ブルセラ症

ブルセラ症 (brucellosis)について

疫学

ブルセラ症はブルセラ属菌を原因とする感染症で、ほぼ全世界で発生していると考えられています。中でも地中海沿岸、中南米、西アジア、アフリカ、カリブ海諸国に多く、患者数は増加傾向にあります。症状が軽い場合は「原因不明熱」として処理されていることが多く、実際の患者数は報告例数の25倍以上とも言われています。
ブルセラ症は人のほか、犬、牛、山羊、羊などで発生します。日本では人のブルセラ症は稀ですが、平成20年に感染事例がありました。牛については、徹底した対策が行われ、現在は散発するだけにとどまっています。犬では、国内の数パーセントが感染していると考えられています。
和歌山県内では近年の発生報告例はありません。

病原体

ブルセラ属菌(Brucellaspp.)はグラム陰性、偏性好気性短小桿菌で、芽胞や鞭毛はなく、細胞内に寄生する性質を有しています。人ではB. melitensisB. abortusB. suisB. canisB. marisの5種の感染報告がありますが、現在の日本で公衆衛生上の問題となっているのは犬を固有宿主とするB. canisです。
ブルセラ属菌は感染力が非常に強く、10個から100個で感染する能力があるとされています。環境中でも安定しており、土壌中や水中で10週間安定との報告があります。培養では小さい円形、半球状でやや隆起し、表面が平滑な光沢のあるコロニー(smooth型)を形成します。B. canisは粗い形のコロニー(rough型)を形成します。

感染経路

感染動物の死産・流産胎子や、胎盤(悪露)、尿、乳汁などとともに排泄された菌と接触することにより、経皮的または経粘膜的に感染が成立します。感染動物が牛だった場合などでは、非加熱の生乳やチーズなどの飲食による感染もあります。尿などにより汚染された飼料や水が感染源となることもあります。動物では感染オスによる交尾感染もありますが、人から人への感染は極めて稀です。

症状

動物のメスでは胎盤での菌の増殖により胎盤炎、死産、流産などが生じます。オスでは精巣炎、精巣上体炎などが生じますが、動物では総じて一般症状が認められませんので注意が必要です。
人では1週間から3週間の潜伏期間の後に症状を呈しますが、ブルセラに特異的な症状というのはなく、単に風邪のような症状から、間欠熱、波状熱などの特徴的な発熱をおこす場合もあり、全身の疼痛、倦怠感など筋肉・骨格系への影響もよく現れます。症状は数ヶ月から数年に及ぶ場合もあります。

治療

牛などの家畜については法律の定め(家畜伝染病予防法)により殺処分されます。犬では長期間の抗生物質投与を実施することもありますが、ブルセラ属菌が細胞内寄生性のために根治は難しいとされています。
人では抗生物質の併用が行われます。WHO(世界保健機関)による推奨治療法は、成人ではリファンピシンとドキシサイクリンの併用6週間、小児ではリファンピシンとコトリモキサゾールの併用です。

予防

ワクチンはありませんので、感染動物を摘発・淘汰するとともに、死体・死胎や胎盤、尿などに接触しないように注意する必要があります。犬などの動物の出産に立ち会う人は、犬が流産した場合には、手袋を着用するなどして直接手が触れることのないようにし、汚物が付着した場所をエタノールや次亜塩素酸ナトリウム溶液などにより消毒しましょう。また、動物に触れた後には手洗いをすることが重要です。

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