モデル事例集「千畑博信」

「”育児しながら働きたい”その思いを形に」

有限会社シーエスピー

代表取締役社長 千畑 博信さん(岩出市)

「授乳服」がヒットのカギ

シーエスピーは18年前に創業、大手服飾ブランドの商品を扱う商社からの注文を一手に引き受け婦人服などを縫製していました。順調に経営していましたが、海外で人件費の安い縫製工場が増えたため注文が減り売上は低下。売上を上げるために複数の会社の注文を受けて経営を続けていたとき、ある商社から海外で作られた婦人服やマタニティ服で通販等で検査基準をクリアできなかったB品を引き取ってほしいと頼まれ、会社でアウトレット販売をしたところ好評を得ました。しかし、マタニティ服は対象者が限られており、売れ残ることが多かったといいます。そこで、ネットオークションに出品。当時は主に中古品の出品が多く、B品でも新品なら飛ぶように売れたそうです。
あるとき、提携先の工場で他社の製品を真似て制作した長袖授乳服100枚がネットオークションで完売。顧客から次は半そでも作ってほしいと依頼を受けます。千畑さんはマーケティングを開始、これまではマタニティ服に授乳機能がついている服がほとんどで、産後用の授乳服がないことが分かり、半そでとタンクトップの授乳服を販売しました。結果は好評で手応えを感じたものの、ネットオークションの対応は通常の業務を終えた夜に千畑さん1人で行っていたので、個別の顧客対応が大変でした。平成15年7月にネットショップをオープン。以後10年が経ち、現在は授乳服をはじめベビー服や育児用品など幅広く取り扱っています。
オープンして2カ月間は数十万円の売上でしたが、10月により普段着に近い秋物授乳服を販売したことが大きな転機となりました。購入してくれたお客様が育児雑誌のネット掲示板に商品紹介の書き込みをしたことがきっかけで、その夜から注文が殺到、その月の売上が180万円、12月には500万円にもなりました。ネットショップ販売に自信を得た千畑さんは、これまで受注していた縫製の仕事から自社ブランド中心に移行することを決め、商社を退職した妊娠中の女性に在宅ワークでデザインを依頼し、新商品を開発しました。海外の工場で大量生産することで安価に販売でき、平成16年4月の売上は1000万円にまでなりました。その女性デザイナーには以後数年間、在宅ワークで仕事を依頼されたそうです。
千畑さんは、その経験から、出産や育児をしながら働きたいと思う女性がチャンスを得られる会社にしたいと思うようになりました。自社工場の事務職の女性に出産後も働き続けたいと相談され、乳児を連れて出勤し授乳ができるように事務所を整えました。その結果、育児中でも環境を整えると十分責任ある仕事ができることを実感しました。

誰もが働きやすい環境に

創業当初から倉庫と事務所を兼ねた建物でしたが、ネットショップを始めて各地から商品を直接見たいと訪れる人が増え、ショールームを作りたいと思っていました。また、社員の高齢化に悩む工場が多いなか、他府県の託児所併設の縫製工場では20代・30代の社員が結婚、出産後も定着する率が高いという事例を知り、人材の確保を高めるためにも託児所を併設したいと考え、公益財団法人21世紀職業財団に相談。事業所内託児所は、厚生労働省で定める設置基準や過去の実績などハードルが高く自社運営は難しいものの、事務職やWeb運営など職種によっては授乳しながら働ける環境を整えようと、ベビーベッドを設置し乳幼児を同伴できるスペースを作りました。平成17年11月に和歌山市から岩出市に移転、ショールーム併設の社屋が完成。ショールームにもベビーベッドを設置、赤ちゃんを連れたお客様にもゆっくり商品を見て試着することができるようにしました。
新しい社屋となって8年。その間試行錯誤しながら積極的に女性を雇用してきました。現在は、社内のスペースを活かしてベビーマッサージなど子育て関連の講座を開催し、社員だけでなく地域の子育て支援の拠点としてより地域に開かれた企業をめざして取組んでいます。
社員は、現在20人(うち男性正社員5人、女性正社員10人、女性パート5人)。そのなかで、ネットショップの店長を務める女性社員は、2人の子どもを出産、1年ずつ育児休業を取得。自身がネットショップのモデルも務め、ショップの運営や企画などを担いながら社員への子育てのアドバイスも行い、社内のロールモデルともいえる存在となっています。働き続けるためには本人の意識と努力も大きい部分を占めますが、復職できる環境を整備したことで定着率の向上にもつながっています。育児休業は、これまでに女性3人、男性1人が取得(ともに正社員)、パート社員も希望があれば取得可能とのこと。そのほか、保育園などへ送迎後にも出勤しやすい始業時間を9時半に設定、パートから正社員に昇格できる段階別評価制度、小学校就学前の子どもがいる正社員対象に1時間の時短勤務制度、時間単位での有給取得など雇用環境を整備しました。平成20年、こうした仕事と育児の両立を図る実践が認められ、厚生労働省の「くるみんマーク」(補足)を取得。社員のなかには、責任を持って育児と両立して働けることでパートから正社員に昇格した女性もいます。現在、全社員にfacebook(FB)の登録を呼びかけ、社内広報のほか、子どもの急病などで休む際の連絡ツールとしても活用しています。
今では定着した取組ですが、浸透するまでは大変だったといいます。チーム内に保育園が同じ従業員が重なり行事に一斉に休む事態が起き、チーム構成を見直して誰かが休んでもカバーできる体制にするなど工夫を重ね、今では違う部署でも社員同士お互いに手伝ってカバーしようという意識が生まれています。入社希望者のなかにも働きやすい企業だと知る人が増えていますが、育休取得者や育児経験者、また転職してきた女性社員からは良さが実感できても、独身で育児経験のない社員との意識には格差が生じます。千畑さんは、こうした環境は男女を問わず誰もが働きやすい環境であること、そしてそのなかでそれぞれが責任を持って働くという意識を持ってほしいと考え、「今は自分がカバーする時期だとしても、やがて自分が結婚し子どもを持った時、今度はサポートしてもらう番になる。助け合うという意識で働いてほしい」と伝えています。

地域のモデルケースとなるために

千畑さんは、「働きやすい環境のベースはできてきたように思うが、今後はそれを守り進化させつつ、企業として利益をあげていかないといけない。そのためには、自分たちでより良くしていくための効率化や意識の向上が大切」と話されました。先駆的な取組をしている企業であり、自分たちが地域のモデルケースとなって成功しようという意識を持つこと、また良い人材を確保していくための模索が続きます。今後は、在宅ワークなど多様な働き方も検討しており、「くるみんマーク」を活用して“子育て応援企業”というイメージをアピールし、女性の雇用につなげたいと考えています。
千畑さんは、「消費を引っ張っているのは女性であり、消費者の目線から商品を生み出すのも女性は得意。女性の活躍が経済活性化に有効なのは明白です。それには社会参画を進めて女性が自分で収入を得ることが大切。企業として雇用の部分からも応援していきたい」と話されました。現在、30代から40代の女性を中心とする顧客が参加できるネット上の企画会議や、FBを活用し県外の子育てサークルとのコラボ商品を開発するなど女性の視点を活かせる取組も行っています。
また、東京などで子育て関連のNPOと協働し、マタニティ服、授乳服などのリサイクルや様々な親子イベントを企画してチャリティイベントを開催しました。昨年は自社でも開催し、大好評でした。今後は、地元の団体などと協働し地域の子育てを応援したいと考えています。千畑さんは、「NPO活動をしている人たちから『地域のために働く楽しみ』を学ぶことが多い。女性や育児をサポートする企業として、これからも社員とともに様々な取組ができるように人材を育てていきたい」と意欲的に話されました。

(補足)くるみんマーク:平成15年7月に公布された「次世代育成支援対策推進法」において、従業員の子育て支援のための行動計画を策定・実施し、その結果が一定の要件を満たす場合に、厚生労働大臣の認定を受けた事業主が商品等につけることができるマークの愛称名。
(センターニュース第58号より、一部修正して掲載)

連絡先

有限会社シーエスピー
〒649-6216 岩出市野上野15-3
TEL:0736-67-3050

FAX:0736-67-2050

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