
「お化けの数では、たぶん和歌山県が日本一じゃないかな」。
そう語るのは「わかやま絵本の会」の主催者であり絵本作家の松下千恵さん。同会は和歌山県下で語り継がれ、あるいは忘れられかけた昔話や伝説を採取・発掘し、それを出版して後世に語り継ぐことを目的に活動している。松下さんに和歌山県の民話とその魅力についてお話をうかがった。
まず「わかやま絵本の会」について。
「ずいぶん昔ですけど、実家にやってきた身内の子どもを寝かすのが私の役目だったんです。民話を聞かせてました。父にいろいろ聞いていたんですが、そのうちネタがなくなり、新しい話を仕入れようと図書館で本を探したんですよ。ところが、和歌山の民話を集めたのってないんです。自分の子どもには手作りの絵本を作ってやりましたけど、クレパスが手につくので、やっぱり印刷したいなと」
そこで友達を募ってできたのが「わかやま絵本の会」。18年前になる。これまで100冊以上の出版物を刊行してきたが、自分たちで昔話や伝説などを集め、それを分かりやすい絵本にする。文章も絵も自分たちで作るというスタイルを続けている。絵本づくりで最も重要な素材集めは、県下の町村をくまなく歩き、古い町村史をひもとき、あるいは役場の書庫で眠っている資料を閲読、さらに古老に取材し、聞き取る。これを繰り返す。ずいぶんと骨の折れる仕事である。それにしてもよく素材が続くものと感心すると、「いやあ、元ネタはたっぷりありますよ」とのこと。とくに高野山と熊野の周辺は民話の宝庫で、未採取の話がまだまだたくさん眠っているという。「江戸時代に、高野山や熊野へ詣でることがブームになったんですね。全国から人が集まり、全国各地のおみやげ話を持ってきたんでしょうね。それらが伝えられてきたんで、高野山や熊野に民話がたくさん残ってるんだと思います」
加えて、高野山はお大師さん(空海・弘法大師)、熊野は役行者という、民話の2大ヒーローゆかりの土地である。当然この2人にまつわる話も数多い。

「わかやま絵本の会」を主催する松下千恵さん。「民話というのは昔話や伝説、世間話の総称。絵本の会では現在の話も取り上げてます」 |
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わかやま絵本の会」
例会では会員が集めてきた話をもとに、次に出版するものを決めていく。出版・編集のプロはいないが、みんな真剣。議論が白熱することも。
「花好きじいさん」は
「花咲爺さん」?
民話ならではの特徴がある。日本各地に似たような話が伝えられているのだ。先のおみやげ話が全国に伝播していったためだろう。例えば、こんな話──
「花好きじいさん」
花の大好きなおじいさんがいました。あるときお役人がやってきて、おじいさんの花畑をめちゃめちゃに踏みつぶして帰っていきました。おじいさんが悲しんでいると、どこからか美しい女の人が現れて、花畑をもとどおりにしてくれました。花畑が新しくなったので、この土地を「新子(あたらし)」とよぶようになりました。
和歌山版「花咲爺さん」といったところだが、これは高野山のふもと花園村の地名にまつわる話。さらにお化けの話となると、松下さんが描いた分だけで150体。河童だけでも20種は描いた。その理由は川や海、山といった自然の豊かさに加え、仏教や修験道の影響も深く関わっているのだろうと分析する。「和歌山県人は信仰心が厚い。子どものころからお大師さんや熊野の神さまの話を聞いて育った人が多いんじゃないかしら」
和歌山らしい特徴もある。「だいたい話は短い。明るく、笑いの要素を含んだ話が多いですね。炉辺でじっくり話すような暮らしぶりじゃなかったんでしょう。どちらかというと南国ですから」
高野山や熊野の山里に入れば、そこには確かに民話の世界が色濃く残っている。雲がたなびく山々、うっそうと茂る木々、ほとばしる早瀬 豊かな自然を守り残すとともに、そこに潜む「お話たち」も次代に語り継いでいきたい。
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「和歌山県ぐるり一周おはなし
双六」(わかやま絵本の会)より |
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会員は10代から80代まで約100人。その内の20人ほどが作り手で、文を書き絵を描いている |

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