘン国際コンクール第3位、和歌山県文化賞受賞など。

澤●普通の高校ですから色んな考え方の同級生がいました。その友人たちの影響もあり、医者になりたいとか建築家になりたいとか、進路について改めて考え直す事もありました。その頃の友人たちは、今の私の芸術活動を理解し、さらには色々とサポートもしてくれています。これは音楽高校に進学していたら決してありえないことです。なぜなら同級生といえどみんながライバルで同業者ですから(笑)。

仁阪●迷いながらも進路を自分で選んだのですね。また中学・高校と良い友人と出会い、素晴らしい経験をされていますね。そういえば、いつもお持ちのバイオリンとの出会いにも、素晴らしいエピソードがあったとお聞きしています。

澤●私が22歳の頃、演奏のために渡英した際、“ストラディバリウス”や“グァルネリ”といった、世界的にも有名な名器の音色を聴かせてもらったんです。その時の“グァルネリ”の音に惚れ込んでしまったのですが、自分の物にできる訳でもなく(笑)。その興奮をそのまま、桐蔭高校の記念行事でお会いした同窓の先輩に話したんですね。その方は芸術にも造詣が深く、外国からの留学生支援もされている地元の名士で、「そんな楽器があるんだったら手に入れよう!」とご友人にも声を掛け購入して下さって、今も大切に使わせていただいています。

仁阪●そういう芸術に理解のある方たちがいて、才能ある人には支援の手を差し伸べるって、素晴らしい話ですね。こういう文化に理解がある人がいるのも、和歌山の誇りのひとつです。

澤●この素晴らしい楽器を持たせてもらったお陰で、世界的な演奏家と直接話ができ、その結果、内定していたNHK交響楽団のコンサートマスターへの正式就任をやめて、ロンドンへ留学することになりました。大学院修了してすぐにNHK交響楽団のコンサートマスターになるというのは、野球で例えるなら高校野球からいきなりプロ球団の4番バッターに抜擢されるぐらい凄いことで、今思えば本当に無謀な決断でしたね(笑)。





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音楽や芸術が持つ心を震わせる“ちから”

仁坂●その後帰国し、東京藝術大学で教鞭を取られ、今年4月からは同大学学長として、今度は音楽だけでなく、次の時代を背負っていくような芸術家を育てていく立場となった訳ですが、その辺の抱負などお聞かせ願えますでしょうか。

澤●総合芸術大学として、学生を育てるのはもちろんですが、今後は会社経営のように大学の運営も考えなければならない。しかし私はそういう教育を受けたことも経験もありません。そこで今も様々な分野で活躍している高校時代の同級生たちに知恵を借りようかと思っています。これも普通高校であったことの良さですね。また平成26年度から全国を対象に“早期教育プロジェクト”を始めました。これは本学の教員が各地方に出向き、子供たちの可能性を発見し、夢の実現に力添えすることを目的に、直接小中学生を指導しています。“感動”や“ときめき”を体感・共有することで、“音楽の魅力”や“芸術の力”を改めて認識し、それらの力が地域の活性化や地方創生の一助となればと考えています。東日本大震災の後、自分たちも被災者でもある仙台フィルハーモニーのメンバーたちが、被災地でボランティアの演奏会を開催した際、多くの人々が涙を流したそうなんです。避難している被災者同士は、“皆が大変なんだから、互いに泣いていられない”と我慢していたのですが、素晴らしい音楽と触れ合い、涙を流すことで心に抱えていた色んな重みから開放されたのだと。

仁坂●芸術には、人を感動させる大きなパワーが秘められています。今後もそういう感動を表現できるアーティストの育成を楽しみにしています。

和歌山県知事 仁坂
仁坂吉伸(にさかよしのぶ)
和歌山県知事



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これからの和歌山の文化を考える

仁坂本日の対談は、図書館と文化情報センターなどで構成される和歌山県の複合施設“きのくに志学館”で行っています。澤先生にはお忙しい中、2階にあるメディア・アート・ホールの音楽監督に就いていただいています。当初、ホールは図書館の利用時間に合わせていたのですが、澤先生から「それではもったいない。文化的な情報の発信地としてもっと活用したい」とのお話がありました。

反射板の設置や音を吸収していた緞帳を外すなど、あまりお金をかけない方法で音響の改善を行いました。このホールの収容人数は2〜300人とクラシックなどの室内楽演奏会に非常に適した広さです。また今は夜9時まで開館できるようになったので、平日の仕事帰りに立ち寄れる演奏会の開催など、これからの豊かな時間が楽しみですね。

南葵音楽文庫(なんきおんがくぶんこ)・ベートベン自筆のロシア民謡編曲
南葵音楽文庫とは、読売日本交響楽団が所蔵している音楽書、楽譜のコレクション。上の楽譜はベートベン自筆のロシア民謡編曲/© 公益財団法人読売日本交響楽団/慶應義塾大学DMC機構

仁坂●まもなく、紀州徳川家16代当主徳川頼貞公が私財を投じて収集した“南葵音楽文庫(なんきおんがくぶんこ)”が和歌山に来ることになっています。これは日本の音楽文化を代表する文化資産であり、日本の音楽界全体の宝だと思います。この中には、ベートーベン自筆の楽譜など約2万点の非常に貴重な資料があり、しかるべき学芸員にお願いして県立図書館や県立博物館などで保管・展示などを行う予定です。

澤●大作曲家の自筆の譜面や手紙から初期の印刷本まで、値段が付けられない程、貴重な資料が頼貞公ゆかりの紀州和歌山に来ると聞いて私も大興奮しました。このホールは、若い人から年配の方まで多くの方が利用する図書館と同じ建物です。それぞれが興味のある本を求めたり、CDなどの音源も豊富に揃っています。そこにこの世界的にも価値の高い“南葵音楽文庫”があるというのは非常にいいですよね。また今後は図書館にちなみ、文学との関わりのあるテーマで楽曲を構成するなど、来館者が気軽に参加し、クラシック音楽の魅力を感じられるような演奏会も開催したいですね。

仁坂●そういった敷居の高さを感じさせない音楽会っていいですね。音楽だけでなく美術や文学など、子供の頃からいいものに出会い、良い刺激を受けることは、芸術的なセンスを磨くためにも大事なことだと思います。また年齢に関係なく優れた芸術家を正しく評価し、応援するのも県としての重要な仕事だと思っています。和歌山県の文化の素晴らしさを、色々なツールで世界中に発信していきたいと思っています。本日はお忙しいところ、誠にありがとうございました。




 

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