青岸渡寺の登り口から大雲取越えの古道は始まります。石倉峠、越前峠を越え、小口に至る熊野古道の中でも最大の難所と言われるルートです。大雲取越えは「雲が手に取るほど高い山」を越えるところから名がついたと言われています。
登立茶屋をへて舟見茶屋跡につくと展望所があり那智湾や熊野灘を眺めることができます。那智湾に浮かぶ帆掛け船を見ることができたところからこの名がついたといわれています。
古来の人々は、豊かな恵みを与えてくれる自然を崇め、神の加護を感じるとともに、自然を恐れていました。
大雲取越えの山中にはダルやガキの亡霊が住み、取りつかれると急に空腹になり、動けなくなってしまうという言い伝えが残っています。闇雲にありがたく信じるだけではなく、恐れや謙虚さをも併せ持った日本人の精神世界があったのです。
地蔵茶屋跡から最大の難所である越前峠を越え、石畳が残る急勾配の胴切坂を下ります。楠の久保旅籠跡、中根の旅籠跡をすぎると、円座石があります。熊野三山の本地仏を示す梵字が刻まれた円形の大石は、熊野の神々がこの上に座って談笑したと言われています。
大雲取越えの古道は、山中でありながら他界を思わせ、熊野で最も不気味さを感じる霊場域として人々に恐れられたところでありました。
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