ようこそ知事室へ 知事からのメッセージ 平成22年1月 勝者の寛容

知事からのメッセージ

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平成22年1月のメッセージ

平成22年1月

勝者の寛容

また、塩野七生さんの「ローマ人の物語」から話を引きます。ローマがあのように長期に国勢を保ち得たのは、戦争に勝ったローマが敗者の側を迫害することなくローマに迎え入れ、同化させていったためであるというのが塩野さんの分析です。これを「勝者の寛容」と言います。
塩野さんの「ローマ人の物語」はえらい長編ですが、ローマが何百年にもわたり巨大な国(後半は帝国)を保持し得たのは何故かということが、一番のテーマのように私には思えます。塩野さんによれば、「ローマ人」とは、ローマという街の7つの丘のあたりに昔から住んでいた人ばかりではないのです。古代のことですから、狼に育てられた2人の兄弟から始まったという神話を持つ、もともとのローマ人も、近隣の諸部族と戦争ばかりです。もちろん、どんどん勝ったのです。ところが、ローマ人は、他のどの部族とも違う特色を持っていた。それが、敗者を同化していくということです。すなわち、戦争に勝ったからといって敗者を根絶するのではなく、恭順の意を誓った人々は、ローマ人として迎え入れ、ローマの政治や暮らしの中に巻き込んでいったのです。そのことでローマはどんどん大きくなります。もちろん、一挙にそれをすると、例えば、戦争でローマのために戦って戦死した人の家族などは怒ります。したがって、人々の権利義務を上手に調整しながら、徐々にそれを広げていくのです。歴史を振り返ると、ローマ人として認められるローマ市民権を持つ人々は、初期のローマ市の周囲の人々から今のイタリアに段々と伸び、さらにはカエサルの時代にあれほど敵として激しく戦ったガリア(ケルト)やゲルマン、その少し前に屈服した北アフリカの諸民族も段々とイタリアの市民権を得るようになっています。ローマが帝政に移った後は、イタリア本土でない属州出身の皇帝がどんどん立つようにもなりました。塩野さんが、何故ローマがかくも長く繁栄し、そして、ローマ帝国が滅びた後も、ヨーロッパの統治精神となり統治技術となって、今日に至った理由としているのは、この「敗者を同化する」ことと、その裏側にある「勝者の寛容」であるのです。
人間世界には、戦争に限らず、さまざまな意見、利益の対立があります。現代社会は、このような対立を合理的に終わらせるように、選挙とか、投票とかさまざまな工夫・方法を発達させてきました。スポーツや文化の世界でも競争が進歩や向上に結びつくようにさまざまなコンテスト、選手権、競技会などがあります。
しかし、スポーツや文化の世界では戦い済んで日が暮れたなら、お互いの健闘を讃(たた)え合う姿が大概は見られるのに、政治や選挙の場合は、どうもそうでもないことが多いようです。勝った方は、かさにかかって負けた方をたたきに行き、負けた方は、またそれをくつがえそうとすることもままあります。そうすると戦いは永久に続きます。最近の国政などを見ていますと、まだ対立図式だけで世の中が動いている感じもします。勝者が敗者をたたきつぶしに行ったら、敗者の側の恨みが募ります。昔の戦争と違って、敗者を本当に根絶することなどできないのですから、いつか仕返ししてやるぞという人々を増やすことは得策ではないと思います。また、この恨みは、社会の中に残って、社会全体が力を合わせて前に進もうという動きを阻害します。また、いつまでも続く対立の中で、弱い人々、弱い地域が翻弄(ほんろう)されるのです。やはり、ここは勝者はまず寛容の精神を持って行動を律するべきではないでしょうか。それによって一時の敵も同化できるのではないでしょうか。
政党対政党の争いはともかく、この和歌山に関する限り、すべての人がそうであってほしいと思うし、現に、そうやって激しい選挙の後、「勝者の寛容」によって人々の融和と団結に努めている首長さんを何人も知っています。少なくとも自分は、引き続きそのように行動していきたいと思います。

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