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寄稿・提言・訓辞・挨拶集

新聞・雑誌等への投稿や、各種行事での講演・挨拶、政府への政策提言等を通じて、知事の考え方や政策を紹介します。

和歌山大学観光学部知事講義『観光を考える』第3回「観光と高速道路」

 今日もまた皆さんとやりとりをしながら進めていきたいと思います。今日は先生もいらっしゃるので、先生にも意見をお聞きしながら進めていきたいと思います。前回出ていない方もいると思うので、この『観光と経済学』という紙に常に戻るという風にして進めたいと思います。
 なぜ、こういうことをするかというと、皆さん観光学を勉強されていると思いますが、筋がないと、せっかく勉強してもおろそかになってしまいます。筋が入っている、つまりディシプリンがあると皆さんの学問の整理ができると思って、このようなことをやっています。1つのやり方として、経済学をツールに据えた観光学をやってみようということです。
 従って、1回目はものの考え方を喋りましたが、前回は保全の問題を喋りました。今回は高速道路の話、もう1回は都市計画の話をしたいと思います。
 そこで今日やることは、お手元のレジメにある通りです。第1に『高速道路と国際競争力』の関係を話します。2番目に、『高速道路をどこにどの順序で作るべきか、B/Cの手法について』、ベネフィットコスト分析つまり費用便益分析についての議論をしてみたいと思います。それから、『高速道路が観光に及ぼす影響』について。それから、『料金問題と社会実験』、ここで言っている社会実験というのは、前原大臣とか馬淵大臣がおやりになった高速道路料金に関する社会実験です。それから、『観光資源と高速道路』ということを、もう1度話したいと思います。最後の点は、「高速道路を作ると観光資源が毀損されるじゃないか」という前回の議論の続きです。こういうことを、できるだけ1回目に説明したツールを使って、皆さんと議論したいと思います。
 『観光と経済学』という資料の2番目に、『経済学を用いて考える際に有用な項目』というのがあります。少し復習をしてみたいと思います。この言葉の中に『動学分析』と書いてあります。経済学の先生は、「何だこれは。物凄く難しくて立派な話をするのか」と思われるかもしれませんが、違います。これは要するに、ある時点で制度が与えられ、与えられた制度の基に意思決定がなされて行動が起こる。その時に、その時点における、例えばコストとベネフィット、費用と収益というような色々な分析がなされますが、それが制度を変えた時にどんな風になるかというのを、制度が前のままのコストや意思決定、或いは価格で考えていいのかというと、ダメに決まっているんですね。そういう、「制度が変わると意思決定が変わり、選好が変わり、いろんなことが変わってくる」ということを、勝手に『動学分析』と言っています。そういうことを今日も少し使います。
 それから、『部分均衡と一般均衡』という言葉もあります。1つの政策をすると、その政策の中で効果があったりなかったりします。けれども我々が対象としている世界の外で、我々がやろうとした結果、影響を受けて別の事態が発生するということがたくさんあります。その事態をどういう風にして考えるかということなくして政策をやるのはいけない、ということを示すために、わざわざこういう言葉を使いました。要するに「副作用がありますよ」とか、「それによって起こる別の問題を解決しないと問題が発生しますよ」ということです。
 それから今日使う議論として、特に『制度と意思決定』、制度というのが人々の意思決定にどんな影響を及ぼすかということを大いに議論しながら授業を進めたいと思います。

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和歌山県の高速道路の整備状況

 それでは、第1の議論に入る前に和歌山県の高速道路の整備の状況、これをみんなで共通の認識にしておきましょう。資料の1ページを見て下さい。
 和歌山県の高速道路は、京奈和高速道路というのが北にあって、この黒い所はできていて、赤い所はまだこれからです。整備計画・事業中というのは、今造っている所です。それから点々は、造るということがまだ決まっているわけではないが造らなければいけないという風に考えている所です。ただし、整備計画と事業中というのは随分違って、造ることにはなっているけれど、工事が始まっている所と、工事も始まっていない所があります。工事が始まっていない所の代表は、例えば御坊から南紀田辺の黒い線の横に赤い線があります。これは何かというと4車線化です。暫定供用と言いまして、御坊から田辺までの間は2車線で往復1車線ずつで供用されています。本来なら、4車線の高速道路を造る計画になっているけれど、実際工事は全く始まっていません。一方、京奈和の赤い所は、1車線の暫定供用レベルですが、造るということにしているので、今一生懸命工事をしています。それから、有田と御坊は点々がどうなっているか。この区間は、昔、和歌山県民が「高速道路はいらない」と言った時代があって、高速道路から取り残されました。これではいけないと反省をして、一般有料道路というのを造ってもらおうということになりました。それがここにある点々の所です。一般有料ですから、県の負担率も多くお金もかかるから、県としては2車線でいいじゃないかと初めから2車線で計画をしました。従って、ここは計画も2車線しかなかったのです。今どうなっているかというと、そんな状態で放っておくわけにはいかないので、4車線にすることにしました。高速道路を造る時には、基本計画を作ります。その前提として、環境影響評価、都市計画で造るのだと決めておいてから事業化をします。そして整備計画に載せ、実際にお金をつけて整備するということになるのですが、環境影響評価と都市計画だけ、私の任期1期目の4年間で全部やってしまいました。生物がどうなっているかとか、高速道路を2車線から4車線に増やしたらどんな影響が出るかとか、そういうことについて、実証的にきちんと分析して結論を出さないといけないのです。そうして、「ここは造ってもよろしい」ということになったら都市計画を作ります。そういうことをやって、ここはOKということにしました。しかし、まだOKが出た段階で、造ってやるぞとは誰も言っていない。こういう所が点々の部分です。同じく南紀田辺とすさみ間は、27年までを目指して工事をしています。しかし、すさみから太地の間は、まだ造るとも造らないとも決まっていない。新宮から熊野の間も造るかどうか決まっていない。こんな状況になっているわけです。
 そこで、和歌山県はどういう風に主張しているか。皆さん、寺島実郎さんという人を知っていますか。三井物産にいて、テレビなんかにも出てくる解説の人です。今の政権の中で、高速道路をもう1回考え直そうという動きがあります。前原大臣の時は、高速道路はダメだということで全部やめていたのですが、それではやはりダメだということになりました。例えば津波の時なんかもやはり高速は必要だということで、三陸道なんか本当に物凄いお金をかけて造るのです。そういうところの理論的な背景をきちんとしようということで、国土交通大臣が改めて高速道路のあり方に関する検討をしています。もうすぐ結論が出ますが、その時の座長が寺島実郎さんです。その寺島委員会に我々が持っていった意見がこれです。
 我々は何も和歌山県のことだけ考えているわけではなく、「そもそも高速は国としてあなた達が造らないといけないでしょう」ということをどうやって実証するかを考えて書いた紙です。従って、『高速道路は国土の骨格を形成する広域的な社会資本であり、国の責任において最後まで整備すべきである』、『高速道路は県民のチャンスを保障するものであり、整備の見通しを明確に示したうえで、早期にミッシングリンクを結合すべきである』。ミッシングというのは、失われているということです。リンクなので、繋がっていなかったり不十分でしかないところがあったら、「失われた輪」ということでミッシングリンクと言います。「まだ繋がっていない失われた輪」。そういうものを繋いでしまおうじゃないか、と言っているわけです。3番目に『東南海・南海地震の地震・津波災害に備え、国道42号の代替路となる高速道路は命の道である』、こういうことを言いました。言ったのは、大水害の前、春ぐらいです。それから、『経済活動や救急医療など高速道路本来の効果を発揮するため、交通量が多く、渋滞している箇所から、早急に4車線化を行うべきである』という風に言いました。それから5番目に『国は、全国の高速道路ネットワークの早期完成に全力を上げるとともに、国際競争力の観点から合理的な高速道路料金に設定すべき。また、料金施策は、地域間の公平性や他の公共交通機関への影響等に十分配慮すべきである』ということを言いました。こういうことを理論的に考えた時に、正当性があるかどうか、それが観光にどのように繋がっていくか。それが今日のテーマです。
 ここまでの所で、何か思うことがあれば言って下さい。

社会人: 知事の説明のとおりだと思いますが、私が若い頃から道路整備というのが和歌山県は特に遅れていました。整備する時には日本で1番高い道だと言われましたが、あの那智勝浦新宮道路がなかったら、今回の水害の後もどうしようもなかったのではないかと思います。早く道をつけていただきたいと思います。

和歌山大学の先生: 『高速道路のあり方に関する和歌山県の意見』というところを聞かせていただいたのですが、本当に3月の震災の後、高速道路は「命を守る」という、今まで皆が若干忘れていた部分の重要性が見えてきました。高速道路ができると二酸化炭素の排出量が増えたり、それから観光地にたくさんのマイカーが押し寄せることになって渋滞や景観を悪化させるという問題もありますが、そういうことを総合的に考えていく中で、先程、お話があった一般均衡を考えると、震災それから先日の台風災害などを考えると、「命を守る」ということが非常に大きいことで、高速道路というのはやはり大きいなと感じるところです。

知事: 先生が言われたことは、たぶん、総合的に考えた時にどうするかということだと思います。総合的に考えるということは、経済学で言うと、定量化しないと総合的に考えられないのですね。効用というのは量に簡単に置き換えられないので、たぶん、経済学できちんと答えを出すのは難しいと思います。それは、何も経済学で答えを出さなくてもいいので、民主主義のルールに則って、リーダーが、賛成、反対といろんな意見を言って決めればいいと思います。

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高速道路と国際競争力

  それでは、第1番目の『高速道路と国際競争力』というところに入りたいと思います。これについては、資料が3~6ページにあります。これを見ていただいて、思う所があったら、『経済学を用いて考える際に有用な項目』などを使いながら説明していただければ物凄くいい議論になると思います。
 それでは、皆さんこれを見て思うところがあったら手を挙げて下さい。

学生: 簡単に資料を拝見しただけなのですが、確かにフランス、ドイツに比べて道路整備の水準というのは遅れていると思うのですが、それと同時に日本というのは、人口密度や地形の問題で、整備がしにくい環境がかなりあるのではないかと思うのですが、その辺りはいかがでしょうか。

知事: 物凄くいいことを言われました。ドイツやフランスは、割合、平地みたいななだらかな所があって、都市に皆が集まって住んでいます。だから、高速道路を造るにしても一気に造ってしまえる。中国もそうです。従って、コストパフォーマンス、要するにB/Cのコストが低いので、ベネフィットがあまりなくても「造ったらいいよ」ということになります。「日本は造りにくいから、無理に造ると負担増にメリットがついてこないのではないか」という議論は十分あるので、物凄く良い着眼点だと思います。
 ただ、この図を見てどう思うかというのがその次の議論です。「確かに日本は遅れているけれど、ドイツがこうなっているのは造りやすいから造っただけか」ということを考えます。そうすると、日本でも造られた所と造られてない所がありますね。造られていない所とドイツで造られている所を考えるとどちらが使いやすいか、ということもあります。そこで、制度と意思決定ということを少しご説明したいと思います。制度というのは高速道路があるかないかです。あるかないかということによって、そこにおける人々の意思決定が変わってきます。それから、ビジネスチャンスも変わってきます。例えば、高速道路に乗ってすぐ持って行けるならば、「ここで工場を作り製造してもいいな、土地代も安いし」ということになります。けれどもすぐ持って行けない所は、始めからチャンスがなしになっているのです。だから、国道をチャンスのある段階にしておくか、チャンスのない段階にしておくかというのは、先程のコストとベネフィットの関係で大きく見た時に、ベネフィットの方も大きくなるかもしれませんね。国が全体として同じように発展するとしたら、一部だけしか使えなければ一部がすごく過密になります。そうすると、そのような国道を放っておくのはいかがなものか。ベネフィット全体が大きくなったり小さくなったりするから、高速道路をどこまで造るかというコストを考えると、もしかしたら答えが違ってくるかもしれません。大変良いことを言っていただきました。 他にありますか。先生どうですか。

和歌山大学の先生: 3ページの『規格の高い高速道路などの車線数別延長』というところで比較の対象になっているのが、ドイツとフランスですが、例えば、国土の形や大きさが似ているイギリスと比較するのも1つあるのかなと思いました。

知事: イギリスに関しては、4ページに出てきます。実はイギリスは、物凄く規格の高い道路というのは少ないのです。ここにある制限速度60km以上走れる道というのは、基本的には2車線繋がっているところです。イタリアの高速道路はアウトストラーダと言うのですが、スーペルストラーダという自動車専用道路があります。イギリスの道というのは基本的にそのような道なのですが、その密度がこの資料のような状況です。これと日本を比較すると、ネス湖がある辺りは日本よりももっと悪いけれど、イングランドぐらいになると、かなり密度が高くなりますね。

和歌山大学の先生: 60km制限についてですが、日本の道路というのは制限速度がやや低めに設定されています。一方、イギリスの場合だと、日本の普通の国道に相当する道の制限速度が95kmですし、フランスだと90kmなので、日本の一般道についても制限速度を適宜見直すことで、敢えて新しい道を造らなくても、この図がもっと変わるということがあり得るのかなと思います。

知事: この図は60km以上と書いていますが、基本的には2車線の高規格道路以上のものを書いているということで理解していただきたいと思います。
 道路をどう利用するかという話と、それから、制度としての道路が意思決定にどんな影響を及ぼすかということを、これから議論する材料にしたいと思います。
 それから他にご意見はありませんか。

社会人: 4ページの空港と比較しているところで和歌山を考えると、白浜空港があります。もう1つ1ページ目の地図を見ると、白浜から南に高速は延びていません。いかに規格が悪いかなと思います。というのは、白浜空港があれば、LCC、格安航空会社なんかが来る可能性もあります。ましてや南に行くとなると、もう少し将来を見越した道路網を整備する必要があると思います。

知事: 今仰ったのは、この寺島さんのところで私達が申し上げたかったことです。道路というのは制度だから、制度によって、観光客が来ることが可能になるかどうかが決まってくる。道路がなかったら外国の方なんかは絶対来てくれません。そうすると、外国から来る客は、何も白浜ばかりではない。例えば、空港に降りてから手っ取り早く行けるような観光地が他にもあると、そちらを選好して行きます。ですから、そういう意味ではチャンスが物凄く少なくて、損をしているということが言えます。
 もう1つ非常に面白いのは、6ページです。6ページの表を見ると、高速道路というのは、中国は1990年では522kmだったのですが、2007年では53,000km、100倍くらいになっています。見ていただきたいのは、ドイツと日本の比較です。ドイツはヒトラーの頃から国防の観点もあって、アウトバーンをどんどん造って国中に高速道路が巡っていました。「もう完全ではないか」というのが私が子供の頃の議論でした。
 そこで、90年から2007年まで見ると、ドイツは9,000kmぐらいから12,500kmぐらいになりました。日本は5,000kmなかったのが、今は7,600kmぐらいです。問題は、引き算をした時です。どちらが引き算が大きいと思いますか。計算すると分かるのですが、日本で2007年から1990年を引きますと、2,772km延長しています。一方ドイツは、3,635km延長しているわけです。すなわち、ドイツの方が多いんですね。なぜこうなっているかというのは、ここでは立証していません。立証していませんが、明らかに各国とも高速道路の持っているインフラとしての競争力の条件ということを考えていると思います。それはここにはありませんが、いろんな文献等から明らかです。中国は、経済発展をどんどんさせないといけないということで、国道を縦横にどんどん造っています。そして、その高速を造った所に、いろんなものを造るということになるわけです。
 そういうことをやってきたのが、各国の政策だということは明らかだと思います。日本はこれに対しどう考えるかというのは、国民皆がいろんなことを考えなければならない、ということを申し上げたいと思います。

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高速道路をどこにどの順序で作るべきか−B/C手法について

 では、次にいきます。7ページから13ページまでをざっと見ていただいて、皆さん言いたいことがあったら言って下さい。

学生: 第1国土軸から整備が始められていますが、和歌山県においては第2国土軸というものが重要ではないかと思います。第2国土軸というものを重点的にすれば、高速道路の整備が進むのではないかと思います。

社会人: 日本は鉄道が相当進んでいるので、輸送量でどうしてもそれに負けるのではないでしょか。一度に運べるし時間も早いし。その点どうしても道路は、国土も狭いし、山が多い、谷も多い、そういうことで遅れているような感じがします。

学生: 人口減少率とか県税減少率のワースト4県に和歌山県が入っているのは少し驚きなのですが、他県と比べて、近くに大阪があったり、奈良があったり兵庫があったりという条件の中で減少しているのは、高速道路だけが原因なのかなと思いました。先日、勝浦に行ったのですが、電車で5時間かかりました。電車の本数が少なくて、高速道路よりも電車の便を良くして欲しいなと思いました。

知事: ありがとうございます。皆さん、とてもいいことを言っていただいたと思います。こうやって色々な材料を見ながら自分で考えて、その時に、「どういう観点からこう思うのだ」ということを言うのは大事だと思います。皆さんの議論は皆正しいと思います。
 まず、第2国土軸の話は、良くご存知だったと思うのですが、第2国土軸としての高規格道路網を、大分県の辺りから愛媛県を通って、吉野川を下って、淡路島から友が島に渡って、三重県の山中を突破して知多半島に抜ける。こういう道を造ったら東西の軸が双曲になるからいいのではないか、こういう議論がありました。国全体を考えた時に、今は1つの軸だけで、例えば新幹線も高速道路も、東西を結ぶものは全部滋賀県を通っています。あそこに局地的な地震でも起こったら全部止まってしまうから困るなというような議論があって、それで今のような話ができていると思います。それはその通りだと私も思います。しかし、先程も話があったように、国全体でどれくらいのコストを出して、それで国全体のB/Cとして第2国土軸を造るべきか。どちらかと言うとネガティブな人が多いと思います。そこで、そこまで議論をしなくても、「少なくとも紀伊半島ぐらい整備して下さい。B/Cもそんなに悪くないですから。安全の問題や、B/Cをもう少し拡大した時でも、きちんとプラスの答えが出ますから。」というのがここで我々が主張したことです。ですから、いろんな主張があっていいと思いますけれど、少なくとも第2国土軸だけで言う必要もないと思います。
 それから、2人の方が鉄道の話をされました。鉄道と自動車交通とどちらを皆が選好しているかということがあります。これは、圧倒的に自動車交通を選好しています。もう1つ大事なことは、鉄道の時代、これは国家が、戦前は安全保障も含めて、例えば敵が上陸した時に援軍も送れないと困るということを考えて鉄道網を引いたと思います。いつしか、国土全体をきちんと使おうとか、或いはチャンスは平等に差し上げようとか、そういうようなセンスがどんどんなくなって、それで交通量の多い所にだけ、渋滞解消として高速道路を造っていくということをやってきました。ここが、問題ではないかと思います。ですから、今、鉄道よりも自動車交通網が選好されているということを考えると、鉄道があるというのはあまり議論にはならないという風に思います。
 その次に、高速道路だけが工業立地の条件ではないのではないか、という考えは正しいです。正しいけれども、こういう議論は必要十分条件をきちんと言っていません。しかし、そういうことを類推させるような材料であることは事実です。この図を見ると、高速道路の上に赤点がありますが、赤点というのは産業立地がどんどん進んでいる所です。それは何故かと考えると、この表には出てこないけれど、産業立地をやる時には、例えば先程言ったように早く運べないといけません。それから色々な所から材料を集めたりしないといけません。従業員もその集落だけでは賄えないので、少し遠くから集めないといけません。だとすれば、高速道路のインターチェンジ周辺は非常に良いのです。
 例えば、和歌山県と岩手県を比べた時に、昭和50年の時点でどちらの所得が高かったかと言うと、圧倒的に和歌山でした。その後、どちらの成長率が高いかというと、圧倒的に岩手県が高いです。岩手県は、私が子供の頃は、冬は雇用がないから関西や東京にお父さんが出稼ぎに行かないといけないという時代が続きました。しかし、今ほとんどそういう人はいません。どういうことになっているかというと、例えば水沢という所は農業しかない所に高速道路のインターができて、そしてちょうど高度成長期の後期ぐらいでもあったから、そこに半導体の工場や自動車部品の工場ができたわけです。そういうところに皆が吸収されるから、出稼ぎなんかしなくても働けるようになりました。それが、赤点の秘密だと私は思います。もちろん他に理由がないということは立証していません。けれど、他に理由がなければ、そうかもしれないなという風に思うのも、1つの議論じゃないかと思います。どういうことかというと、やはり人間の経済生活を考えると色々な計算をします。企業の人はどこに行ったっていいわけですね。どこに立地しようと構わない。そうすると、立地した方が有利な所に立地します。その有利な条件が何かと言うと、それは時代によって変わってくるのですが、少なくとも今は、多くの物を集め、製品を出荷し、しかもそれをスピーディに有効な交通手段で輸送する。有効な交通手段というのは、昔は鉄道だったわけですが、今はほとんど自動車です。そうすれば、やはり条件を整えておかないと、チャンスが一向に来ないということになるのではないか。こういうことは、別にそう間違った議論ではないと思います。
 しかし、逆は必ずしも言えません。高速道路ができると必ず産業立地が進むか。それは全く間違いです。産業立地のためには高速が必要かもしれないけれど、高速道路があったら産業立地が進むというのは間違いです。なぜならば、そこはとてもコストが高いかもしれないし、労働力が逼迫しているかもしれない。或いは、住民が反企業的な活動ばかりをするかもしれない。そういうようなことがあるから、高速道路ができるとうまくいくというのは、全く間違いです。
 それから、高速道路というのは都会から造られて来ました。それはなぜかと言うと、高速道路をどうやって造ろうかと考えた時に、なんとなく東京の中心からとか、オリンピックがあったから東京からと思ったのですが、「あまり無尽蔵に造られると大変だな」ということを皆思い始めました。高速道路というのは、包括原価主義というので造ります。道路公団という所が造るのですが、道路公団は借金をして造ります。高速料金でそれを回収して、次をまた造る。そういう風にして造っていくのだと決めたわけです。そうすると、田舎で交通量のない所、これはあまり選好されないということになります。その結果、B/Cというものが物凄く重要視されることになりました。
 B/Cは10ページにありますが、現行の便益算出方法は、1番始めに現況交通量から、将来交通量を計算するわけです。その将来交通量を基にして、走行時間がどれくらい短縮されるか、走行経費がどのくらい減少するか、交通事故はどのくらい減少するか、こういうことに交通量を掛けて便益を出します。交通量が多いところは便益が大きくなるわけです。そしてコストについては、田舎はトンネルがあって大変だ、都会は地価が高い、といって議論するのですが、これまでの高度成長期の中では、都会は始めから交通量が高い。始めから交通量が高いと、高速道路ができても交通量はそう増えません。そうすると、従来、便益を将来推計する時に、高速道路ができるともっと交通量が増えるだろうと甘く見通していたものが、だいたい裏切られます。その結果、B/Cがとても甘くなっているというのが高速道路に対する批判の1つの論理です。
 ところが、田舎はどうなっているか。例えば和歌山みたいな所、あるいは東北自動車道の北の端。そういう所はどうかというと、始めは交通量はあまりないのです。ところが、高速道路ができると、「高速道路があるのだったらそこに行こうか」とか、「高速道路があるのだったらそこで物を作ろうか」という風に意思決定が変わってきます。その結果どうなるかと言うと、交通量推計よりはるかに多くの交通量が実現されてしまうというのが事実です。それが右の方に書いてあって、例えば和歌山で有田−御坊を見た時に、1番上の数字が交通量推計です。この交通量推計をもって、「高速道路を造ってもいいよ」ということになって、道路を造りました。そうしたら交通量はどうなったかというと、主として観光客が増えて、その結果、オレンジ(H17実績)とか赤いところ(H22実績)が実現されました。
 結局、何を言いたいかというと、B/Cも静学的に考えてはいけない、動学的に考えないといけない、ということです。つまり制度が変わると意思決定が変わる、意思決定が変わると事実が変わってくる。その結果として、始め想定されていたものとは違う結果が出る。その違う結果というのは、プラスの制度を与えられたら、そのプラスの制度を活かして、いろんな人がいろんなことを考える。考えたら、それによって実態が動いてしまう、ということを物語っている1つの証拠だと思います。「そんなことを言ったらB/Cの計算ができないじゃないか」ということになりますが、これは簡単です。補正計算をすればいいのです。現実の値が出ているのだから、近似値で補正計算をすればいいのです。そんなに難しくなく、B(ベネフィット)の値が出てきます。例えば、みなべ−田辺を造る時、有田−御坊のデータがあります。これは、近似的に言えば1.5倍くらい出ているのだから1.5倍くらいになるだろう、という風に計算にしてはどうかというのを我々は提言しました。
 それからさらに、先生がさっき仰ったように、命の道をB(ベネフィット)の中に入れる方法は取られていません。各国について、詳しくは調べていないのですが、救急医療とか大規模地震の災害とか、公害のこととか、そういうことも含めて、極めて多くのBを想定している国が結構あります。そういうものは、今までの伝統的な人から見ると、「数値化できないじゃないか」という議論になります。けれども考えてみれば、走行時間短縮とか、走行経費減少とか交通事故減少とか、これらもかなりいい加減な数字です。この程度のものならすぐできますよと言って、例えば代表的な指標を基に試算をするようなことは、そんなに難しくありません。そういうことをやっていけばいいのではないかと政府に提言しています。

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高速道路が観光に及ぼす影響

 次は『高速道路が観光に及ぼす影響』についてです。14ページから16ページを見ていただき、ご意見がある方どうぞ。

社会人: 和歌山は渋滞がとてもひどいのですが、県外から夏場和歌山に来た場合、渋滞が発生すれば「和歌山は大変な渋滞に合うよ」と逆のPRになる可能性があるので、早く解消しなければ、観光和歌山の名折れになると思いました。

和歌山大学の先生: 工業立地の所で、高速道路ができると工業立地が進むのは大間違いであるという話がありましたが、観光も同じではないかと思います。14ページのグラフを見ますと、いかにも高速道路ができると観光客が自動的に増えるようなグラフになっていますが、実際どうなのかなと思います。例えば、19年11月に南紀田辺インターが開通しているのですが、20年から22年にかけて、白浜で観光客がどのようになっているか調べたところ、7月・8月の日帰り客は7,300人増えたようです。けれども、宿泊客が10,000人減ったということで、確かに観光客は若干増えたと言えるかも分からないけれど、日帰りばかり増えて宿泊が減っていたら、観光消費額はどうなるのかなと気になります。それからグラフは平成17年を基準に書いていますが、実は17年というのは、和歌山県の観光客数がなぜか近年では1番少なかった年ではないかと思います。この年を基準にすると、いかにも増えたように思うのですが、この書き方で果たしていいのかなと気になりました。
 それからもう1点、実際に高速道路や新幹線が開通して、観光客の入り込み客数が増えたかどうかという研究がありまして、2009年の交通学会の論文で『交通アクセスの改善が観光地の入り込み客数に与える影響』という論文があるのですが、85年から2006年までの97の事例を分析していまして、そのうち、統計的に優位に観光入り込み客数が増えたのは9事例のみということで、逆に減ったのが37事例、ほとんど変わらなかったのが51事例でした。そういうことからも言いまして、14ページのような、高速道路ができると自動的に観光客が増えるようなイメージというのはどうかなあと非常に気になるところです。

知事: 先程と同じで、高速道路ができたら観光がうまくいくというのは、それは何の論理性もありません。けれども、高速道路がある場合とない場合で観光客がどうなるかと言うと、それは他の条件が一定であれば絶対に増えます。経済学が正しいとすれば絶対に増えるのです。なぜならば、それぞれ要件を前提にして意思決定するので便利になればなるほど増えるに決まっています。それはなぜかと言うと、観光の本質の1つが観光客にとってのコストパフォーマンスだからです。コストパフォーマンスが良くなる方向へ働くからです。私は今、他の要件が一定ならばと言いましたが、そこが変わってくると違います。そこは、最後に申し上げます。そうやって、絶対増えるのだけれど、増えるというのは、そこへ「来ようか」という人が増えるわけです。そこで、先生が仰ったように、日帰りか宿泊かという議論があります。来やすいというのは、帰りやすいということです。ですから、宿泊の代わりに日帰りの人が増える可能性があります。 ところが、そこでもう1つ考えないといけないのは、どうして泊まるかということです。どうして泊まるかというのは、泊まりたいから泊まるのであって、泊まらざるを得ない人はあまりあてになりません。先生のような議論をする人は、泊まらざるを得ないというのと泊まりたいというのをあまり区別していないのだと思います。観光にとって大事なのは、高速道路の話と少し違って、泊まりたくなるようなものを提供しなければ泊まらないということです。泊まりたくなるものを提供して他の条件を一定にすると、高速道路がある方が絶対にたくさん人が来て、たくさん泊まるということになると思います。そういうことを両方考えないといけません。その両者の相関関係については、後でご説明します。
 従って、高速道路ができるということは人が来る可能性はあるのだけれども、それでどうやって儲けるかというのは全然別の話です。例えば、泊まっても仕方ないような古い旅館で、サービスは悪いし、食事は美味しくないしというのであれば、無理をしてでも帰ってしまいます。だからといって、道路、或いは交通でもって、無理矢理不便にしているとどうなるか。次に問題が生じるのは、競争という点です。何もそこだけが観光地ではありません。経済学の基本に戻って考えると、競争ということが発生します。
 15ページの図を見ていただきたいのですが、例えば、大阪の人が勝浦に行きたいとすると、勝浦に行く時の観光客のコストパフォーマンスは、まず時間、それから値段です。値段については次のページに出ていますので触れませんが、時間を考えると、忙しい現代人が勝浦に行くのに4時間30分ぐらいかかるとすれば、他にも例えば山口或いは下関に行ってフグを食べてもいいし、それから新潟に行ってハタハタを食べてもいいし、或いは長野に行ってスキーをしてもいいし、何でもできるわけです。ところが、私が子供の頃はこういう状況ではありませんでした。もちろん勝浦ももっと時間がかかりました。汽車で行くのが中心でした。私は父親に良くスキーに連れて行ってもらいましたが、24時間ぐらい乗って志賀高原に行きました。一方、新宮とか勝浦は7時間ぐらい汽車に乗ると行けました。そうすると、手軽に旅行しようかなと思った時に、どちらに行けるかということを考えると、新宮の方がいいなと思いました。後は、好みの問題なので比べられませんが、自分の行きたいなという気持ちと時間やお金を比べて、それでしかも競争の中で意思決定するということを考えると、交通の条件を整えた方が、他の条件が同じであれば有利になるわけです。和歌山県は鉄道の時代にはそんなに衰えてはいませんでした。しかし、高速道路、自動車の時代になってから、急激に衰えてきました。それはサービスが悪くなったとか、時代に合わなくなってきたという問題もあると思いますが、それに加えてコストパフォーマンスの影響がなかったかというと、なかったという確証はありません。そうすると、少なくともチャンスは与えて、その上でうまくいくかどうかは、その観光地の魅力をどのように高めるかという勝負になるわけです。少なくとも、いろんな観光地があって競争している限りにおいて、政府というのは同じようなチャンスを与えないといけないのではないか、ということを言っている訳です。
 現に渋滞というのは、最悪のマイナスの効用です。不快になるし時間もかかる。それが有田−海南間の渋滞が、2車線化によってなくなりました。その頃、社会実験もなくなりました。社会実験がなくなって、もちろん和歌山も高速道路料金が元に戻りましたが、どこが客が増え、どこが減ったかというと、ほとんどの所は交通量が減りました。しかし、和歌山の交通量だけが増えました。なぜかと言うと、たぶん渋滞がなくなったからです。或いは、もう1つ競争という観点で言えば、他の所の料金は大きく引き下げられましたが、和歌山は実は大阪の阪神外環というところの裏側になっているので、あまり引き下げの効果が出なかったのです。従って、和歌山の高速道路はコストパフォーマンスにおいて比較劣位に置かれました。この比較劣位が解消され、かつ渋滞が解消され、和歌山だけ増えたという大変面白い結果になったということを申し上げたいと思います。

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料金問題と社会実験

 それから次に、『料金問題と社会実験』ですが、料金という視点は、日本の経済或いは観光地の問題を考えると、とても重要です。1つは、国際競争力という問題で、高速道路がないという不便さも日本の足を引っ張っていますが、料金が高いという問題も日本の足を引っ張っています。同じようにどこでどのようなビジネスをしようかと考えた場合、他の条件が一定であれば、高速道路料金が安い方が絶対に競争力で有利だと言えます。どのくらい違うかということが、17ページに載っています。従って、日本の競争力を考えると、国道を全部使えるように、いろんな地域の人がそれぞれの特色を活かして能力を発揮できるように、少なくとも条件整備をして、つまり高速道路ぐらい造っておいて、その上で、料金についても国際的な比較のもとにあまり無茶なことをすると日本だけが不利になるというようなことも考えてやらないといけないということです。
 もう1つは、高速道路の料金施策についての地域間競争というのがあります。18ページの絵でなんとなく分かると思うのですが、和歌山は阪神高速が別料金だったものですから、通算料金ができませんでした。だから、一律1,000円という時に、大阪の北に住んでいる人が、青森の先に行くのと、和歌山の先に行くのとであれば、和歌山に行く方が高くなってしまいました。和歌山は阪神高速道路で別料金を取られるので、1度、名神に乗ってそれから阪神高速で数100円取られ、それから1,000円で田辺まで来る、ということになるのですが、北陸道で青森まで行ったら1,000円です。ここで、どこに行きたいかなと考える時に、皆さん懐具合と相談しますから北の方が有利になっていたのですね。政策当局は、本当はこういう地域間の不平等になるような政策をしてはいけないということです。
 それから、社会実験をやめたらどうなったかという結果を20ページに書いてあります。部分均衡と一般均衡と言いましたけれど、政策をする時、或いは制度を作る時には、制度を作ることによって人々の意思決定に影響を与え、その結果、別の所で別の結果が出ます。その別の結果についても本当は責任を持たないといけないということです。例えば、本州と四国の間に南海フェリーというのがあります。これが、高速道路が安くなると、フェリーの料金は全く補助なしですから、商売が成り立たなくなってしまいました。南海フェリーも大変なのですが、それで廃船になってしまった便もたくさんあります。それは、政府の政策によってそんな風になってしまったのだから、例えば廃業補償をするか、或いは同じような補助をして、同じような競争条件になるようなイコールフッティングにするような政策をしないと、これは経済学的に言っても不平等ということになります。こういうことも考えないといけないということです。

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観光資源と高速道路

 それから、『観光資源と高速道路』です。これは高速道路をむやみに造ったら、観光資源が毀損されるという問題もあります。例えば俗化してしまうということです。高速道路を造っただけで俗化するわけではないけれども、少なくとも、深遠なる魅力で売っている名勝のすぐ近くまで高規格道路を整備するというようなことをしたら、その名勝の魅力を減じることになります。だからそんなことをしてはいけません。そういうことを観光として考えないといけない。何でも便利にすれば良いというわけではありません。
 しかしながら、あまりにも不便であると、例えば秘境大好きというちょっと変わった人だけが来ます。けれど、秘境大好きという人の割合は非常に少ない。私は昆虫大好き人間ですので、開かれていない所の方がいいわけですが、しかし、そういう人は少ない。だからそういう人だけを対象にして商売をする人は少なくなってしまう。雇用とか生きるチャンスとか、そういうことを考えると、やはり大勢の人に楽しんでもらうような観光地をどうやって作っていくか。これは、交通で言っても、高速道路をどこまでアプローチさせ、そこから一般道路でどのくらいの所まで行き、最後は歩いてもらうのか。その組み合わせをどこまでにするか。それが大事です。例えば、那智の滝の横に高速道路を造っては絶対にダメですよね。こんな例を言うと、皆さん当たり前だと思うでしょうが、個々のいろんな議論の中で、それは難しい問題だと思います。そういうことを組み合わせていくのが最後の結論であります。

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