和歌山の人、もの、地域 和 nagomi 紀の国、和の国 和歌山のこと 2015 vol.27

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那智原始林(なちげんしりん)
那智原始林(なちげんしりん)
那智大滝の東に広がる原始林で国の天然記念物。今も神聖な熊野那智大社の社有林であり、鬱蒼と茂る樹々の間に、神秘的な空気が満ちているのを感じることができる。温帯性広葉樹や針葉樹もある本州屈指の混交林である。

 樹々が鬱蒼と生い茂る森に、自然崇拝を源とする信仰が根付き、死後の世界=黄泉の国と通じていると信じられてきた聖地・熊野。「クマ」とは、「神」や「隅」を表し、「神々のおわす奥まった地」という意味であり、人々がたやすく近づけない秘境の地であった。
 平安時代には、皇族や貴族が都から熊野を目指す「熊野御幸」が盛んに行われた。その後、庶民の間にも広まり「蟻の熊野詣」と表現されるほど、参拝する人々で賑わったという。その行程自身が信仰であり、「熊野に詣でる」ということは、黄泉の国に往き、生まれ変わって現世へ戻る、蘇りのためのプロセスなのだ。
 厳しくもあり寛容でもある熊野の神々は、浄不浄や老若男女、身分の差もなく、全ての人々を受け入れた。そこは信不信すらなく、神と仏、生と死が混沌として存在する世界。「熊野」、それは日本人の精神性の原点である。

Un changing or Changing

よみがえりの地 熊野/世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」

1.熊野那智大社/2.熊野速玉大社/3.熊野本宮大社/4.熊野古道/5.熊野川
熊野那智大社(那智勝浦町) 那智山中腹に鎮座し、日本一の落差を誇る那智大滝に対する原始の自然崇拝を祭祀の起源とする。那智大滝を神格化した「飛瀧権現」を併せて祀っている。
熊野速玉大社(新宮市) 現在は熊野川河口に鎮座しているが、もともとは神倉山の磐座に祀られていた。境内の「ナギの大樹」はご神木で、葉は縁結びに御利益があるといわれている。
熊野本宮大社(田辺市) 明治22年の洪水で流失されるまで熊野川・音無川・岩田川の中洲にある「大斎原(おおゆのはら)」に鎮座していた。都からの熊野参詣で、まず最初に出会う三山で、その神々しさに伏して拝んだといわれる。
熊野古道 熊野三山へと通じる参詣道で、上皇らによる熊野御幸の道・中辺路は、往時の面影を色濃く残すルートとして人気がある。
熊野川(和歌山県〜三重県)  「川の参詣道」と呼ばれ、熊野本宮大社を詣でた後、熊野速玉大社まで小型の舟で下ったといわれている。
Key person's Voice/博物学者・作家 荒俣 宏
博物学者・作家 荒俣 宏
熊野は海も山も、時間的にも地理的にも日本離れした聖域だと思います。串本から白浜までの海岸周り、熊野川や古座川、そして南方熊楠の取材で探検した山々。それら自然の力に圧倒されました。40年前、初めて来たときと比べると、今はアクセスがよくなり近くはなりましたが、熊野の奥深さは変わりなく、神の話を平気で語ることができます。熊野の夜道、車で迷子になった時の神秘感と恐ろしさは、いまもはっきり記憶しています。熊野には、山ノ神と海ノ神との大きな交感が成立する、日本的感性の原点を見ています。考えるのでなく、見て、感じることの叡智。そこに行くことがこれほど意味深い聖域は、日本広しといえども、熊野が最高。原始の自然こそ、叡智の源です。
博物学者・作家 荒俣 宏 Profile
百科事典の編集助手をしながら書いた小説「帝都物語」がベストセラーになり、同作品で日本SF大賞を受賞。神秘学、博物学、風水等、多分野にわたり精力的に執筆活動を続ける。南方熊楠記念館名誉館長、世界遺産熊野本宮館名誉館長でもある。

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