Listen to this page using ReadSpeaker
大日山35号墳出土の埴輪の概要
平成15年度の調査により遺物収集箱約150箱の埴輪が採取され、平成16年度に整理作業を和歌山県教育委員会で実施した。その結果、以下の点について判明したので紹介する。
整理作業を通じて現在確認される形象埴輪の種別・数量(東造出出土分)
 鳥形埴輪・5、馬形埴輪・1、その他動物(四足獣/馬・犬ないし猪、牛など)・4、人物埴輪・5、家形埴輪・3、蓋形埴輪・3、大刀形埴輪・2、盾形埴輪・1
各形象埴輪の特徴について
鳥形埴輪

・鳥形埴輪(滑空姿態)…円筒状の台部の上に球形の体部が載り、その体部両側に(接合したのは片方のみ)25p程度の翼が、短い頸部と球形の頭部が前方へ傾斜した状態で接合し、飛んでいるないしは、飛ぼうとしている姿態を表現することが判明した(写真1)。

 鳥形埴輪には立体的に翼を表現するものは確認されているが、翼を広げて飛んでいる滑空の状態を写した鳥形埴輪は確認されておらず、現段階では全国唯一の例となる。
 また、埴輪で表現される鳥は鶏・水鳥・鵜などの種類が模されるが、本例はそれらの鳥とは頸部および頭部の形態が著しく異なるため、埴輪のモデルとなった鳥の種類が他の鳥形埴輪と異なる可能性も考えられ、埴輪文化を考えるうえで貴重な資料と位置付けられる。
・鳥形埴輪(水鳥)…滑空姿態の鳥形埴輪とは異なり、体部〜頸部〜頭部にかけての特徴は一般的な水鳥と考えられる鳥形埴輪である。水鳥の頭部のうち1つに嘴が接合したが、その嘴は断面円形の長約10pを測る長く直線的な嘴であることが判明した(写真2)。
 鳥形埴輪の嘴が円形で長いものの場合、通常「鵜」ないしは「鶴」と考えられる。「鵜」の場合、嘴の先端が鉤状に曲がっており、頸部下端から体部に紐の表現が確認されるが、本例にはその両方の特徴が確認されないことから、「鶴」と考えられる(写真3)。鳥形埴輪の「鶴」は、関東地方を中心とする東日本では確認されるものの、現段階としては西日本で初例である。
馬形埴輪
・横坐りの馬…接合が完了していないものの、頭部・前脚・鞍・障泥(あおり)杏葉(ぎょうよう)雲珠(うず)ないし金具(つじかなぐ)などの部品が確認され、馬装の装飾性が豊かな馬形埴輪の存在が確認された。
 このうち馬右胴側の障泥には力帯(吊紐)に垂下された短冊形(たんざくがた)水平板(すいへいばん)と呼称される部品が表現されていた(写真4)。通常、力帯(吊紐)には円形の(あぶみ)が表現されるのに対し、この短冊形水平板は足掛け板として両足をこの板の上に載せて騎乗する横坐り用の部材と考えられているもので、関東地方を中心として全国で12例しか知られておらず、西日本では4例目と貴重な資料である。
人物埴輪
・巫女…両手を前方に突き出して、(つき)とみられる器物を捧げ持つ腕部(写真5)で、巫女とみられる。
・盛装男子…上半身に円形浮文が貼付される衣服を身に纏い、腰に佩刀する立像とみられるもので、その姿態・衣服表現から貴人とみられる(写真6)。
・力士?…踝と脚輪、足の甲〜指を表現した左脚部で、脚輪表現があることから力士と考えられる個体。この他に褌表現のある力士も確認された。
家形埴輪
入母屋(いりもや)造りの家…復原すれば非常に大規模な高床の家となるとと推定される家形埴輪の部材が認められた。屋根部分の部材では、非常に大きな千木(ちぎ)(写真7)や堅魚木(かつおぎ)が認められ、その全容の大きさが窺われる。
 それとともに、屋根の寄棟(よせむね)部(写真8)には大棟を支えるための棟持柱(むねもちばしら)の表現が認められ、その外面に施される盾状の文様とともに、継体大王の墓と目される大阪府高槻市所在の今城塚(いましろつか)古墳出土例とも近似性が看取され、ヤマト王権中枢と大日山35号墳の被葬者の関係性を考察するのに示唆に富む資料と位置付けられる。
今回の発見の意義
 以上は、大日山35号墳の東側造出から出土した形象埴輪の一端だが、多種・多量の形象埴輪が存在することが、整理作業を通じてより鮮明となった。
 その中には、日本初の滑空姿態の鳥形埴輪や横坐りの馬、棟持柱が認められる家形埴輪をはじめとする非常に類例の少なく、かつ当時の大王(天皇)と共通性が窺われる埴輪群が確認された。また、多くの種類の人物埴輪や動物埴輪などの存在も確認され、大日山35号墳出土埴輪の意義はますます増大しつつある。
 このような状況が明らかになったため、整理作業は完了していないものの、これらの成果の一部を今回特別に県立紀伊風土記の丘にて公開することとした。
写真1(鳥形埴輪滑空)のページへ
写真2(鳥形埴輪頭部(鶴))のページへ
写真3(水鳥)のページへ
写真4(横坐りの馬)のページへ
写真5(巫女 器物を捧げ持つ腕部)のページへ
写真6(盛装男子)のページへ
写真7(家形埴輪 千木)のページへ
写真8(家形埴輪 屋根棟持柱)のページへ