健康増進などに役立つというポリフェノール。その一種であるフェルラ酸を、安価に、自然環境にやさしく、天然の米糠から抽出するという。
この世界で初めての試みを成功に導いたのは、和歌山県の研究者と地元企業だった。

 


●谷口久次(たにぐちひさつぐ)
和歌山県工業技術センター化学技術部長、大阪府立大学客員教授、和歌山大学非常勤講師、工学博士。


「米糠の廃油を何とかしたい」から始まった
 ワインやチョコレートなどに含まれ、コレステロールの酸化を抑制したり、発ガンに関与する酵素を阻害する働きをするなど、さまざまな効果があるといわれているポリフェノール。
 これから紹介する「フェルラ酸」もポリフェノール類の一種。紫外線吸収、酸化防止機能が認められ、食品、化粧品、医薬品原料としても大いに注目されている。そこでこれまで化学合成でしか製造できなかったフェルラ酸を、天然の米糠から効率よく抽出する技術を確立したのが、和歌山県工業技術センターと、米糠をベースにさまざまな商品研究・開発を進めているライスケミカルのパイオニアである築野食品工業(伊都郡かつらぎ町)との共同研究だった。和歌山市小倉の同センターでフェルラ酸の研究に携わっている谷口久次科学技術部長に話を聞いた。
 「米糠からフェルラ酸を製造するそもそものきっかけは、米糠からサラダ油を抽出、製造する過程で排出される『米糠ピッチ』と呼ばれる廃油の処理問題をどう解決するかということだったんです」と谷口部長。玄米を精米する際、約10%の米糠が生じる。日本では10%のうちのさらに約40%の米糠が米サラダ油の製造原料として使用されているのだが、その過程で排出される米糠ピッチは、これまで有効活用される技術や用途がなく、産業廃棄物として処理するか、焼却などによって処分するのが通例だった。それに加えて廃棄するには多額の費用を要したという。そこで、この大量に廃棄される米糠ピッチをリサイクルできないかと、谷口部長は考えた。 


左から米糠、黒色でねばねばした米糠ピッチ、そして結晶化したフェルラ酸。

 

 

フェルラ酸が含まれている米糠エキスのサプリメント。すでに商品化されている。


 

「産業廃棄物」から「未利用資源」へ
 「築野食品工業から米糠ピッチを何とかならんかと相談があったのが平成2年の春。同年の7月に研究を開始して以来、試行錯誤の連続でした」と谷口部長。ピッチを化学的に精査分析し、フェルラ酸が含まれる化合物の存在が確認できた。しかし、アルカリの水溶液や酸性の水溶液を用いて抽出を試みるが、うまくいかない。だが3カ月ほど経った頃、転機が訪れる。
 「研究チーム内で、米糠ピッチを『産業廃棄物』と呼ばないようにしたんです。廃棄物というと、暗くて嫌なイメージがあるでしょう。米糠ピッチは役に立つものだと、私たちはプラスのイメージを持つように心がけ、『未利用資源』と呼ぶようにしたんです。すると不思議といろいろなアイデアが湧いてきた」。そうして冬も間近という頃、実験室的規模ながら、純度の高いフェルラ酸を製造することに成功したのだ。
 「これまでフェルラ酸を製造するには、1キロ当たりの費用は20数万円必要でした。ところが、この技術だと約1/20に費用が抑えられるんです。製造期間も大幅に短縮されました」。ローコストになったことで、後に年間60トンの製造が可能となり、幅広い用途開発の道を開くことになったのである。
 1995年8月、フェルラ酸は「化学的合成品以外の食品添加物」として、また2001年3月には紫外線吸収用の化粧品原料としてそれぞれ国より認可された。

米を作る限り、多分野で広がる可能性
 フェルラ酸は、食品分野において抗酸化剤、変色防止剤としての役割が考えられており、紫外線カットの化粧品原料としても実用化が進んでいる。また海外ではバニラエッセンスなど天然物系香料の原料としても使用されている。さらにフェルラ酸を原料にして、EGMPという大腸発ガン予防物質が合成できる。血糖降下作用のあることも発見された。
 さらに地球環境にもやさしい。石油・石炭などの化石資源ではなく、バイオマス(生物資源)である農産物からトン単位で化学原料を得た技術開発は初めてのもの。フェルラ酸は人類が米を生産する限り、永遠に入手可能となる。これは未来の化学原料の入手方法の1つを示唆しているものだと高く評価され、和歌山県工業技術センターと築野食品工業が官民一体としては日本で初めて名誉ある井上春成賞(注1)を受賞した。
 「今後は、築野食品と共に培ってきた研究を応用させて、商品の企画開発などで社会貢献に努めたい」と谷口部長。現在、米は日本で約1千万トン、世界中では約6億トン生産されており、フェルラ酸が持つ市場は果てしなく大きい。

(注1)井上春成賞とは、大学、研究機関などの独創的な研
究成果をもとにして企業が開発、企業化した技術で科学技術の進展、経済の発展、福祉の向上に貢献したものの中から、特に優れたものについて贈られる。

 


連8号目次へ