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知事からのメッセージ

知事からのメッセージを紹介します。

平成19年12月のメッセージ

平成19年12月1日

「大手町のうわさ話」

 企業にとって、設備投資は最も大事な意思決定です。どこに立地するかということも、最も苦慮して決定する項目です。昨今、各自治体は熱心に企業誘致をしています。その一つの手段として、多額の補助金を用意して、企業誘致のための助成制度の充実を互いに競っています。和歌山県も遅ればせながら、前知事時代の最後の頃、企業誘致策を抜本的に強化し、最高限度額100億円にのぼる立地補助金の創設を始めとする助成制度と、企業立地課の諸君による熱心な企業訪問を始めました。私の時代になってからも、この制度を多少手直しして使いやすくするとともに、立地した企業に対する県からの貸付限度額をそれまでの5億円から25億円に拡大しました。これらの制度は企業誘致を行う上では有効ですが、すべてではありません。企業は立地において採算の見通しを立てますから、このような助成があれば、採算の見通しをより立てやすくなるということです。

 しかし、企業は助成をもらえるからといって、立地を決定するわけではありません。その後何十年にもわたって、そこで操業し、投資額を回収するのみならず、十分な利益を上げていかなければなりませんから、そういった全体の見通しの中では、助成金は一つの要素でしかありません。それよりも、企業は土地や建設のコストがどうか、優秀な人材は雇えるか、その際のコストはどうか、原材料は運び込みやすいか、製品は運び出しやすいか、住民の企業に対する感情はどうか、従業員の家族の暮らし、教育など生活環境はどうか、県や市町村の行政が企業活動を助けるものか足を引っ張るものか、当地の社会情勢、政治情勢が阻害要因にならないか等々、ありとあらゆることを考えます。そして、このようなことを入念に調べて結論を出します。また、現に操業している他企業の動向や、場合によっては投資を断念したり撤退していった企業の意見なども聴取します。従って、仮に「あそこへ行くとひどいめに遭うぞ。住民は企業に敵対的だし、人々は文句ばっかり言って働かないし、行政府は無能で企業が困っても助けてくれないし、たかりに来る人がいるし・・・」などという評判が立ちでもしようものなら、その地域は企業誘致に格段に損をします。こういう評判は企業の情報交換によって、あっという間に広がりますので、私は大手企業がいっぱい集まっている東京大手町の名から、「大手町のうわさ話」と秘かに名付けています。

 和歌山県は昭和50年頃までは、経済成長も企業立地も他県と比較してもまあまあの水準で、昭和50年には鉱工業生産高は22位、人口が100万人前後の県にしては、いい成績であったと思います。しかし、その後、一部の中小企業業種が衰退する一方、めざましく成長した分野や企業があったにもかかわらず、直近までの約30年間に鉱工業生産の伸びは、工場等制限法等で工場追い出しを余儀なくされた東京と大阪、それに沖縄に次いで全国44位、県民所得成長率については最下位という状況でした。この間、日本経済は大いに構造変革を遂げ、ハイテク機器産業が次々と新規立地を行い、その比重がうんと高まっていますが、和歌山県ではこういった産業の伸びが低位にとどまっています。新規立地ももちろん県内各地にあったのですが、他県よりも低位にとどまっているのが現状です。この背景には、和歌山県の立地環境に対する産業界の低い評価があったのではないかと私は思っています。私は、ある企業の社長から「私は和歌山が大好きだが、和歌山の工場と他の地域の工場では、周囲の人々の対応がずいぶん違う。会社が何かトラブルを起こして、対策に徹夜で頑張っていると、和歌山の工場では、住民が謝れと言って押しかけてくるが、他の地域では『ご苦労さん、頑張って早く直してくれよ』と言って一升瓶を持ってきてくれた」というお話をお聞きした時、苦笑以上のものを感じました。また、政府機関の人々から「つい最近まで、和歌山の産業を振興してやろうとして、産業界の人々と話をし、せっかく盛り上がったのに、県の当局はちっとも呼応してくれようとしなかったし、面会のアポを取るのもものすごい時間がかかるという有様であった」というような話を聞いて、大変な危機感を感じました。また、カレー毒物混入事件や、度重なる市長や知事の逮捕といった不祥事も、このような悪い評判を上塗りするものです。

 この手の話は、地域の立地環境を物語るものとして、容易に人口(じんこう)に膾炙(かいしゃ)します。そして、一旦広がってしまうと、一つひとつの事象が事実に反するようなことがあっても、その地域の評判[パーセプション]として、牢固たるものとなってしまいます。これでは、企業誘致もなかなか進みません。私は、2001年から2002年に経済産業省の通商政策局の審議官でしたが、その時の担当国の一つが韓国でした。私は、日韓の関係強化がこれからの日本にとって大事だと思っていますので、双方の投資交流を盛んにしようと考え、色々、日本の財界人に働きかけをしたのですが、財界の反応ははかばかしくありませんでした。韓国の労働環境はよくないので、韓国へ投資すると労働紛争でつぶれてしまうぞというものでした。1980年代に、財界には対韓投資ブームというべきものがあって、結構多くの企業が韓国に投資をしました。しかし、当時の韓国は本当に労使紛争が激しく、日本企業のみならず韓国民族企業も、その手の紛争に悩みました。一部の企業はやむなく撤退をしたのです。その結果、大手町には「韓国へ行くと労組にひどい目にあうぞ」というパーセプションが行き渡ってしまったのです。2001年当時は、労使関係もずいぶん改善され、うまくいっている日系企業も数多くあったのですが、大手町のうわさ話は一旦できてしまうとなかなか消えないのです。

 和歌山県も、最近は県庁を挙げて企業誘致に努力をしていますが、この手のうわさ話に邪魔された例も多いことでしょう。私が就任後も、多分、この手のパーセプションに負けて、企業を取り逃がした例もありました。しかし、この手のパーセプションも永遠ではありません。清新な行政を行い、県民がこれに協力をして「和歌山は変わったぞ」ということを、最初は少数の人でも思い始めてくれれば、そして、和歌山県がこの努力をずっと続けていけば、いずれは「和歌山県の立地環境はなかなか良いぞ」というパーセプションも、これまた「大手町のうわさ話」を通じて広がっていくものであります。就任以来、私自身も数多くの企業を訪問して、和歌山のPRをして企業誘致のための活動をしています。その際、当県の種々の客観的メリットを示すのみならず、常に「自分は経済産業省の役人をしていて、企業が何かトラブルに巻き込まれ苦境に立った時、非常に多くの場合、地方公共団体が身をかわして、例えば、住民との対立があった時などにも、逃げてしまうような例を見てきました。企業にとってこれほど理不尽と思うことはないでしょう。問題は徹底的に追求しないといけないが、少なくとも私が知事の間は身をかわさないようにします」と言い続けてきました。さらに、企業が不必要に行政手続きの遅さに悩むことがないよう、中味はきっちり見させてもらうけれども、行政の責任に帰する遅延だけはないように心がけ、県庁の職員の指導も行っています。また、この旨を企業の首脳の方々にも言い回っています。

 企業誘致活動は、そう簡単ではありません。とりわけ、現在のような経済の拡張期には、企業は現在の技術が生かせる地域で生産の拡張をしたいと考えるものなので、ここ20~30年の新規立地が少なく、既存の工場の少ない和歌山県のような地域は苦戦は免れません。しかしながら、昨年以来の県庁の立地担当の諸君の絶え間ない努力や、上記の姿勢が徐々に評価され、年初来、別紙(平成18年12月以降の本県への企業立地動向)にあるように、近年に比して格段に多数かつ多額の投資案件が公表されるに至っています。とりわけ、住友金属工業株式会社が和歌山製鉄所に現在建設中の新型高炉に引き続き、第2新高炉の建設も発表されたことや、松下電池工業株式会社が紀の川工場で、これまでの部品製造から最終製品組み立てまで事業を拡張すると発表されたことは、日本でも有数の大型投資であると思います。

 かくなる上は、上記考え方に従って、この投資を企業とともに成功させなければなりません。スピードが一段と重要になってきているこの現代、遅延による生産の遅れは企業の命取りになります。スピーディに設備が完成し、生産が円滑に行えることが、この和歌山で可能であったということが立証されれば、それが橋頭堡(きょうとうほ)となって「大手町のうわさ話」は180度変わり、「和歌山はなかなかいい所だ」と皆が思ってくれるようになるでしょう。そうすれば、和歌山への投資は盛んになり、和歌山における働き場所は大いに拡大するものと思われます。私を始め、県庁はねばり強く頑張ります。しかし、それがうまくいくかどうかは住民の皆さんの協力など、県民全体の努力にもかかっています。先日、二階代議士のグループの会合に出ました。その際、二階代議士が「一人の百歩より一万人の一歩が大事だ」とおっしゃりました。皆で力を合わせて頑張りましょう。

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