モデル事例集「衛澤創」

“ひとりじゃない”と思える居場所に

チーム紀伊水道

代表 衛澤 創(えざわそう)さん(和歌山市)
掲載年月 平成26年9月

和歌山市を中心に、セクシュアルマイノリティ(LGBT)(補足1)とその理解者のためのグループを立ち上げ、活動を続けている衛澤さんに当事者の立場からお話をうかがいました。衛澤さんは女性として生まれ、性別適合手術を受けて男性として生活しています。

グループがないなら自分がつくる

チーム紀伊水道は、当事者に限らずどんなセクシュアリティ(補足2)の人も参加でき、相互理解をめざすグループです。現在の運営メンバーは4から5人。2か月に1回の交流会とメール相談(希望者には面談)、ウェブサイトによる情報発信が主な活動です。このほか講演会や勉強会も随時開催しています。
衛澤さんが「自分は性同一性障害(補足3)」だと知ったのは平成8年。この年に、日本で初めて埼玉医科大学で性同一性障害についての答申が出され、性別適合手術が正当な医療行為と認められるようになり、新聞などメディアにおいても「性同一性障害」という言葉が現れるようになりました。平成10年には最初の性別適合手術が行われ、このことから自身の状態が「性同一性障害」であることを知り、治療したいと思いましたが、当時、和歌山には対応できる医療機関や、相談できる自助グループはありませんでした。平成16年、通院先の精神科医から「あなたと同じFTM(補足3)の患者がいるが、和歌山には紹介できる自助グループがないので相談にのってあげてほしい」とある当事者を紹介されました。そのとき、「必要とする人がいて、その場所がないなら僕がつくるしかない」と立ち上げを決意しました。
そこで、インターネットの性同一性障害についての掲示板で呼びかけ、集まったメンバーでグループ名を決めて交流会を始めたものの、1年くらいはほとんど誰も集まりませんでした。そのため、しばらくはメール相談のみで運営を続けていました。平成19年、相談を受けた人と会った際に、交流会を中断していると話すと、「二人だけでもいいから定期的に集まりませんか」と背中を押されて再開。その後、次第に参加者が増えてきました。
現在の交流会の参加者は平均8人、うち9割が当事者で性同一性障害の人が多いとのこと。いつ来てもいつ帰ってもいい、というスタンスで、お互いの近況や悩みなどを話し合っています。衛澤さんは、「仲間とつながることで、自分はひとりではないと思える。身近に自分と同じ境遇の人がいて、普段話せないこともここでなら話せて、聞いてくれる仲間がいる。それは生きづらさを感じる生活のなかでの『心のゆとり』になる。交流会は、そういう居場所になればいいなと思っています」と話されました。

「知ること」から始まる理解

最近は、学校や企業などでセクシュアルマイノリティへの理解が進む傾向が見受けられます。しかし、まだまだ理解されていない、理解しようと思わない人からの誤解や差別もあります。セクシュアルマイノリティが抱える悩みは、社会や親、職場の人など周りとの人間関係から生まれることがほとんどで、理解が進めばもっと生きやすくなります。日本において、セクシュアルマイノリティはおよそ20人に1人、約5パーセントの割合で存在し、学校のクラスに1人はいるという調査結果もあるそうです。(平成24年2月電通総研インターネット調査より)身近にいることがあたりまえになれば、偏見や差別もなくなるでしょう。そのためには早いうちからの教育が必要だと考えています。
衛澤さんは、「お互いを認め合うこと、それは『知ること』から始まります。グループとしてどうアピールしていくかも課題です。テレビや言葉、どこからでもいい、関心を向けてくれれば嬉しい。そして、正しく知ってほしい」と話されました。無理解や誤解から、セクシュアルマイノリティに対するいじめも根強く、自殺を考える人が後を絶ちません。誰にも話せずに一人で抱え込んで苦しんだり、周りを恨んで攻撃的になったりする場合もあると言います。「当事者も当事者でない人も、お互いの違いを認め合えれば、誰もがもっと生きやすい社会になります。ただ、苦しみ悩んでいる人ばかりではありません。僕自身も周囲に恵まれたということもありますが、自分の状態を受け入れながら生きてこられました。ありのまま、自分らしく生きたいという思いは、セクシュアルマイノリティだけではなくどんな立場においても同じです。自分には関係ないことと思わずに知ってほしい」と話されました。
また、メール相談を受けるなかで気になることは、今はインターネットから情報を得ることができ、自分だけで完結してしまう人が多いことです。専門の医療機関や、性同一性障害の人が悩む性別適合手術のことなど、直接話すことで正しい判断ができたり、他の人の話を聞くことで自分の問題がどこにあるか気づいたりできる機会となり、正しく知るために自分の思いを誰かと話し合うことはセクシュアルマイノリティにとって大切だと述べられました。

多様であることが「あたりまえ」の社会に向けて 

セクシュアルマイノリティへの社会の理解度は、国によって、またそうでない人の価値観や認識によっても差があります。海外では、同性結婚ができる国や、同性結婚をしている政治家や俳優もおり、セクシュアルマイノリティとして生きるための基盤が進んでいるところもあります。しかし日本は、そのような多様な生き方が尊重されているとはいえないのが現状です。職場では、自分のセクシュアリティを隠して働かざるを得ない人もあり、結婚や相続、子どもを持つことなど異性同士のカップルならば法的整備がされていることでも、同性同士のカップルが乗り越えるには様々なハードルがあります。
衛澤さんは、「性同一性障害を『病気』という認識で理解する人もいますが、同性愛に対しては『個人の性癖だから権利を主張するのはおかしい』といった誤解や誹謗中傷がまだまだ多いです。なかでもレズビアンへの無理解は強く、ネット上で存在を否定するような中傷を目にすることもあります。テレビの『おネエタレント』と言われる人たちも、言葉遣いや外見をかなり誇張していて本来の姿が伝わらず、笑われる対象として扱われてしまっているのが残念です。ありのままの自分で社会の一員として働き、暮らす、そういったごく『普通』の生き方がセクシュアルマイノリティにも認められる社会になってほしい」と語られました。
少しでも多様な生き方があたりまえになる社会に向けて、和歌山という「地方」から発信し続けたいという衛澤さん。「活動を始めて10年、一人では続けてこられなかった。仲間と支え合い、これからも『みんなが楽しく!』とのスタンスを忘れず続けていきたい。自分たちと活動したいという人がいたら、一緒に色んなことをやっていきたい」と新しい仲間も募集しているそうです。
今後は多くの人が参加しやすいように、交流会の開催日を増やす、紀南地域での開催なども検討中です。また、若い人を対象とした交流会の必要性を強く感じています。なかでも思春期は、自分のセクシュアリティに迷う時期でもあり、自分がおかしいのだと自己否定しやすくなるため、定期的なサポートをとおして自己肯定感の形成を支えたいと話されました。
そして、家族のサポートも重要な課題です。特に、自分の子どもからセクシュアルマイノリティだと告げられた親の心理的負担は大きく、家族だけで集まり語り合える場があればと考えています。「これからも、様々なセクシュアリティがともに集える、オープンでミックス(多様)な居場所として活動を続けたい。違いを認め合うことを怖がらず、気軽に交流会にも来てほしい」とメッセージをいただきました。

  • 文中の用語について

(補足1)セクシュアルマイノリティ(LGBT):異性愛者が大多数との考えにおいて、同性愛者や両性愛者、トランスジェンダーなどの性的少数者といわれる人のこと。LGBTは、L:レズビアン、G:ゲイ、B:バイセクシュアル、T:トランスジェンダーの頭文字を取って総称として呼ばれることが多い。このほかにも、色々な呼び名で多様な性を生きる人がいる。
(補足2)セクシュアリティ:広義に直訳すれば性的なこと。最近では狭義に「性的指向」(恋愛等の方向性を示す概念。自分と同じ性に向いていれば同性愛、異なる性に向いていれば異性愛、など。「性的嗜好」とは別のものであり注意が必要)を指すことが多い。平成11年香港での世界性科学会議で採択された「性の権利宣言」の前文には、「セクシュアリティとは、人間一人ひとりの人格に不可欠な要素である」と記されている。
(補足3)性同一性障害:生まれてきたときの性別(体の性別)と、自分が望む性(心の性別)との違和感や嫌悪感を持つトランスジェンダーのなかで、医学的な治療が必要な状態を指す。すべてのトランスジェンダーにとって医療的措置が必要であるわけではない。通称として、生まれたときの体の性別が女性で、心の性別が男性の人をFTM、生まれたときの体の性別が男性で、心の性別が女性の人をMTFと呼ぶ。5月28日、日本精神神経学会が精神疾患の病名の新しい指針として、「学習障害」を「学習症」、「パニック障害」を「パニック症」など、差別意識や不快感を生まないような用語に統一し、変更していくと公表。「性同一性障害」も同じような観点から、「性別違和」に変更するとしている。

情報

チーム紀伊水道への相談、お問い合わせはメール:kii.suidoh@gmail.com へ。
交流会の日程は、ホームページ、ブログでお知らせしています。
チーム紀伊水道ホームページ:http://kii.coron.jp/
ブログ:http://kiisuidoh.blog16.fc2.com/

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