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和歌山の人、もの、地域 和 nagomi 発祥の地、和歌山 2014 vol.23

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[Special Essay Mai Nakahira -追悼小野田寛郎氏-] 負けなかった名草戸畔の物語

二〇十四年一月一七日の朝、小野田寛郎氏が逝去されたとの報せを受けた。
追悼の思いを込めて小野田さんの想い出を振り返ってみたい。

小野田さん
講演会「なかひら まい 小野田寛郎 名草戸畔を語る」の様子
2013年5月5日、テレビ和歌山・和歌山放送主催により和歌山市で行われた講演会「なかひら まい 小野田寛郎 名草戸畔を語る」の様子。小野田寛郎氏が名草戸畔について語る最初で最後の講演となった。

 私が小野田さんと初めてお会いしたのは、二〇〇六年十一月のことだ。「名草戸畔(なぐさとべ)伝承」についてお話を伺うためだった。名草戸畔とは、はるか縄文の昔、名草地方(現:和歌山市海南市)を治めていたとされる女性首長のことだ。
 小野田さんの実家は海南市小野田の「宇賀部神社」の宮司家だ。宇賀部神社は昔から「名草戸畔」の頭を祀ると言われている。宮司家の小野田家には名草戸畔の伝承が代々口伝で残されてきた。小野田さんは父や祖父からその口伝を聞いて育った最後の伝承保持者であった。
 名草戸畔は『日本書紀』に、九州から攻めてきた神武軍に「殺された」と一言だけ記されている。ところが、小野田家には、これとは違う物語が残っていることがわかった。「名草戸畔は負けていない」と小野田さんは言う。「神武軍は名草軍に撃退されて仕方なく熊野に行った。しかし最終的に神武が勝利し天皇に即位した。そのため名草は降伏する形になったが、神武軍を追い払った名草は負けていない」。それが口伝のあらましだ。
 小野田家では、名草戸畔は自分たちの遠い祖先と伝わっている。宇賀部神社の建つ山は、名草戸畔のお墓という説もある。家に入る前に、必ずご先祖のお宮にお参りする習慣は今も守られているそうだ。
 昨年の二〇一三年五月五日、小野田さんと名草戸畔について語る講演会を和歌山でやらせていただいた。小野田さんは、名草戸畔をはじめ権力に組みせず自由に生きる紀州人のお話をたくさんしてくださった。あの時の小野田さんの楽しそうな姿が今も目に浮かぶ。
 小野田さんがルバング島で三十年も生き抜いてこられた背景には「負けなかった名草戸畔の物語」があるように思う。神武軍と勇敢に戦った遠い祖先への尊敬と和歌山の豊かな自然が、どんな苦境でも諦めない、しなやかな強さを育んだのではないだろうか。
 小野田さんは、ご先祖・名草戸畔の眠る宇賀部神社の山にお還りになったのだろう。わたしはそう思っている。
(文・なかひら まい)

小野田寛郎(おのだひろお) 写真:堀田賢治
小野田寛郎(おのだひろお)
1922年3月19日、和歌山県海南市生まれ。1944年12月フィリピンに派遣。以来30年間任務解除の命令を受けられないまま戦闘を続行。1974年3月作戦任務解除命令を受けて日本に帰還。1975年ブラジルに移住、1200haの牧場を開発。10年かけて軌道に乗せる。1984年ルバング島の経験を生かし、キャンプを通じて青少年育成のため「自然塾」を開く。1989年財団法人小野田自然塾理事長就任。近年は全国各地で精力的に講演活動を行った。2014年1月16日死去。享年91歳。


なかひら まい
1970年3月9日生まれ。千葉県出身。作家・イラストレーター・ユング心理学研究会役員。2005年『スプーと死者の森のおばあちゃん〜スプーの日記〜』(トランスビュー)で作家デビュー。2010年12月『名草戸畔 古代紀国の女王伝説』発表。
書籍紹介/『名草戸畔 古代紀国の女王伝説』 増補改訂版
      なかひら まい・著
取材協力/小薮繁喜 小野田寛郎
価格:1,800円(+税) (スタジオ・エム・オー・ジー刊)
ウェブサイト: http://studiomog.ne.jp/nagusa/
名草戸畔 古代紀国の女王伝説
和歌山市・海南市に伝わる名草戸畔伝承について、和歌山市出身の郷土史家・小薮繁喜氏と小野田寛郎氏より、土地で語り継がれてきた伝承を採集して描いた古代史ノンフィクション。二人の語る伝承には、遠い昔この土地に生きた人々の思いや暮らしが生き生きと伝わってくる。律令制成立後に書かれた『日本書紀』とは違う新しい歴史感を提示する一冊。

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