知事からのメッセージ 平成28年6月 人生多毛作

人生多毛作

 我が県が大変恩義を受けている人に一柳良雄さんという人がいます。和歌山県では、私が知事に就任する前から今もずっと、ソムリエ委員会のメンバーとして革新的なアイデアを持った新しい企業の発掘に尽力してくれていますし、またプレミア和歌山の初代審査委員長として、この和歌山が誇るべき県産品売り出しシステムの定着にご尽力いただきました。(現在は第2代残間里江子さんに委員長にご就任いただいています。)
 一柳さんは通産省の私の6年先輩ですが、大変有能な役人さんで、私も随分御指導を受けました。国の役人は、当時肩たたきという定年前退職が慣例化されていて、現役の国家公務員を去るかわりに、役所が次の就職先を世話する制度がありましたが、一柳さんはこのようないわゆる天下りをお断りして、自分で一柳アソシエイツというベンチャーを起こしたのです。そこで当初は御苦労もされたようですが、事業を成功させて、企業に対するコンサルタントとか、論客としてTV等で活躍するとか、一柳塾として若手を育成するとかの幅広い仕事をしておられます。実はものすごく緻密な頭脳と戦略を持っている人ですが、立ち居振る舞いはウルトラ気さくで、出身地の河内の、ちょっとエッチなおっちゃんそのものに見えるところがまた魅力的です。
 プレミア和歌山を構想した時、私は多忙を極める一柳さんに是非審査委員長になってくださいとお願いに上がりましたが、それは一柳さんの持っておられる類い希なる発進力に期待したからであります。
 

 そういう一柳さんですから、関東にも、関西にも一柳さんを大好きな財界人がたくさんおられます。そういう方々が時々一柳さんを励ますパーティーを開いておられて、私もよく呼ばれます。その名称がまた振るっていて、「一柳良雄に仕事をさせる会」とか、最近では、「一粒で3度美味しい(人生三毛作)一柳さんの会」と変わっているのです。人生三毛作って何ですかと私が聞くと、「役人生活で1回、退職してからベンチャーで苦労してきて2回、最近前立腺ガンの手術をしたのでその後もう1回」とのことでした。
 

 今、和歌山では創業や第2の創業を助けるための「スタートアップ創出支援プロジェクト」を始めています。今時創業をするといっても、初期投資にもお金がかかるし、販売にも管理にもそれなりの能力を持った人が協力しないとなかなか始められません。そこでアイデアや技術を持っている人で、これはと思う人がいたら、県でアレンジしたベンチャーキャピタルや企業創出ファンドや投資銀行などに協力してもらって、それらの人のお金や人材も投入してもらって事業をスタートアップさせようというものです。今県庁はこの事業を広くPRして、我こそはと思う人を募ろうとしています。和歌山県内だけでなく東京や大阪などからでも、和歌山県で事業を興してくれる人なら大いに育てていくぞという考えのもと、各地でPRのためのセミナーを行い、8月下旬には創業、第二創業の候補者と上記支援機関とのマッチングセミナーを開こうとしています。
 創業をしようとする人は、中には学生さんもいるでしょうが、既に会社に入ってサラリーマンとして頑張っている人や、親や先祖が創業した会社に入って働いている人もいると思います。そして、今の仕事に安住することなく、自分でリスクをとって会社を興してみようとか、今の仕事のほかに、新しく別の事業を立ち上げてようと考える人が対象になるのです。そういう人にとっては、まさに人生二毛作です。今までの安定した生活から、リスクはあるけれど、リターンもずっと大きいと考えられるような仕事にチャレンジするのですから。
 ただ、当然リスクはありますから、失敗する可能性もあります。失敗した時にあまりにも過酷な運命が待っているというのでは、人はなかなかチャレンジに踏み切れないでしょう。まだまだ終身雇用を前提に成り立っている日本の社会では、一度組織の外に飛び出る時はよほど覚悟がいります。しかし、日本もこの和歌山も、その発展のためには前向きなチャレンジが必要なのです。したがって、私は、日本がこれから発展していくためには、もう少し、失敗してもまたやり直せるような制度が必要だと思っています。
 

 かつて通商産業省(経済産業省)を中心に自分でベンチャーをやるといって若くして中途退職した若者がいました。その多くは、現に各所で活躍していますが、そういう人の中にはまた公務員の仕事もやってみたい、特に民間で辛酸をなめた経験を生かせば昔よりもっといい仕事ができるはずだと思っている人もきっといるだろうなと思うことがありました。しかし、その時も今も、制度はそうなってはいません。一度辞めると、公務員の地位には戻れないのです。これは問題だなあと思っていたものですから、和歌山県庁で、ベンチャーに志した人が、頑張った後でもう一度県庁に戻れる途を開きました。もちろん無責任になってはいけません。うまい話があるからと口車に乗って退職した人が、うまくいかなくなってまた県庁に戻してくれるというのでは、県民の批判もあるでしょう。しかし、そういう甘さを極力排除して、工夫をした上で、これを認めることで、県庁の人材を民間の産業発展にもっと活用できると考えたのです。
 

 人生三毛作。三毛作もあるのなら、二毛作もあってもよい、人生は多毛作でいいではないかと私は考えています。

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