モデル事例集「倉岡有美」

「 ユズの里での8年を振り返って 」

農事組合法人 古座川ゆず平井の里

倉岡 有美さん (古座川町)

古座川ゆず平井の里は、古座川町平井地区という紀伊半島の南部に位置し周囲を山に囲まれた山間集落にあります。

総戸数77戸人口134人の小さな村で私が、お世話になってそろそろ8年が過ぎようとしています。
古座川町役場を退職後、待望の二人目の子供を無事出産し育児に追われていた頃、平井の集落では、柚子での産業振興や、加工の事業について夜な夜な検討会が開かれていたといいます。

平井の里が立ち上がるまで大変な道のりだった様子です。それまで農家のおとうちゃんが、柚子栽培を行い、地元の農協がそれを買い上げ果汁に絞り販売する。

加工品を作っていたおかあちゃん達は農協から果汁を仕入れてジュースやジャム、マーマレードをつくっていました。

高齢により加工品の製造作業に不安を抱くようになっていた婦人部の人たちは、次の世代に引き継ぐためにこれからどうしていけば良いのかを真剣に考えていました。
自分に何ができるのかは、わからなかったのですが、とにかく新しい組織で事務をする人がいないと言われ、子供を保育園に預け久しぶりに平井の集落を訪ねました。

あっさり決断した訳でなく、持病のヘルペスが再発するほど悩みました。

役場を退職すると決めたとき、私は、これからは家族のためにもっと日々の生活を大事にしたいと心から思っていたし、四季折々の草花と季節の行事を追いかけながら豊かに暮らそう、うつ病になってしまった母を支えて生きる、そう決めての退職だったので、私が仕事を始めた時、周囲はきっと呆れたことと思います。

私の中ではあの頃、役場というところで、公務員として、自分の仕事は精一杯やったのだから、もう十分。そう区切りがついていた筈だったのですから。
慣れない山道を1歳になったばかりの娘と通いだし、あっという間に1年が過ぎました。 

当初から予定していた新しい工場も完成しました。

新しい事務所に新しい機械。ボイラーで蒸気の配管が工場の隅々まで張り巡らされていました。お鍋はステンレス製でまぶしいほどピカピカしていました。

実は、ここからが平井の里で働く仲間と私の苦労の連続でした。半分自動で、半分手動。人件費削減のための機械化ではなく、「より効率よく衛生的に商品を作ることができるか」に重点を置いたラインでした。

仕込みの量は、計算上2倍から5倍にと増やすことができたのです。たくさんの量が一度にできる。と喜んだのですが、でもそれが間違いでした。柚子の大切な香りや、風味は熱に弱く、仕上がりまでの時間がかかればかかるほど良い製品はできませんでした。

「柚香ちゃんの味が変わった」「ゆず味噌が美味しくなくなった」引退した地元のおばあちゃんや、お客様からもご指摘をうけるほどでした。

配合から見直す商品。工程に工夫をする商品。商品ごとに改善が必要でした。当時従業員の中には、私以外にも子供が小さく、日曜日の朝から子供連れで工場に出勤し、ジュースを並べて味見をしたり、検品したりを繰り返しました。

その様子は、約1年もの間は、夢にまで出てくるほどでした。
今振り返ると最初の頃は、資金繰りもうまくやれず、柚子玉の支払がずいぶんと遅くなってしまったり、農家の人にもご迷惑をおかけすることばかりでした。

「倉岡さんは農家のことちっとも大事に思ってくれてない」電話でそう言われたこともありました。

いったい自分は何をしに来たんだろう。悔しくて涙がでました。一番の理解者であった行政職員の方も運悪く転勤され、途方に暮れる毎日でした。
会社を経営したこともなく、帳簿すらも付けたことがなかったのです。まして子供は小さく営業に行くにも限度がありました。

今でこそ泊りがけの出張も行けるようになりましたが、職場でも家の中でも走り回っていた気がします。今もその状況に変わりはなく、呆れていた父や母、夫も家事を全力で手伝ってくれています。

皆さんに迷惑をかけながらも何とかやってこれたのもそんな家族の応援があったからだと感謝しています。二人の娘も加わってそれぞれが出来ることをしてくれる。仕事人間の私は年中頭が上がらない状態です。
今では信頼できる職場の仲間もいます。最初の頃は、お互い初めてのこと尽くめの組織の運営に怒鳴りあい、なじりあいのケンカもしました。机を叩いて怒った時もありました。今は、良い思い出ですが、そんなことも乗り越えて8年がたったのです。

若い職員とベテラン職員の摩擦や、年齢による作業内容の見直しのように、世代交代の時などは本当に切ないなあと感じました。

その時初めて、今の平井の里があるのは、婦人部時代のおばあちゃん達が潔いほどに道を譲ってくれたからだとその時あらためて気づいたりもしたのです。

平井の里の応援団について

私達の心の支えになっている方たちがいます。皆さん和歌山を中心にそれぞれの企業でご活躍の方ばかりですが、ある時から本当に色んな方が平井の里にお見えになるようになりました。

農協の組合長さんはじめ、生協の常勤理事さん、無洗米販売の西日本営業所長さん、米油の営業部長さん、大手メーカーの顧問の方、漁師に見えない伊勢海老漁の漁師さん、目利きの干物屋さん、運送屋の社長さん。氷温冷凍技術で魚加工会社の役員さん。
不思議な集まりなのですが、何度もお会いするうち本当にいろんな相談をさせていただけるようになりました。

それぞれがこだわりの商品をつくり、精一杯お仕事をしながら勉強熱心な方たちばかりです。食事をしながら近況を報告しあい、励ましたり励まされたり、時には取引先を紹介したり紹介されたり。柚子工場の中だけ、女性の中だけでなく、様々な業種のさまざまな世代の方と接する機会が持てたことは私にとっての本当の財産だと感じています。

正直、仕事を続けていると女性であることで大きなハンデも実感します。男性のように頻繁に取引先を接待することも出来ません。たまたま出会った方々に恵まれていたのかもしれませんが、藁をもすがる気持ちで飛び込んでいったのも事実です。

「組織のこと教えてください。工場の加工機械のこと教えてください」と勇気を持って口に出来たのが良かったのかもし れません。色んな所に私たちの活動の紹介をしてくださったり、紹介する場を与えてくださったりしてくださいました。

山の中で柚子を加工しています。農家が集まって会社を作っています。できるだけ自分たちの手で添加物を使わない、子供にも孫にも食べさせてあげたい商品を作っています。たったそれだけなのですが、一生懸命そのことを大きな声で伝えているうちに、応援してくださる方も、なんでも話せる仲間になっていったそんな気がします。まだまだお世話になるばかりで、恩返しをするまでには至りませんが・・・。
いまだに悩んだり、焦ったり、落ち込んだりの日々ですが、自分自身はあまり背伸びをせず家族を大切にしながら、これからも農業振興をとおして地域の活性化がお手伝いできればと思っています。これからも「古座川ゆず平井の里」をよろしくお願いします。

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