石田ゆうすけさんの
ツーリングレポート

各スポットの位置は
サイクリングマップをご覧ください。

では早速走ってみましょう。スタートは煙樹ヶ浜。
長さ4.6㎞もの広大な砂利浜です。

 しばらくは美しい砂利浜を眺めながら、のんびり漕いでいきましょう。あ、言わずもがなだけど、ツーリングでは進行方向に対して海が左手になるよう走るのが基本。ラウンドのルートならば時計回りで。そうすれば、走りながらすぐそばに海が見られますので(左側通行だから、海が右手にあると、道をはさんで海を見ることになるのだ)。
 煙樹ヶ浜をやり過ごしたあとも、海沿いの快適な道が続きます。平坦でクルマもごくわずか。

煙樹ヶ浜

煙樹ヶ浜

出発から約15分(4㎞)で、三尾という小さな集落が見えてきます。
別名「アメリカ村」。ここは必見!

 県道を逸れ、集落の中に入ると、70年ぐらい前の世界に一瞬でタイムスリップ。時間が止まったままの家が建ち並んでいます。
 古い瓦屋根の重畳するさまにはうっとりと何度もため息が出てしまいました。
 また映画のロケに使えそうな趣ある小路が迷路のように入り組んでいて、極上の散策エリアになっています。ぜひ自転車を降りて歩いてみてください。なんといっても観光地化されていないのがいいんですよね〜。
 古い町並みがごくごく自然に残っている。おかげで村じゅうが古色蒼然とした柔らかいムードに包まれている。過剰に手を入れて保存(あるいは演出)された“古い町並み”の、あのセットのような空々しさとはまったく対照的な雰囲気です。

三尾集落

 ちなみになぜ「アメリカ村」かというと、この村から多くの移民者が出たうえに、戦前戦後にかけて大勢がUターンし、再びここに住み着いたから。そのためそこここに洋風のハイカラな気配が漂っています。
 ところで、この三尾出身者たちの移民先はカナダだったそうな。じゃあなんで「アメリカ村」やねん? と突っ込みたくもなりますよね。
 ま、おそらく、「外国いうたらアメリカやろ」といった、いかにも紀州的な“おおらか思考”から、こんな名になったんじゃないですかね。おそらく。

三尾集落「アメリカ村」

そこからさらに2㎞進むと、左手にモダンな建物が現われます。

 目を引く案内標識がないのが不思議だけれど、ここにもぜひお立ち寄りを。「クヌッセンの船」が展示されています。
 時は1957年2月、大しけの海で火を吹いて遭難している日本船を、通りがかったデンマーク船が発見し、機関長のクヌッセンが救助に向かいました。ところが彼も波に呑まれ、帰らぬ人に。この勇敢な行動はのちに顕彰され、デンマークと日本の友好のかけはしになりました。その救助活動の際、使われた救命艇が展示されています。
 僕が行ったときは閉まっていたので、窓越しにしか見られなかったけれど、大破した船体からは当時の海難の凄絶さがうかがえ、そこに飛び込んでいったクヌッセンの勇気に畏敬の念を覚えました。

クヌッセン救命艇保管庫

そこから15分ほど漕ぐと、比井という集落。
ここには太い幹に血管がまとわりついたような不思議な巨木がいくつも並んでいます。

 それが見えた瞬間、「えっ? こんなところにガジュマル!?」と声を上げてしまいました。ガジュマルとは南西諸島などでよく見かける亜熱帯植物。こんな北のほうにもあるんや、と驚いてしまいましたが、でもどこかヘン……。
 案内板を見ると、どうやらアコウという木のようです。ガジュマルと同属で、このあたりが北限だとか。
 しかし見どころが多すぎてなかなか前に進めません。まだ10㎞程度しか走っていないのに、出発から早くも2時間近く過ぎてしまった。ハハ……。

アコウの木

 ところで、日高名物のクエを食べたい方は、このアコウの木から100mほど戻って、ガソリンスタンドを右折、海側へ行ってください。150mほど進むと、左手に「割烹 岬」という店が見えてきます。
 クエはフグよりもうまいとされる幻の巨大魚。最近では養殖ものが増えてきましたが、日高では天然ものがリーズナブルにいただけます。
 ここでは「クエ丼」が税込1300円とじつにお得! クエの天ぷらがご飯にのっています。食べてみたけど、いやはや、これは掛け値なしの逸品!透き通るような白い身はふわふわと柔らかく、天然の甘みとコクがたっぷり。頬張っているそばから思わず「おほほほ」と貴婦人のような笑いがこぼれてしまいます。
 また、財布に余裕のある方には、クエの小鍋がつく「クエ定食」(税込2900円)がオススメ。やっぱりクエは鍋が一番ですから。

クエ丼

さあ、エネルギーを補給したあとはコースに戻りましょう。

 比井からやや急な坂をひとつ越えると、右手に「みちしおの湯」が見えてきます。海を望む温泉で、クルマで来られた方はサイクリングのあとに入っていくのも一興。
 さらに20分ほど漕ぐと、「ふる里ペンション湯川」という宿が。壁や入口に巨大なクエの魚拓がかかっています。

ふる里ペンション湯

やがて彼方に造船所が見え、網代の町に到着。

 アメリカ村ほどではないにしても、古い家がそこかしこに建っていて、ポタリング(気ままな散歩のように自転車で走ること)にはうってつけ。
 繁華街の面影が随所に残っており、港町として栄えていた往時がしのばれます。

網代の町

町をあとにし、坂を上ると、遠くのほうにうっすらと白い岩が見えてきます。さあ、いよいよ近づいてきました。

そして5分ほど走り、大きなカーブを曲がると、異様な景色が眼前にドーン!

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 白崎を訪れるのは2回目か3回目なのに、このときもやっぱり叫んでしまった……。
 こう来るだろう、という予想をはるかに上回る大きさ、くわえて過去に目にした景色のどことも似ていない白色の岩が生み出す摩訶不思議な気配。そうしてそれらがカーブの向こうに突如として現われるドラマチックな“演出”。大自然を全身で味わえる自転車だからこその感動が、このとき最大になって押し寄せてくるでしょう。

 さらに漕ぎ進めると、白亜の岩がどんどん迫ってきます。岩がなぜこのように白いかというと石灰岩だから。
 運動場にラインを引くときに使うアレと同じ成分です。

白崎の自然水

 蛇口から水が流れ続けています。石灰岩の山中から湧き出る天然水のため、カルシウム含有量が多いのだとか。
 飲んでみると、たしかにガチガチな硬水。骨粗しょう症の人にいいかも(ホンマか?)。

そうして白崎海洋公園に到着〜。

白崎海洋公園

白崎海洋公園

 白い岬の中に道の駅、カフェ、オートキャンプ場、キャビンなどいろいろあります。ここがコースのほぼ中間地点なので、ひと息ついていきましょう。
 道の駅内の食堂では日高地方もうひとつの名物、シラス丼(850円)が味わえます。さっきクエ丼を食べていない人はぜひどうぞ。

シラス丼

白崎を出るとすぐに急坂があり、
それを上ると、
眼下に十九島(つるしま)が見えてきます。

 こちらは別名「スヌーピー島」。なぜだかわかりますか?
 そう、スヌーピーの伏せった姿に似ているから。

十九島

 その坂を下ってしばらく行くとトンネルが。そこから先はバイパスの新道です。でもオススメはトンネルの手前から左手にのびる旧道。激坂だけど、リアス海岸の美観を堪能できます。坂を上りきると、湾と島で形成された巨大な箱庭がスコーンと広がり、まるで空を飛んでいるような気分に。風が気持ちいい〜!
 一方のバイパスは海のすぐそばを走っているけれど、背の高いフェンスに囲まれ、鳥籠の中を走っているような感覚。新道って、たいていがそうだけど、なんだかちっともおもしろくないんだよなあ。ただ道は平坦なので、疲れている人はこのバイパスをどうぞ。。

新道と旧道の合流地点、衣奈の集落からはとうとう海ともお別れ。山に入っていこう。

 本コース初めての長い坂(といっても1.5㎞強だけど)を上りつめると、頂上にはじつに味のあるトンネルが。まるで迷宮への入口みたい。衣奈トンネルです。なんと作られた年は明治20年! 120年以上前!
 中に入ると、ますますいい雰囲気! こういうトンネル、僕は大好きなんだけど、残念ながら2016年に閉鎖されるそう。行くなら今がチャンス! ただし中は苔で滑りやすいので、お気をつけあれ。

トンネルを出ると一気に下り坂に。
左手に注意しながら走っていきましょう。

衣奈トンネル

坂の途中に、1227年創建の古刹「興国寺」が現われます。

 醤油発祥の地、というなかなかキャッチーな歴史を持ったお寺。なんでも、この寺を開いた坊さんが、時の中国、宋から金山寺味噌の製法を持ち帰ったとか。その製造過程でできる“たまり”から醤油が生まれたそうな。
 約400年前に再建された本堂は重厚感があって見ごたえ十分。さらにその奥にある天狗堂が秀逸。

興国寺

 地元に伝わる天狗伝説にちなんだ巨大な面もさることながら、愉快なのはこれ。海亀の甲羅みたいなこの石、立札によると「天狗命根石」というありがたいものだそう。その立札の案内がふるっているので、全文載せてみます。

 この石は天狗命根石といって地球創世記の頃、地殻の噴出による火山岩から出来た世界最大の大きさを誇る貴石です。中には数億年も前の水が溜まっています。この石をなでながら願い事をすれば必ずかなえられる大変霊験あらたかな命根石です。(傍点筆者)
ホンマかい! と突っ込まない人が果たしているんでしょうか……?
 とはいえ「必ずかなえられる」という本田圭佑ばりの押しの強さには心を打つものがあり、僕も石をなでまくっていました……。

興国寺

再び自転車に乗って坂を下りきると、網代の町に戻ります。

 ここからは前半の海岸線とコースがダブりますが、それを3㎞弱走って、柏ビーチからは再び山へ。
 竹林を横目に、比較的長い坂(約1.5㎞)を上って下ると、三叉路の交差点にはクエのモニュメントが。

クエのモニュメント

 そこから約5分、最初の信号を右に折れ、800mほど先の最初の案内標 『←国道42号 ↑美浜』を左へ。さらに700mほど先の小川で右折し、その小川を左手に見ながら土手沿いの細い道を進んでください。
 ここは地元のサイクリストから勧められた道ですが、たしかに気持ちいい!

田んぼの大パノラマの中を行きます。

土手の上から田んぼを見下ろすので、じつに爽快!(とくに稲穂が青々と育つ時期や黄金色に色づく時期は最高! )。
 クルマもまず通らない静かな道だから、疲れた体をクールダウンするのにもぴったり。紀州の景色を目に焼き付けながらのんびり走ってください。
 さあ、ゴールはもう間近です。

 

田んぼの大パノラマ

その“田んぼパノラマロード”を2㎞弱走って、県道24号線を右折。あとは道路に立てられた「日高冒険サイクリング」の案内標識に沿って走れば、10分弱で出発地点の煙樹ヶ浜が見えてきます。

 ちなみにこの浜は県の「夕陽百選」にも選ばれたサンセットポイント。走り終わるころには、茜色の空と海があなたをやさしく迎えてくれることでしょう(きっと)。

〜走り終わって〜

 全長53㎞、坂もそこそこあるので、長距離サイクリング未経験者にはけっこうチャレンジングなコースかも(ママチャリは厳しい!)。でもそれだけに走りきったあとの達成感はひとしお。
 また「白崎」をはじめ、レトロな空気が立ち込める村、妖艶なる巨木、リアス海岸の島々、ユニークな古刹など、見どころがギュッと詰まっています。地元のひいき目を差し引いても(僕の郷里は日高から30㎞ほど南の白浜町)、本当にきれいで、変化に富んだおもしろいサイクリングコースだと思います。
 じつはこの白崎周辺を自転車で走ったのは僕は初めて。
 で、あらためて思いましたね。絶景や自然をじっくり堪能するには、やっぱり自転車が一番だと。汗を流しながら大自然と一体になるこのえもいわれぬ悦楽、みなさんもぜひ味わってみてください!

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