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知事からのメッセージ

知事からのメッセージを紹介します。

平成19年10月のメッセージ

平成19年10月1日

「故 後藤 伸さんに思う。 − 和歌山の自然 −」(今回からタイトルを付けました。)

 和歌山からは大変立派な人が輩出しています。最近、あらためて和歌山のことを勉強し直してみて、たくさんの新発見がありました。例えば、外務省の大先輩で、外交について大変立派な見識を述べておられる岡崎久彦さんの著作で陸奥宗光のことを読んだりしておりますと、明治維新以来の日本の発展の中で和歌山県人の果たした役割が、学校時代に教えられた歴史以上に凄いものがあるということがわかります。しかし、その事蹟はあまり世間には知られていません。薩長藩閥政治の中で抹殺されてしまったのかもしれません。岡崎久彦さんの言われる「薩長史観」を我々はずっと教えられてきたのかもしれません。あるいは、どうも我々和歌山県人は昔も今もPRが下手で、それが、今の時代に農林水産物の販売や観光のPRで、少々他県に出遅れていることにつながっているのかもしれません。
 私は、この辺の話は、せめて和歌山県の教育の中できちんと取り上げて、この郷土に生まれた若い人々を勇気づけていく必要があると考えておりまして、その具体策を検討してもらっているところです。

 ともあれ、そのような立派な人の一人に、後藤 伸さんという方がおられます。田辺高校の生物の先生をずっとされて、数年前にお亡くなりになった方です。実は、この方は在野の昆虫学者で、私も蝶の採集、研究が趣味の一つでありますので、そういう意味でよく存じ上げている方です。和歌山に帰ってきて残念に思ったことの一つが、後藤さんが亡くなられていて、再会がかなわなかったことです。再会と申しましたが、それは私の記憶に誤りがなければ、私が小学校の6年生の時、竜門山の頂上で後藤さんにお目にかかっているからです。後藤さんは、竜門山の名産であったギフチョウを採集しに登ってきて、峠の上で休んでいた私の後から、随分急ピッチで登ってこられて、そこで色々なことを少年の私に教えてくださいました。もちろん、後藤さんはギフチョウなどとっくの昔に採っておられたのですが、何でも全国の友から比較研究用に送ってくれと頼まれたので採りに来たのだというようなことを言っておられました。私も少年ながら同好の士として「ぬぬ、この人はできる!」というようなことはわかるもので、それ以来、お目にかかる機会はなかったものの、ずっと和歌山の自然といえば後藤さんのことが頭の中にありました。
 和歌山の自然探求家といえば文句なしに南方熊楠のことを思い出しますが、私は、後藤さんなどは南方熊楠の系統に属する、しかも大変レベルの高い本当の意味でのナチュラリストだと思っています。先に、串本を訪問した時、大辺路刈り開き隊の皆さんと「いきいきトーク」で対話したのですが、その時の参加者の一人の女性から後藤さんの講演録「南紀の森、川、海の昔と今」をいただきました。すばらしいお話でした。中味は、私などが紹介するよりは、例えば、~熊野の森ネットワーク~ いちいがしの会 のホームページの「いちいがし通信」に載っていますので、その方面に興味がおありの方は一度読んでみてください。

 和歌山は木の国です。それは、もちろん木材資源の国でもありますが、一方、照葉樹林が茂る、水と森の国でもあります。その森が今どうなっているか、その結果、何が起こっているか、後藤さんのこの講演は非常に多くのことを教えてくれていると思います。私たちは、知らず知らずのうちに、昔の紀州の人々が持っていた自然に対する知識とか、畏怖の念とかを失っているのかもしれません。ただし、後藤さんはナチュラリストの立場から、県の林業政策、特にスギやヒノキといった針葉樹の植林による林業経営に対して、耳の痛いことを言われています。私は、それも真理ではあろうが、疲弊した山村の人々の暮らしを守るために、林業を守っていかなければならないと思っています。植林の営みも我々が生きていくためには必要だと考えています。和歌山の林業を再興するために、何とか低コストの林業を確立し、間伐材をはじめ紀州材の需要喚起に努める必要があると思って、ほとんど毎日、県の森林・林業局の諸君と様々な試みを探っています。企業の森の勧誘にも走り回っています。
 しかしながら、私もナチュラリストのはしくれとして、自然の法則に反する試みが成功しないだろうということもわかります。後藤さんのように我が和歌山県の自然に対する深い知識を持って、これを生かしながら政策を考えていかなければならないと思っています。また、ますます複雑化し、自然とのふれ合いを失いながら生活している都会の人々にとって、後藤さんが守ってやまなかった和歌山の本来の自然が、経済的にもまたいかに貴重なものであるかということも、よく頭に置いておかなければならないと思います。例えば、県の進めている「ほんまもん体験」観光も和歌山の大変なセールスポイントになっていますが、これも和歌山の豊かな自然があってのことです。また、自然を求めて、あるいは、自然と文化伝統が一体となった高野熊野の世界遺産を味わうために和歌山へ来てくれる人はますます増えていくでしょう。その時、せっかくのセールスポイントである和歌山の自然が損なわれているようなことがあれば、それは、和歌山の経済的価値も下げてしまうと私は思います。自然を賢く利用するということが大事ではないでしょうか。和歌山の山村に住んでおられる方は、皆このことをよくわかっておられると思います。そして、和歌山県の職員も、昔から後藤さんに叱られながらも、その考えを理解し、後藤さんのような森や山や木に関する深い知識と和歌山県の林業再興に強い情熱を持って頑張っています。

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