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和歌山の人、もの、地域 和 nagomi 世界と和歌山が近づいた理由 2016 vol.30

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知事対談/世界農業遺産と和歌山の可能性/生物多様性、SATOYAMAイニシアティブ、自然と共生する社会の実現。世界農業遺産の認定から和歌山の可能性を見つめてみた。


世界農業遺産と和歌山の可能性

仁坂知事(以下仁坂)●武内先生は和歌山県出身で、東京大学で地理学や環境学を専攻し、現在も東京大学教授として「人と自然が共生できる社会づくり」をテーマに世界各地で研究を続けておられます。また国際連合大学の上級副学長として、今回の世界農業遺産「みなべ・田辺の梅システム」の認定に際し、色々とアドバイスをいただき本当にありがとうございました。

武内和彦(以下武内)●母の故郷は紀の川沿いの小豆島(あずしま)という集落で、祖父母の家に泊まっては、近くで釣りをしたり泳いだりしていました。また父の実家が現在の田辺市秋津川で、その故郷が世界農業遺産の認定地域になるなんて全く想像もしていませんでした(笑)。祖父は紀州備長炭を生産していまして、当時は今とは違って転々と移動しながら炭焼きをするんですね。小さい頃は祖父と一緒に山中に入り、簡易な炭焼き小屋に泊まり込んで、炭が焼けるのを待っていたという記憶があります。

仁坂それは凄い体験ですね。先生の提唱される考え方は、自然と人との距離が近いように思っていたのですが、それはやはり自然豊かな和歌山に生まれ育ち、様々な体験をされたからなのでしょうか。

武内●そうですね。たしかに私は子どもの頃から自然が好きで、自然の中にいる事も好きでした。2010年、生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)において、私が副学長を務めていた国連大学と環境省が共同して“SATOYAMA(里山)イニシアティブ”を提唱しましたが、今から思えば“里山”に対する考え方は、子どもの頃に触れた和歌山の自然に繋がっているような気がします。

田辺の里山風景
梅とウバメガシとミツバチが共生するみなべ・田辺の里山風景。

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自然共生世界実現のふたつの取組

仁坂昔から日本の里山は人々の暮らしの近くにありました。夏に生い茂った樹木も冬になると葉が落ち、地面には日差しが差し込む。しかし人間の手が入らなくなると真っ黒の林になってしまい、日当たりが必要な動植物が生きられなくなってしまいます。

武内●私がまだ若かった研究者の頃は、自然というのは手つかずのまま大事にした方がいいという考えが支配的でした。「密集しすぎた林には適正な間伐が必要だ」と言うと、「なんでせっかく育った木を切るんだ」と言われました。もちろん貴重な原生的自然を保護することは大切ですが、日本における大部分の自然は、適度に人が関わり付き合ってきたものですからね。

東京大学教授 武内 和彦(たけうち かずひこ)
武内 和彦(たけうち かずひこ)

東京大学サステイナビリティ学連携研究機構機構長・教授/1951年 和歌山市出身。専門は、緑地環境学、地域生態学、地球持続学(サステイナビリティ学)。2016年6月末に国際連合大学上級副学長を退官。主な公職として中央環境審議会会長、食料・農業・農村政策審議会委員会長代理、日本学術会議会員などを歴任。

そういう意味で日本の里山では、地域の人々が自然と上手く付き合ってきました。しかし現在では人と自然は切り離され、両者の関係は希薄なものになってしまいました。 “SATOYAMAイニシアティブ”は、それらの関係を再構築し“自然と共生する世界”を実現しようとする取組です。そしてもうひとつの取組が“世界農業遺産”です。これは2002年のヨハネスブルクサミットで提唱された考え方で、従来型の“緑の革命論”に立脚した“世界を餓えから救う大規模農法”は、必ずしも小規模な農家の利益にならず、また作物に病気などが発生すると一斉に駄目になってしまうなど、大規模であるが故のリスクが非常に高いと考えられるようになりました。そこで“伝統的な農業を大切にし、かつ現代社会の中に通用するような形”に発展させられないかという取組として提唱されました。元々“世界農業遺産”は、途上国の農業支援のためのプロジェクトとして始まりましたが、よく考えてみるとそうした考えは、日本のような先進国でこそあるべきものじゃないかと思いました。しかし国際連合食糧農業機関(FAO)の取組は途上国を主対象としており、当初はなかなか理解してもらえませんでした。その後、“SATOYAMAイニシアティブ”への理解が進み、先進国として初めて日本の佐渡島と能登地域が認定され、またそれを追従するように韓国でも二地域が認定され、今ではヨーロッパや北米でも認定の動きが進んでいるという状況を考えてみると、間違いじゃなかったと思っています。

仁阪●イタリアやスイスの山岳地域の農業は、家畜と人間が自然の中で共存し、循環しているようなシステムですよね。それらは非常に伝統的で、かつその関係は非常に大切にされているような気がします。そういう意味ではヨーロッパなどでも、世界農業遺産の認定がさらに進むのでしょうね。





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世界農業遺産の保全・活用から
グリーンツーリズムへ

仁坂●私は最近、非常に新鮮な喜びを感じました。我々は世界農業遺産のために研究をはじめ、改めてこの“みなべ・田辺の梅システム”の凄さに気付きました。これは“循環と共生”という言葉で全部が繋がっているんですね。例えばミツバチと梅、またウバメガシとミツバチ、そしてウバメガシと梅の共生。そして木々の保水能力が急斜面を守り生態系を保つ。そこには必ず人間の手入れがあり、それがグルグルと循環されてきました。そこには400年もの伝統や歴史があったわけなんです。

武内●そうした伝統的知識を伝えるためには、“知識の蓄積”という仕組がないと、繋がりが消えてしまいます。

仁坂●まさしくその通りです。産業が続く限り知識は途切れません。しかしその産業を後世に繋げる人が少なくなると、だんだん廃れてしまいます。そこで県では若い人たちにその価値を示し、自分たちの産業は世界的にも有望なものであるという意識と誇りを持てるような教育を行い、“知識の蓄積”ができるような仕組を考えています。もちろん梅の機能性を科学的にアピールし、世界の人たちにどんどん食べてもらい、産業としてさらに活性化させるなどの販売戦略も大切です。また今後の和歌山県の農業政策のひとつに“グリーンツーリズム”がありますが、それは単なる見るだけの観光ではなく、様々な体験ができるような旅行です。例えば梅農家で植え付けや収穫など経験し、地元の美味しい料理を食べ、できれば農家民泊などを経験してもらう。この梅システムを勉強しながら、世界農業遺産の一端をみんなで担うなんて、楽しそうでしょう?

武内●グリーンツーリズムは、一種の自然資本ビジネスであり、人々の価値観を変える運動だと思うんですね。それを農林水産業と融合させることは、地域の経済的な安定化にもつながる新しい仕組だともいえます。それは日本における地方創生のための大きな手がかりになるのではと思います。私たちはまた日本農業遺産という取組もはじめています。こうした取組を通じて、「自分たちの地域は誇れる地域なんだ」という意識が高まることを期待しています。ただ日本農業遺産が世界農業遺産のB級のように思われたくないので、独自の様々な評価基準を作っています。

和歌山県知事 仁坂
仁坂吉伸(にさかよしのぶ)
和歌山県知事


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今後の和歌山の可能性について

仁坂日本はもちろん和歌山にとって今後も農林水産業は重要な産業です。しかし相手が自然ですから様々な困難に直面することがあります。

武内今年は熊本県や大分県で大きな地震がありましたが、日本農業遺産の評価基準の中にも自然災害や経済的な変化に対してより※レジリエンスの高い農山漁村づくりが必要だと言っています。今は震災直後ですから食料や住環境など命に関わる問題が優先されていますが、長い目で見ると熊本県の蒲島知事の言う創造的復興という取組も重要となってきます。また和歌山県でも「森里川海」を人と自然の繋がりとして考え、生物多様性地域戦略を生かした県土計画が必要だと思います。

仁坂●和歌山も災害の多い地域なので、復興についてもバージョンアップしていかなければなりません。生物多様性とは自然保護だけでなく人との関わりが重要です。また多様性がないところにレジリエンスもありません。多様であるということは強靭であることなのかもしれません。

武内●それも広い意味での自然資本のあるべき姿だと思います。

仁坂●本日はお忙しいところありがとうございました。

※レジリエンス(resilience)とは、環境変動などの影響から回復する力を意味する学術用語で、災害などに対する復旧能力の意味。


 

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