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                                                                                        [PDF(592KB)] 
                                                                                               

 

                                 和歌山県教育委員会

はじめに  − 地球が未来も輝き続けるために −

 人類は、豊かな恵みをもたらすこの地球という星に生まれ、文明を築いてきました。人類は長い間、他の生物と同じく、地球環境に大きく負担をかけることなく、自らの生活を営み、生態系の一員として、自然と調和しながら生きてきたと言えます。しかしながら、産業革命にはじまる石油や石炭など化石燃料の大量の燃焼や森林の伐採などは、大気中の二酸化炭素の濃度を大幅に上昇させ、いわゆる地球温暖化現象という大きな課題を人類に与えました。
 また、大量生産、大量消費、大量廃棄型の社会経済構造は、多くの人々の生活を便利にした反面、地球環境面から考えるとそれまでとは比較にならないほど、環境に負荷をかけることとなり、同時に空気、水、土壌、食糧などの汚染をもたらし、多種多様な生物を絶滅させたり、人類自身の生存の危機をも引き起こしています。このことを私たちは、もっと深刻に受け止める必要があります。
 それだけでなく、この過剰とも言える物質主義の追求は、果たして本当に人々を幸せにしたのか。常に自動車を利用したり飽食によって肥満や生活習慣病が生じたり、身の回りに整理できないほど物があふれたり、愛着を持つ間もなく新しい物に買い換えるなど、本当の意味で心が豊かになったのだろうか、という疑問が残ります。環境問題は、人間の生き方そのものへの問いかけでもあるのです。
 地球環境の保全のためには、私たち大人はもちろんのこと、次世代を担う児童生徒が、真剣に危機意識を持って地球環境を守るために立ち上がらなければ実効性の薄いものにしかなりません。
 幼児や児童生徒たちの環境教育・環境学習については、これまでも幼稚園や保育所、各学校において取り組んでいるところですが、未来にわたって活力ある持続可能な社会をつくっていくために、環境問題は今世紀の人類にとって最優先課題であるという共通認識を、まず教育関係者が確認するとともに、環境教育を教育活動全体の中で体系的に再構築する必要があります。
 この「指針」は、主に学校において、今後環境教育をどのように進めていくべきかの方向性について、和歌山県学校環境教育推進協議会(きのくにエコプログラム協議会)のご意見をいただきながら県教育委員会として策定したものです。
 この指針が、子どもたちの環境に対する感性や認識を高め、日常の身の周りの物やエネルギーを大切にすることから将来の社会システムの変革、さらには国際社会の壮大な試みに積極的に役割を担うことまでをも含めて、適切な行動がとれるきっかけとなると同時に、地域社会において大きなウェイトを占める学校が環境保全の分野においても重要な役割を果たすための一助となることを期待してやみません。

  平成15年6月30日
                                  和歌山県教育委員会
                                      教育長 小関洋治


              
1 環境教育の重要性

 近年の科学技術の飛躍的な進歩と高度成長経済に支えられ、大量生産方式のもと、私たちは、電化製品、自動車、衣類、食事などあふれるばかりの大量消費型の生活をすることが豊かさであると考えてきた。24時間いつでも開いているコンビニエンスストアや至る所にある自動販売機が日常生活に溶け込んで久しいものがある。一度享受したこのような生活様式は、経済が停滞するようになっても大きく変わることなく続けられている。しかし、こうしたあり方は、当然のことながら、企業活動による大気、水質、土壌の汚染などの産業型環境問題だけでなく、家庭からのゴミの処理問題、生活排水による水質汚濁、自動車の排気ガスなどによる大気汚染といった都市・生活型環境問題も引き起こすこととなった。
 また、二酸化炭素などの温室効果ガスの増加による地球温暖化現象、フロンガスなどによるオゾン層の破壊、砂漠化や酸性雨などは地球的規模での環境問題となっている。
 このような状況は、自然が分解・吸収できる範囲を大きく超えており、人類を含む生態系への重大な危機を生んでいる。このことは、人類が地球環境と共生し、「持続可能な社会」を構築しなければ、その存在自体が否定されることを意味している。
 これらは、生産者である企業や産業界だけではなく、消費者である私たち自身にも原因があることを忘れてはならない。言い換えれば、私たち自身の行動如何により地球環境への影響の度合いが変わり、人類を含む生態系の危機が避けられるかどうかが決まるのである。我々一人ひとりが「人間と地球環境」とのかかわりを総合的に理解し、地球環境に配慮した生活様式を確立することがまず基本となる。そして、その行動がやがて社会システム全体を循環型社会と呼べる自然環境と調和したものに変えることへのステップともなる。
 これは必ずしも昔の生活に戻ることを意味するものではない。私たちは、自己の生活様式を一から点検し、本当に必要で自然との調和が可能なものは何かを全面的に見直し、物質主義ではない、もっと内面的な豊かさを実感できるような社会を築きあげていく知恵を出すことが求められているのである。自然との共生の中で本当の幸せとは何かを改めて問い直さなければならない時代になったと言えるのである。
 かつての水俣病に代表される「公害」と呼ばれた産業型環境問題は、その後の法規制や技術開発などで、一定のコントロールが可能となったが、生活型環境問題については、日常生活における人々の生活のあり方を環境にやさしいものに変えるという意識改革と行動変容が必要不可欠となってくる。
 そのためには、環境問題についての知識や技術だけでなく、人々が問題解決のための手法や行動力までをも身に付ける必要がある。今日、環境教育・環境学習の重要性が言われる理由がそこにある。とりわけ、すべての人の主体的な参加が求められること、自然環境についての感性を育て、環境問題を全体的にとらえる能力や取り組む態度を体得させる必要があることから、学校における環境教育の意義と責任は大きい。


2 環境教育の目的と課題

(1)環境教育の目的
 国連環境開発会議(地球サミット、1992年)以降の環境教育の目的を一言で言えば、「持続可能な社会づくり」をめざす教育であるということである。人類が他の生命体と共に、将来も引き続き、この地球に存在しうるかどうかを左右する大きな要因になると言っても過言ではない。
 文部省「環境教育指導資料」(平成7年)では、環境教育の目的は、「環境や環境問題に関心・知識を持ち、人間活動と環境とのかかわりについての総合的な理解と認識の上に立って、環境の保全に配慮した望ましい働きかけのできる技能や思考力、判断力を身に付け、より良い環境の創造活動に主体的に参加し、環境への責任ある行動がとれる態度を育成する。」と述べているが、これは今日でも当てはまる。
かつて公害問題を取り上げた教育が、公害を引き起こした企業だけに焦点を絞ったものであったのに対し、環境教育は、環境問題を自らの課題として主体的に取り組む人間を育成するものである。
(2)環境教育の課題
 環境教育は従来から、幼稚園や保育所においては自然との触れ合いを中心として行われ、学校においては児童生徒の発達段階に応じて小・中・高等学校を通じて、(保健)体育、理科や地理などの教科・科目や特別活動などの中でそれぞれ行われてきた。また、新設された「総合的な学習の時間」では、例えば国際理解、情報、環境、福祉・健康などの横断的・総合的な課題などについて、学校の実態に応じた学習活動を行うものとするとされている。しかしながら、まだ歴史も浅く、必ずしもこれらがうまく連携しているとは言い難く、体系的な環境教育をどう展開するかが、まず課題となる。
 また、環境問題は、先進国だけの視点でとらえるべきではない。例えば、発展途上国においては、人口爆発とも言われる人口の急増に伴う食糧やエネルギー、乱開発、貧困の問題が根本にある場合もある。さらには戦争による直接の環境破壊もあれば、文化、歴史、政治などと絡み合うものもある。これらは、すべて生きていくという基本的人権としての側面を併せ持っている。また、経済の観点からは、消費拡大の必要性も言われている。このように複雑に絡み合い、ときには相反することがある環境問題について、学校教育において、解決に向けて実践する姿勢と能力をどのように育成するかが次の課題となる。


3 環境教育の進め方

  環境教育の進め方については、中央教育審議会第1次答申「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について」(平成8年7月)、中央環境審議会答申「これからの環境教育・環境学習 ―持続可能な社会をめざして−」(平成11年12月)、「環境基本計画−環境の世紀への道しるべ−」(平成12年12月)などの中でも示されている。これらと前項の課題などをふまえ、本県の学校教育における環境教育は次のように進めるものとする。
(1)各教科などの連携を図り学校全体として取り組む
学校の教育計画に環境教育を明確に位置付け、各教科の指導内容と相互の関連付けを明確にし、「総合的な学習の時間」などと有機的に連携・発展させることで、学校教育活動全体の中で体系化するとともに、全教職員一体となった指導体制を確立していくこと。
(2)環境と人間とのかかわりを総合的にとらえる
環境問題が人間の生産活動や日常生活と深くかかわるとともに、多方面にわたり複雑に絡み合っていることが多いことから、児童生徒には環境問題を一面的に提示するのではなく、その背景や原因も併せて問題提起し、どう解決をしていくかの道筋を考えさせること。その際、科学的なものの見方、考え方、評価の方法も併せ指導すること。
(3)目的を明確にする
環境学習を実践する際は、廃棄物問題、大気汚染、水質汚濁など個別のテーマを取り上げることになるが、主体的に参加する意欲を高め、活動の自己目的化を避けるため、そのテーマが持続可能な社会の実現という大目標に至る全体像の中で、どういう位置付けで具体的に何を目的としているかを明確にすること。
(4)体験学習を重視する
   環境教育の基礎となる自然を大切に思う心は、自然と接して自ら体験し、感じ、わかることで身に付くことが多い。幸い本県では、豊かな自然環境が残されていることから、自然体験を環境教育に結びつけることを重視すること。
  また、実践力を育成する意味からも、清掃活動やリサイクル活動などのボランティア活動に参加できる機会を十分提供すること。
(5)マルチメディアの活用
地球環境に関する情報やデータはインターネットで得られるものも多いので、体験学習などとのバランスを考えながら有効に利用すること。また、定量的な分析や評価をするにはパソコンが必要不可欠であり、その手法についても指導すること。さらに、メールなどを活用し各学校の児童生徒同士の情報交換にも取り組ませる。
(6)まちづくりへの参画
環境教育のテーマとしては、できるだけ地域の身近な環境課題を取り上げ、原因探求から解決の方法を考えさせ、関係者との連携のもと環境に配慮した地域づくり、まちづくりに参画する体験をさせる。
その際、自然環境だけでなく地域の特性を生かした良好な景観を形成することや歴史的、文化的な遺産の保全などの重要性にも配慮すること。
  

4 発達段階に応じた環境教育の目標

 学校における環境教育は、子どもの発達段階に応じて、身近な自然に対する感性を養うことから、より良い環境を創造する活動に主体的に参加し、環境に対して責任ある行動がとれる態度を育成するまで段階的に進める必要がある。
 特に、幼児期や小学校の低学年の時期に自然環境と共生し一体感を肌で感じることは、その後の環境学習の際の基盤となることから、できるだけ自然体験の機会を多く提供することが重要である。
(1)環境学習のステップ
@体得する(感じる)
 ・自然や環境の現状に直接触れ合うことで、環境保全の大切さを感じる。
A学び、調べ、理解する(知る)
・環境破壊の現状、原因、生態系への影響を調べ、理解する。
・循環型社会の仕組みを学び理解する。
・環境に関する情報の入手方法を学ぶ。
B実践することで理解する(身に付く)
・主体的に環境問題に取り組む態度を身に付ける。
・環境保全活動に参加することで体験から学ぶ。
・環境問題解決の手法や実践後の評価方法を学ぶ。
Cまとめ評価する(つなげる)
・学習や実践したことをまとめ評価する。
・評価したことを次の課題に反映させる。
・環境と人間とのかかわりという観点から人間の生き方を学び、行動につなげる。
(2)環境学習プログラムの作成
 環境教育を体系的、効果的に進めるため、発達段階に応じた環境学習のテーマ、目標などを定めた教師用の指導書を作成する。
 目標の概要は次のとおりである。
@幼 児
(目標)「自然に親しみ、豊かな感性を育む。」
 (説明)・身近な自然の中で、遊びや体験を通して自然に対する豊かな感性を育むとともに、身の周りの自然や物を大切にする心や態度を育成する。
A小学生
(目標)「自然体験や社会体験を通じ、環境に対する感性、知識、実践力を育成する。」
(低学年)感性を養い、環境保全の大切さを感じとらせる。
(説明)・日常生活と環境問題との関係を、家庭と連携を保ちながら具体的場面を通して体得させる。
・自然観察や動植物の飼育、栽培などの体験を通して、自然環境や事象に対する感性、興味・関心を高めるとともに、自然の素晴らしさや生命の大切さを身に付けさせる。
(中学年)環境についての知識を深めさせる。
(説明)・自然とのかかわりや社会体験を通して、身の回りの環境問題について気付き、追究する力を育成する。
・身近なものの観察や調査を通して、簡単な分析とその結果を表現する能力を育成する。
・調べ学習を通して、環境破壊の現状、原因、生態系への影響などを調べ、理解させる。
(高学年)学んだ知識に基づく実践力を育成する。
(説明)・様々な環境問題について情報を集め、班別学習で考えをまとめる力を育成する。
・健康という観点から、自分を取り巻く受動喫煙や自動車の排気ガスなど身近な外部環境とのかかわりについて考える力を育成する。
・児童会活動、ボランティア活動などを通して、省資源、省エネルギー、リサイクル活動など地域の環境保全活動に取り組ませ、資源の大切さや物質の循環について学ばせる。
B中学生
(目標)「自然体験や社会体験などを通じて環境問題を科学的にとらえ、主体的に取り組む能力を育成する。」
(説明)・環境に対する調査や社会体験などを通して、環境問題にかかわる事象に直面させ、原因や克服のための手段について考えさせる。
 ・環境保全活動などを通して、地球的規模の環境問題にも気付かせ、自分たちに何ができるかを考えさせる。
・生徒会活動やボランティア活動、各種の職場体験などを通して、省資源、省エネルギー、リサイクル活動などの必要性を理解させ、地域の環境保全活動に取り組ませる。
C高校生
(目標)「環境問題を総合的にとらえ、主体的に働きかける能力や態度を育成する。」
   (説明)・環境問題について、適正な判断ができる能力を育成する。
・自然環境の保全や社会環境の改善に主体的に働きかける態度を身に付けさせる。
      ・環境に配慮した公的機関や企業の取り組みに触れるとともに、積極的に環境問題に取り組むことの必要性を理解させる。
・生徒会活動やボランティア活動などを通して、省資源、省エネルギー、リサイクル活動など地域の環境保全活動に取り組ませるとともに、より主体的に環境の改善や創造に取り組む意欲と態度を身に付けさせる。
・環境について学習した知識や技術を地域に発信し、地域と連携した取り組みを展開させる。


5 環境教育の効果的な推進


 県教育委員会は、環境教育を効果的に推進するため、環境担当部局と共に、次のような取り組みを行う。
(1)各分野の専門家、関係者との連携
  最近では、学校、民間団体、事業者などとのパートナーシップのもと環境教育・環境学習が十分可能となった。環境問題は専門的な分野も多いので、必要に応じて大学、企業などの各分野の専門家の協力を得ながら行う。また、実践力を育成する意味から、実際に環境問題に取り組んでいるNPOなどとも連携しながら進める。
(2)環境教育推進のための人材養成
  環境教育を推進するためには、地球環境保全についての感性、専門知識、行動力、指導技術を持つ人材の養成がまず必要となることから、各学校に環境教育推進委員会を設置し、校内での環境教育・環境保全活動の充実を図る。県教育委員会は、環境教育推進委員を対象に研修を実施する。
(3)教材の共有、開発
  発達段階に応じたわかりやすい教材が必要であることから、各学校で現在、作成している教材の共有化や新たな教材の開発などを行う。
(4)学習環境の整備
 児童生徒が環境学習を行う際に必要な学習環境の整備に努める。
(5)ネットワークの構築
  各学校における環境教育指導についての情報交換や教材の相互利用を図るため、専門家やNPOなどの参加・協力を得てインターネットによるネットワークを構築する。
(6)きのくにエコスクール啓発
  児童生徒及び保護者、教職員を対象とした啓発リーフレットを作成する。
(7)全国的な事業の活用
環境省が小中学生を対象として実施している「こどもエコクラブ」など全国的な事業を有効に活用し、効果的に環境学習を進める。


6 地域社会の一員としての学校の役割

 地域社会の一員としての学校における地球環境保全への取り組みは、児童生徒の実践力を育成する上で大変重要である。学校での取り組みは、児童生徒から家庭にそして地域社会へと伝えられ、大きな波及効果が生まれることが期待できる。環境に配慮した学校づくりに児童生徒一人ひとりを積極的に参加させるとともに、自然と調和のとれた郷土づくりにまで目を向けさせることをめざす必要がある。
 また、徹底した環境対策を実施することによって、地域社会に地球環境保全の重要性をアピールし、持続可能な社会の実現にあたって、学校が重要な地位を占めることを明確にする。
(1)きのくにエコスクール基準の策定
循環型社会に対応できるような学校運営上のチェック項目などを含んだ基準(学校版ISO基準)を策定する。
社会活動を行う事業所としても大きな比重を占める学校で、教職員と児童生徒が一体となって省資源、省エネルギー活動を実践することにより、同時に実践力の育成も兼ねる。
(2)校内緑化による環境改善への貢献
 学校において環境への負荷を減らすだけでなく、校内の緑化・植樹を積極的、計画的に行うことによって、CO2の削減・吸収など環境に配慮した学校づくりを進める。
(3)家庭や地域、関係機関との連携
 環境教育は、学校、家庭、地域社会の連携の中で日常生活に密着し継続的に展開される必要がある。
特に家庭は、環境教育の成果が最も日常的に実践される場であることから、学校と家庭が同じ基準で環境への取り組みができるように情報交換を密にする。また、学校や地域の自然環境や社会環境の実態を考慮しながら、学校における教育活動全体を通じて、地域社会及び関係機関との連携を図った幅広い環境教育を推進する。地域の伝統や文化、先人の知恵には、地域の自然環境などの特性に裏打ちされたものが多く、学校はこれらの情報収集や教材化を進めながら、学校が地域に学び、地域もまた学校から学ぶという相互の関係を「開かれた学校づくり」の視点に立って構築する。


7 指針に基づく取組状況の点検・評価と見直し

 
 環境問題に適切に対応するため、必要に応じ、指針に基づく取組状況や問題点などを点検・評価するとともに、指針の見直しを行う。