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7.糖尿病
 
1.はじめに
 生活習慣や社会環境の変化に伴い糖尿病患者数は急速に増加している。糖尿病は発症すると服薬などの治療をし続けなければならず、放置すると網膜症、腎症、神経障害などの合併症を引き起こし、末期には失明したり透析治療が必要となることもある。さらに糖尿病は脳卒中、虚血性心疾患などの血管疾患の発症・進展を促進することも知られている。これらの合併症は患者の生活の質(QOL)を低下させるのみでなく、社会的負担の増大も招くことから地域社会における効率的な予防活動がますます重要になる。
 糖尿病は(1)1型糖尿病(2)2型糖尿病などに分類されるが、成人に発症するものではほとんどが2型糖尿病である。2型糖尿病は遺伝的な素因に、肥満、過食、運動不足などの生活習慣が誘因となり発症する場合が多いとされており、そのため特に健康的な生活習慣の確立が糖尿病予防として重要である。
   *1型糖尿病(インスリン依存性糖尿病:IDDM):生活習慣と無関係に子どもの頃に発症することが多い糖尿病
   *2型糖尿病(インスリン非依存性糖尿病:NIDDM):運動や食事などの生活習慣が発症に大きく関連する糖尿病
 
2.基本方針
(1)糖尿病発症の予防
 糖尿病発症に関しては、2型糖尿病の予防を中心に考える。
 糖尿病と肥満の関係では、平成9年糖尿病実態調査(以下、実態調査という。)で示されたように「糖尿病が強く疑われる人」の28.0%、「糖尿病の可能性を否定できない人」の26.9%が、現在、肥満であるとしている。また「糖尿病が強く疑われる人」の52.7%、「糖尿病の可能性を否定できない人」の37.3%が、過去に肥満であったとしている。このことから、糖尿病予防として肥満の予防が最重要課題となる。そのためにはライフステージにあった健康的な生活習慣の確立を図ることが必要となる。(肥満予防の具体的な方法については、「栄養・食生活」、「身体活動・運動」の章を参考のこと)
 遺伝因子(糖尿病に陥りやすい体質)についても、図1に示すように、糖尿病の家族歴のある者は家族歴のない者より糖尿病の有病率が高く1)、家族歴のある者は早期からの生活習慣の管理が一層必要である。
 
 
 図1
 
 
 



 
 
 
 
 
       家族歴無n数=854 家族歴有n数=127
 


(2)健診による早期発見について
 糖尿病の早期発見・早期治療は二次予防として重要である。実態調査の結果では、「糖尿病を強く疑われる人」のうち、健診を受けたことがある人の半数以上は治療に結びついているが、健診を受けたことがない人では、93.1%は治療を受けていない。糖尿病は自覚症状が乏しく、健診でみつかることの多い疾患であることから、健診の受診率の向上、健診後の保健指導の徹底が重要である。
 
(3)糖尿病合併症について
  糖尿病は、進行すると糖尿病性腎症・網膜症・神経障害などの合併症を引き起こし、また脳卒中、虚血性心疾患などの発症・進展を促進することもある。
 これらの合併症はQOLを著しく低下させ、障害発生の大きな原因となっている。
 全国で1999年に糖尿病性腎症により新たに血液透析導入となった患者は、約11,000人であり、1983年の2倍以上に増加している2)。また、糖尿病性網膜症により年に約 3,000人が視覚障害と認定されており視覚障害の最大の原因になっている(1988厚生省「視覚障害の疾病調査研究」)。従って、適切な管理により発症や進行の防止を図ることが大切である。
 
3.現状と目標
(1)和歌山県の現状
ア. 有病率
 実態調査によると、全国推計では「糖尿病が強く疑われる人」が690万人、これに「糖尿病の可能性を否定できない人」を含めると1370万人とされる。この数字が人口に比例すると仮定すると、本県では「糖尿病が強く疑われる人」が6万人、これに「糖尿病の可能性を否定できない人」を含めると11万人と推計される。さらに、実態調査による40〜69歳の全国の有病率は、男性7.5%、女性8.5%となっている。本県において同年齢の印南町住民約1,000人を対象に実施した糖尿病の疫学に関する調査1)では、1997年の糖尿病有病率は7.8%となっており全国平均と大きな差はみられない。
 
イ. 死亡の状況
 本県の平成7年の全死因の年齢調整死亡率(人口10万対、以下「死亡率」という)は、男758.0、女390.1であり、図2、3に示すように平成2年に比べると、男39.8ポイント、女38.2ポイント低下している。 それに対して糖尿病では、図4、5に示すように男女とも平成2年に比べ高くなっている。また、全国と比較すると、平成7年の死亡率の相対危険度は、男106.9で全国順位では33位、女118.2で全国順位では44位と男女とも全国を上回っており、特に女では高い。
 
図2図3
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
                          図4    
図5












資料:厚生省統計情報部
 
(2)健康的な生活習慣の確立
 糖尿病は自覚症状が出た時には症状が進んでおり、特に異常を自覚していない場合でも自分の生活習慣を客観的に見つめ直してみる必要がある。
 糖尿病の発症危険因子としては、疫学研究によると加齢、家族歴(遺伝因子)、肥満・運動不足・過食(環境因子)であり、これ以外にも高血圧や高脂血症も独立した危険因子とされている。  
 これらの危険因子で、肥満、食事(摂取カロリーとその内容)、運動量の不足などの生活習慣は改善することができる因子であることから、改善のポイントとしては「肥満の回避」、「適正な食事」、「身体的活動の増加」を維持することが重要である。
 
ア. 肥満の回避
 BMI区分別糖尿病有病率からの試算によると、糖尿病は肥満度が高いほど有病率が高くなる傾向が見られる。
 平成8年県民栄養調査では、成人の肥満(BMI≧25.0)は、30〜60歳代の男性で31.1%、女性で13.8%を占めており3)、肥満者の割合をこの年代で男性15%以下、女性10%以下にすることを目標とする。
 
イ. 適正な食事
 県民栄養調査から、食習慣の推移をみると、県民1人1日あたりの総エネルギー摂取量は減少傾向を示しているが、脂質の摂取増加傾向がみられる。また、エネルギーの配分では糖質の比率の減少と脂質の比率の増加がみられ、平成8年県民栄養調査では特に20〜40歳代では脂質エネルギー比率は平均27.5%と望ましい範囲(25%)の上限を越えている3)。このような食生活の変化が、糖尿病の増加に一部関与している可能性があると指摘されている。さらに、過食や脂質の過剰摂取是正は、糖尿病のみならず、虚血性心疾患、脳卒中等も含めた生活習慣病の予防に有用であることから、量・質ともにバランスのとれた食事を摂るように心がけることが必要である。
 
ウ. 身体活動の増加
 近年交通機関の発達や家庭電化製品の普及などが身体活動の低下、運動不足をもたらしていると考えられる。
 日常生活における身体活動量の増加や休日の運動等によって糖尿病の発症が低下することが定量的に示されている報告4)〜6)や、500kcal/週の運動毎に年齢調整糖尿病発症は6%低下するという報告4)がある。1日あたりの平均歩数を1,000歩増加させることで糖尿病の発症を3%減少できることから4)、これを和歌山県の目標とする。

○糖尿病危険因子の回避
・成人の肥満者(BMI25.0)の減少
  目標値:30〜60歳代男性15%以下、女性10%以下
  基準値:30〜60歳代男性31.1%、女性13.8% (平成8年県民栄養調査)
                        
・日常生活における歩数を1日あたり平均1,000歩増加
  注)歩く時間で10分、歩行距離で600〜700m程度の増加に相当
  基準値:男性8,202歩、女性7,282歩 (平成9年国民栄養調査)
  
・適正な食事を摂ることができる人の増加
 注)過食や脂質摂取を控え、量、質ともにバランスのとれた食事を摂る
 
 
(3)健康診査等による早期発見と事後指導の徹底
 糖尿病あるいはその疑いのある人を健康診査等により早期に発見し早期に治療を開始することが重要である。糖尿病の危険因子を持つ人の場合はHbAlc検査を実施することが望ましい。HbAlcについては、血糖値と組み合わせることにより、スクリーニングの精度、効率を上げることができると考えられ、市町村で実施されている老人保健法による基本健康診査で取り入れられている。
 健診結果での異常所見者に対しては、事後指導や個別健康教育での指導の徹底が図ることが重要である。
 老人保健法による基本健康診査では、平成10年度の受診率は27.4%で、男性では20.4%、女性では33.1%と女性より男性の受診率が低くなっている7)。

○健診と事後指導
・糖尿病に関する健診の受診率の増加
  目標値:50% (老人保健法による基本健康診査)
  基準値:27.4% (平成10年度老人保健事業)

・健診における異常所見者の事後指導の徹底
  基準値:男性66.7%、女性74.6% (平成9年糖尿病実態調査)
 
 
(4)糖尿病合併症発症者の減少について
 糖尿病は、インスリンの作用不足により、糖質、脂質、蛋白質を含むほとんど全ての代謝系に異常を来す。有効な治療手段により代謝異常は改善する。しかし、糖尿病患者の代謝異常が軽度であれば、ほとんど症状を表さず、患者自身も糖尿病の存在を自覚せず、そのため長期間放置されることがある。糖尿病による代謝異常が長く続くと網膜、腎、神経を代表とする多くの臓器に異常が起こる。これらの合併症に共通するものは細い血管の異常であり、進展すれば視力障害、ときには失明、腎不全、下肢の壊そなどの重大な結果をもたらす可能性がある。また、糖尿病では全身の動脈の硬化が促進される。特に 、冠動脈 、脳動脈、下肢動脈などの病変は心筋梗塞、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症などの原因となり、生命も脅かす。このように、糖尿病の合併症は重要な問題であるが、これらの合併症は治療によりその進展を抑制し、患者のQOL低下を防止することができる。糖尿病治療の基本は食事療法、運動療法、肥満の解消であり、さらに、必要に応じて、経口薬物やインスリン注射を行う。
 近年発表された長期にわたる臨床研究の結果、糖尿病患者に対して厳格な血糖管理を行いHbAlcが1%低下すると、合併症の危険度が約1/4減少することが示されている8)9)。上記を含めた最近の知見を総合すると、糖尿病が発症しても、血糖値、HbAlc、血圧、血中脂質、肥満度等の指標を正常に近づけるよう努力することによって、合併症の発症・進展の危険を減らすことができる。
 しかしながら、実態調査の結果では、「糖尿病が強く疑われる人」は690万人であるのに対し、医療機関にかかっている総患者の数は310万人(約45%)で有病者の半数以下にとどまっていることから、糖尿病患者に対する管理・治療が充分に行われているとはいえない。このことから、糖尿病患者の合併症の状態の把握や血糖管理が必要である。
 近年、糖尿病療養士などの資格もできており、これらの有資格者などによる適切な指導を、医療機関や保健所、市町村が進める必要がある。

○糖尿病合併症の減少
・糖尿病有病者に対する治療継続の指導の徹底
  基準値:糖尿病が強く疑われる人のうち治療を受けている人の割合 45%
                         (平成9年糖尿病実態調査)
・糖尿病の合併症の発症の減少
  基準値:糖尿病性腎症によって、新規に透析導入となった患者数
      1年間に11,009人 (1999年日本透析医学会)
  基準値:糖尿病性網膜症による視覚障害者数
      1年間に約3,000人 (1988年厚生省「視覚障害の疾病調査研究」)
 
 
4.対策
(1)一次予防
 糖尿病の一次予防は、個々のライフスタイルを望ましい方向に変容することによって行われるべきであり、「肥満の回避」、「適正な食事」、「身体的活動の増加」などの正しい生活習慣の確立や、糖尿病の合併症の恐ろしさなどの知識の普及が必要である。また、生活習慣病の低年齢化が進んでいることから、教育の場において食生活に関する正しい知識が身に付けられるような取り組みが必要である。
 
(2)二次予防
 二次予防としては、地域や職域が行う健診の受診率を向上し、異常所見者に対しては個別健康教育などの事後指導の徹底を図る。
 また、治療を必要とする者に対し医療機関での早期受診を勧奨をし、有症者の治療の継続を徹底し、合併症の発症や進展を抑制する。
 
参考文献
1)南條輝志男・菊岡弘芳・平山純二:糖尿病の疫学に関する研究,
2)平成10年度日本透析医療学会
3)和歌山県:県民栄養の現状−平成8年県民栄養調査成績−,1998
4)Helmrich SP ら:ペンシルバニア大学同窓生研究、N Engl J Med 325:1 47, 1991
5)Pam XR ら:Da Qing Study,Diabetes Care 20:537, 1997
6)大阪健康研究(Osaka Health Survey ,岡田邦夫ら,第42回糖尿病学会、1999年5月)
7)和歌山県基本健康診査実施状況
8)UK Prospective Diabetes Study (UKPDS) Group: Intensive blood-glucose control with sulphonylureas or insulin compared with conventional treatment and risk of complications in patients with type 2 diabetes (UKPDS33). LANCET;352(9 1 3 1 ) :837-53 
9)Ohkubo Y ら :Intensive insulin therapy prevents the progression of diabetic microvascular complications in Japanese patients with non-insulin dependent diabetes mellitus -a randomized prospective 6-year study-. Diabetes Res Clin Pract28: 103,1995

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