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寄稿・提言・訓辞・挨拶集

新聞・雑誌等への投稿や、各種行事での講演・挨拶、政府への政策提言等を通じて、知事の考え方や政策を紹介します。

和歌山大学観光学部知事講義『観光を考える』第2回「観光の振興と観光資源の保全」

 今日は『観光の振興と観光資源の保全』という講義をしたいと思います。お手元に今日のレジメと前回お話ししたレジメと、今回使う材料があります。なぜ1回目のレジメを置いているかというと、今日は前回の内容を実際どう使えるかという実証を行いたいと思うからです。

観光客が旅行先決定時に重視していること

 まず、資料の7ページを開けて下さい。
 1回目の講義で『観光を考える際に有用な項目』ということを説明しました。これは復習になりますが、観光資源というのはものめずらしさです。それから観光客にとってのコストパフォーマンスが大事で、パフォーマンスというのはこういう良い所があるということ、それからコストの方はどれだけお金がかかるか、どれくらいの時間がかかるか、そういうことを比較して天秤にかけて考えるということを申し上げました。それから情報伝達、どんどん「こういう良い所があるぞ」というのを広げるということが観光にとっては大事だということです。それから最後に、観光にとって、あるいは観光産業にとって、おもてなしが大事です。総合力というのは何かというと、行政や旅館とか鉄道とか、そういう人が部分的に頑張ってもなかなかうまくいかないので、住民全体とか地域全体の力が観光を左右しますよ、ということを申し上げました。
 さて、そういうことをもう1度念頭に置いていただいて、この『旅行先決定時の選択理由について』を今から読んで下さい。後ほどどう思うかということについて聞きますので、どう思うか考えながら読んで下さい。
 それでは、時間になりましたので、聞いてみます。何か言いたい人は手を挙げて下さい。

学生: やはり魅力的なスポット・遊ぶ場所と、そこに良い宿泊先があること。それから遠くから来た人は交通の便が良いとか、設備が整っている所が、皆が喜ぶ場所で有名になっている所だということを納得しました。

知事: それでは、そこの社会人の方。『観光を考える際に有用な項目』として、前回お話した内容との関連で、今の納得したことをお話いただけませんか。

社会人: 『観光を考える際に有用な項目』の4番目、『おもてなし、総合力』について、行政の観光に対する力とか、鉄道とか、地域の力というのが、総合力ということでしたが、この指標を見ると、交通の便、道路というハードの資源が問われているわけで、『交通の便が良かった』というところが、全国平均と和歌山では非常に数字が乖離しています。やはり和歌山というのは、環境が劣っていると思います。特に温泉観光地という部分で見れば、白浜、勝浦というのは決して交通の便が良いとは言えません。『有用な項目』の部分からすれば、ここのところが、これから行政も地域も力を付けていかないとダメなのかなと思いました。

知事: ありがとうございました。私が最後に皆さんに申し上げようと思ったところを、先に言われてしまったのですが、前回『観光を考える際に有用な項目』でお話した内容のうち、観光資源というのは実はものめずらしさだということと、観光客のコストパフォーマンスを考える時に参考になるようなものがたくさんありましたね。
 全国平均の方だけ見ますと、1番重視しているのは『そこならではの観光スポット・観光施設があった』。これがやはり1番大きいですね。それから、その次に大きいのが、『良い宿・ホテルがあった』で、その次が、『交通の便が良かった』。それから、『なじみがあった、前に行ってよかった』、『魅力的な温泉があった』、こういう風になっています。
 そうすると、だいたい大きく2つに分かれて、1つは、観光地には『そこならでは』の観光スポットあるいは観光施設があったというのが1番大きいです。これは何かというと、「そこならでは」というところに意味があって、どこにでもあるような話ではなくて、「そこに行ったらこれがある」、逆に言うと、「そこに行かないとない」というのを大いにアピールしていくのが、ものすごく大きな話だということです。
 これが、「観光資源は実はものめずらしさなんですよ」という、私が最も言いたかったことです。それから、『良い宿・ホテル』もそうですね。宿・ホテルそれ自体が珍しい訳ではないけれど、快適さというのが他にはない良いものとして人々が求めるところです。
 一方で、『交通の便が良かった』というのは、「観光客のコストパフォーマンス」というところにものすごくぴったり来ます。「行きたいなあ、行きたいけれど遠いなあ、遠くてちょっと行けないなあ」と、行きたいという気持ちと、行くために犠牲になる時間やお金、そういうものがどのくらいあるかということを比較考量の結果、観光に行くかどうかというのが決まってきます。
 従って、観光政策ということを考えると、観光地のものめずらしさを守ろうということと、それから観光客のコストパフォーマンスの、特にコストを良くするということが必要だということになってきます。そういうことをイントロとして申し上げたくて、今のような話をしました。

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グリーンピア南紀、大塔山の伐採、日ノ岬の風力発電の許可、新不老橋の建設

 それでは、以上のようなことを少し念頭に置いた上で、レジメの2番目の『まず①の観点から見ると』、すなわち、『観光資源−ものめずらしさ』の観点から見て、次の事例をどう思うか考えて下さい。1つ目はグリーンピアの開発。これは和歌山県がグリーンピアというのを誘致して作ったのですが、今はダメになって被災者の方が避難生活をしている所があります。それから大塔山というのがあって、ブナの木の本州における南限なのですが、これが枯れているという問題があります。それから、日ノ岬に風力発電を許可するかどうか。それからもう一つ、新不老橋、あしべ橋というのですが、和歌浦の不老橋の海側に立派なコンクリートの橋がかかっていて、「それは景観に反するのではないか」といって、一部の方が「景観権を認めろ」といって県を相手に訴訟を起こしました。そういうような話が、資料の6ページと5ページ、2ページ、1ページにあります。4つのうちどれか1つを読んで、そして何か意見を用意しておいて下さい。

<グリーンピア南紀について>

 それでは、1番始めのグリーンピア南紀について考えておられる方、手を挙げて下さい。

社会人: グリーンピア南紀の当時のリサーチの問題が語られていないということと、今から思えば、どうしてあんな所にこんな大規模な施設を作ったのかと正直思います。先程の話でもありましたが交通の便が非常に悪い。白浜ならまだ空港がありますが、勝浦には鉄道以外に何もない。道路交通も不十分です。その段階でどうして作ったのか。リゾート法でたくさんのお客さんを想定したのだと思いますが、ほぼ全部失敗しています。その辺でどういう風な総括がされたのかと思います。香港の方も続けて1年で失敗していますし、やはり道路の問題かなと思います。

社会人: 今の方が言われたとおりのことなのですが、やはりマーケティングが大事だと思います。要するにニーズがどれだけあるか。金さえ使えば良いということではないという意見を付け加えたいと思います。

学生: こういう施設があったのも知らなかったのですが、どうして交通の便が良くない所にたくさんの人が来るような施設を作ったのか。どういう人を対象にしていたのかなと思いました。

知事: ありがとうございました。それでは、私が感じていることを申し上げます。 本件については、ご存知でない方もいると思うので、ここに書いていないことを申し上げますと、年金福祉事業団が那智勝浦町の岬の先に近いような所で、自然の林があった丘陵地を切り開いて、ここにあるような、ホテル、コテージ、多目的ホール、テニスコート、屋外プール、野球場、ミニゴルフ、それから、芝生広場、温泉、結婚式場、こういうものを総合的に作ろうという計画でした。今お話があったように、当時はどんどん人口も増えるし収入もたくさんあるし、年金の運用をし、それから年金生活者にサービスしたらいいなということもあって、年金の莫大な貯金の中から保養施設を全国にたくさん作ったわけです。それで、県や市町村が手を挙げて誘致合戦をしました。和歌山県が出したお金は1千万円ぐらいなのですが、1千万円の呼び水で何百億円という投資をしてくれて大成功と思っていたわけです。破産した時も、和歌山県は損をしていないわけで、地元の那智勝浦町と太地町が、それぞれほんの少しのお金で売ってくれたわけです。誰が損をしたかというと、年金基金が損をしてしまった。こういう問題が1つありました。ただ、これは観光の問題ではないので、今回は置いておきます。
 この問題について、今、大変良いことを言っていただきました。まず、「なぜ、あんな所にあんなものを建てたのか」。これが大変重要なポイントです。
 もう1つは交通の話になりました。交通については後でご説明します。なぜなら、交通の便が悪いと言うなら、あそこは全ての施設・観光資源に対して、交通の便が悪いのです。他のものが全て失敗しているというわけではありません。結構な観光客も来ている。ただ、その関係で言うと、1番前の方が言われましたが、「たくさんの人を呼んでくるような施設をあんな交通の便が悪い所に」ということには、ものすごく意味があると思います。
 けれどもそれは少し置いておいて、「なんであんなところにあんなもの」ということです。
 それから、「マーケティングをきちんとやったのか」と言われました。私はマーケティングはものすごくやったと思います。だけど間違っていた。なぜ、間違ったのか。それは、観光の本質を見誤ったからだと私は思います。
 この地域は南紀です。海が綺麗です。それからとても綺麗な山があります。温泉がたくさんあり、自然もたくさんある。こういう所になぜ、芝生広場、テニスコート、屋外プール、野球場、ミニゴルフ、こういうものを作ったのか。こういうものは東京の郊外に作ると、皆行きます。だけど、東京の人が、そういう物があるからといって、遠くのグリーンピアに行きますか。従って、グリーンピアのあそこに作るなら、那智勝浦町のあの大自然の熊野古道の原点にみたいな所にふさわしいものを作るなら良いと思いませんか。
 グリーンピアのようなものがいいぞといったマーケティングを昔はやっていました。それをコンサルなんかが進めて、バブルの中で皆が踊っていたというのが問題だと思います。お金をかけてマーケティングをやればなんとかなるというものではなく、物事の本質を見ながら、「何をやったら受けるか」を考えないといけません。結局は人間の心であって、「観光というのはものめずらしさの関数だ」という原点に戻れば、あそこにおけるものめずらしさというのは何かと言うと、このようなコンセプトのグリーンピアの建設じゃないだろうという風になると思います。
 プロジェクトをやる、または観光を考える時に、「どこで何をやるか」、「ここの売りは何だからその資源を保存していくか」ということがものすごく大切だと思います。観光客がどんどん来るようになると、場合によってはその観光地の持っている資源の雰囲気が損なわれることがあります。そうすると、今度は観光客に飽きられて、リバウンドで全く人が来なくなる可能性があります。そういうことを皆さん覚えておくと良いと思います。

<大塔山の伐採問題について>

 次に、大塔山の伐採問題について選択された方いますか。

社会人: 1つは観光という視点から見ると、大塔山というのは、非常に限られた人の嗜好になるのかなと思います。それからブナというのがありますが、この暖かい和歌山でブナ林というのは非常に貴重な森林ですので、それが今回伐採されたということは非常に残念だと思います。限られた人しか来ないけれど、この限られた人にとってはこのブナ林はとても貴重なもので、売りようによっては非常に大きなPR効果もあるのに伐採されたのは非常に残念だと思います。一生懸命それを守ろうという努力がされているので、これはありがたいことかなと思いますが、切られたことは非常に残念だと思います。

知事: ありがとうございました。しかし、この問題が先程と少し違うのは、ブナ林を伐採してグリーンピアみたいに芝生にしようと思ったわけではないということです。この方々はブナ林を少し切って眺望を良くしようとしたのです。そうすれば、この山に登って来た人に太平洋が良く見えていいのではないかと思ったのですね。
 その考え方とはまた少し違う話になるのですが、実はブナ林というのは南限ですから、非常にもろい生態系のもとにあります。従って、風通しが良くなると、実はブナはあまり育ちません。大木が枯れます。小さい芽は生えてくるのだけれど、シカが食べてしまう。大きいのは枯れるし、小さいのは育たないので、はげ山になってきたんですね。これは大問題だといって数年前から問題が顕在化して、せめてシカの害は防ごうということで、ネットを張って、今、新しい芽を育てて元のようなブナ林を作ろうとしています。
 ここで問題になるのは、ここに登ってくるのは、先程の方が言われたように限られた方です。その人は本当に山の自然を楽しみに来る人です。あるいは昆虫採集に来る人かもしれませんね。しかし、その人は一般の人とは違って、白浜の三段壁を見るような感じの眺望は必ずしもなくていいわけです。大塔山に登ってくる人は眺望を期待してくるのではなくて、ブナ林の緑の素晴らしさを堪能しに来るわけです。ですから、ニーズから言えば、必ずしも木を切らなくても良いわけです。
 ですから、何でも同じように人々は求めていると思うのは間違いです。その代わり、大塔山に大量の人を呼んで人が溢れるようにしようとするのは無理ですね。そのように観光客のニーズは人によって違うわけです。「どのニーズに合わせると人々に喜んでもらえるかを考えながらやっていったらいいのではないか」ということを申し上げたいと思います。

<日ノ岬における風力発電施設の建設について>

 次に2ページの日ノ岬の風力発電施設の建設について意見のある方いらっしゃいますか。

社会人: 今、風力発電というのは、自然エネルギーということで活発に建設がされていますが、この日ノ岬というのは風の通りが良くて、風力発電の設置をすれば効率の良い場所であったのだと思います。ただ、建設をしようとする所が、御坊の煙樹ヶ浜という所から覗くと非常に岬が綺麗で、そこに白いプロペラが見えると景観を損ねるというような問題があって、自然エネルギーの推進と、景観の保全というところの折り合いがつくような所に設置場所を変更したということで、その辺りの調整がうまくいった事例なのかなと思います。

知事: これについて皆さんの見解は3つに分かれると思います。「自然エネルギーだからどんどん作らせてあげればいいのに」というのが1つですね。それからその反対に、「そんなものを作ったら景観は悪くなるし、自然を壊すので止めなさい」というのが次です。最後は、今の方の例のように「ちょっと折り合いを付けてやっていこう」というのがあります。いろんな県民の方に聞くと、だいたい3つに分かれます。3つに分かれるけれど、我々は眺望だけで食べて生きて行けないですし、自然エネルギーも大事だということを考えると、どこかで折り合いを付けることになります。けれど、せっかく煙樹ヶ浜という立派な所があって、周りを見ると、日ノ岬があって、長い砂浜があって、後ろには松林があって、和歌山にとっては、これぞものめずらしさの極地というような所なんですね。それを近代の技術のシンボルみたいなものが回っているとがっかりしてしまうので、こういう折り合いを付けたのだと思います。
 観光だけで、あるいはものめずらしさや保護だけでやっていくわけにはいかないけれど、うまくやればある程度綺麗に折り合いが付いていくのではないか。それを模索していくということが大事なんじゃないかということを申し上げたくて、この材料を選びました。

<新不老橋(あしべ橋)建設及び和歌浦景観保全訴訟について>

 その次に、あしべ橋ですが、先程の学生さんどうぞ。

学生: 住民もいるので、景観のことを考えて作るか作らないかを考えるのは難しい問題だなと思いました。

知事: そうですね。その通りだと思います。この問題については、皆さんに多数決を取ってみたいと思います。
 これも3つの解があります。「景観が大事だからあしべ橋をやめたら良かったのに」というのが第1。第2は、「作ればいいんだよ。住民の生活や自動車の便を考えるとその方がいいじゃないか」という意見。それから、「第3の議論もあるな」という人。この3つのうちからどれか必ず選んでください。
 第1の意見の人、手を挙げて下さい。第2の意見の人手を挙げて下さい。第3の意見の人、手を挙げて下さい。
 先生はどう思われますか。

和歌山大学の先生: 歴史的な橋だし守る必要もあったかなとは思います。ただ、石の橋でかなり痛んでいたのではないかという気もしますし、片男波には家も建っています。ある程度の景観は守りながら、まっすぐつける。その辺で一定の折り合いをつけるのが妥当なところだったかなと思います。

知事: 第2の意見ですね。では、第3の意見の人はどうですか。

社会人: その橋がなぜ必要だったのだろうと思います。第1に住民要求はあったのだろうか。橋を作れという住民要求があって、一方で住民が反対しているわけですね。本来、そこの住民の問題だと思うのですが。なぜ、その一方の住民の要求によって県が実施したのか分りませんが、本来はそこで和歌浦の住民が解決すべきことなのに、どうして訴訟になるまで揉めたのかなと思います。

知事: 基本的に、県は住民のご意見を聞きながらやるのですが、もう1つ、行政としての判断もあります。「ネットワークをこういう風に組もう」という判断に従ってやることになったのだと思います。
 それで、第3の道としてどういう風にやれば良かったと考えますか。

社会人: 事前にその住民に決めさせるべきだったと思います。自由にしておき、「あなた達が先に結論を出しなさい」と。「出た後で『つけろ』と言えばつけます。住民が『嫌だ』と言ったらそのまま放っておきますよ」と。

知事: なるほど。住民同士に議論してもらうのですね。

社会人: 和歌浦に住んでいますが、確か住民は賛成意見が多かった。反対意見は、住民以外の、他の地域、県外に住んでいる方が多かったと聞いています。住民同士の意見の対立ではなくて、住民は「賛成。つけて欲しい」ということだったと思います。

知事: 学生さんで第3の意見の方はどうですか。

学生: 実際にその場所を知らないので良く分からないのですが、疑問に思ったことがあって、社会人の方が言って下さった「なぜ作ったのだろう」ということです。新しい橋を交通の便が良くなるように作って欲しいというのが、和歌浦に他から来る人と、住民と、両方から本当に作って欲しいという要望があったのかなと疑問だったので、1にも2にも手が挙げられなかったので、3にしました。

知事: これは、訴訟になったくらいでなかなか大変でした。少し思い出しましたが、住民の方はだいたい賛成して、「早く作ってよ」という意見でした。
 「作るべきか作らざるべきか」というのはいつも問題になるのです。反対の人がいれば賛成の人もいる。反対の人は、だいたい路線が気に入らないのです。「自分の所を通ってもらいたい」、「買ってもらいたいのにあっちの方を通っている。けしからん」。それから、逆のケースで「立ち退けと言われるのは絶対嫌だ」。こういう反対の人がいます。そういうのと関係がない人は、「便利になるんだから早く作ってくれ」という人が多いです。今回のケースもそういうことであったと思います。
 それから、片男波というのは、和歌山県にとってはいい所ですから、多くの観光客を呼ぼうと思って、便利になるように、まっすぐ42号線から行ける様にしたいと思ったし、片男波にも多くの人が住んでいますから、その人達も便利になったんじゃないかと思います。
 しかし一方、特に歴史学者とか文化人とかそういう人にとっては、不老橋や和歌の浦の干潟は、ノスタルジーがあって万葉の昔から有名な所なので、そこをあまり変えてもらいたくないと言って、それで議論になったんですね。
 結果はここにあるように、「景観権というのは認められないけれど、景観について考慮をするということは大事です。けれどそういうことを考慮して行政が決めたのだから、これが違法だとか不当だとまでは言えません」というのが判決だったのです。景観が大切だということを判決で書いてくれたので、「まあいいだろう」ということで、1審の判決が出ただけで控訴しないで終わりました。
 こういうことで、住民の方の便宜を図る、要するにもうちょっと便利になるように考えるというのは行政にとっては必要です。その時に、「代替手段がないか」ということを考えることも大事かもしれません。1番の便利さから言うと、今のような路線を通すことだけれども、景観を考えて、或いは「観光を考えると損かなあ。ここにこんなものを作ってしまうと不老橋で売れなくなるかなあ」とか、そういうことを色々考えるのが物凄く大事なことではないかと思います。
 その時に、もしこの路線がどうしても必要だというのであれば、例えば、色とか形とかを工夫してそんなにいやらしくないようにすることも必要だと思いますし、私は個人的に言えば、あの場所ではなくて、ぐるっと回るような道を作っても良かったんじゃないかと思います。その時にはいませんでしたし、いまさらこれを掘り返しても仕方がないので、後はこれを前提にしてどうやっていくか。和歌浦の地域を県の史跡にしました。それが国の史跡になりました。ステイタスがどんどんあがって、PRの話にも絡んでいくのですが、アピールをしながら観光客にたくさん来ていただこうとしています。それから、訴訟のお陰で、橋のデザインも随分考えたと思います。だからそんなにいやらしい橋にはなっていません。そういうことで、「議論をしながらどこかで妥協を図っていく」ということは大事ではないかと思います。

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景観条例の意義について

 ここでまとめてみますと、やはり観光を考える時に、景観というのは大変大事です。なぜ大事になってくるかと言うと、観光というのはものめずらしさの関数である。ものめずらしさというのは、そこの雰囲気が大事だということです。その雰囲気を壊すようなことをすると、ものめずらしさがなくなってしまう。そういうことだと思います。 そこで、その次は、『和歌山県景観条例の策定について』3ページです。
 私は、和歌山県は観光で生きていこうと思いました。諸君がこの観光学部に来ていただいたのもその一環なのですが、和歌山大学に他にないような観光学部を作り、そこで、観光学を学ぶ若い人達にどんどんやっていただこう。それからもっと大事なことで、多くのお客さんに和歌山に来ていただこう。そのために観光のプロモーション、観光のアクションプログラムというのを就任1年目から作って、賑やかにPRするということをやり始めました。
 それと同時に、和歌山にとって売りは何かを一生懸命考えないといけません。例えば熊野古道、高野山。こういう所の売りは、やはり昔ながらの歴史を感じさせるような雰囲気です。そういう雰囲気が、観光政策が大いに成功して多くの客が来るようになり、地元の方がそれに応じて色々な対応をすることによって、観光地の雰囲気が悪くなる可能性があると考えたわけです。 それは専門的な用語で言えば、「観光資源の毀損」と言います。毀損というのは壊すということです。一例を挙げますと、熊野古道というのは、千何百年の歴史を背負っているから、私たちが熊野古道を歩く時には、ただの普通の道を歩いているのではなくて、「後白河法皇がここを超えてきたんだな」とか、「和泉式部がここでこんな歌を歌ったんだな」とか、あるいは「花山法皇が悔しいなあと思いながらここをとぼとぼ歩いたんだよなぁ」とか、そういうことを味わって熊野古道を皆歩いているわけです。
 そうすると、例えば熊野古道のコアゾーンの脇に、ピンク色の喫茶店ができたらどうするか。それは、誰も止められません。「観光客が来るからサービスしたいんだ」と言う人がいたとします。その人の商売ですから、誰も止められない。こういう状態だと、それを見た観光客は、例えばその前を5人ぐらいが通って、3人ぐらいは「そんな俗化したような所に2度と来るか」と思うのではないか。そういう風に思います。
 そこで、『景観条例』というのを作って、雰囲気の統一をすることにしました。和歌山市の繁華街みたいに雑然としている所は、そんなに厳しいことを言わなくてもいい。しかし、熊野古道の歩く所、それから311号、168号という自動車道路。それから川船も世界遺産ですから、川船から見える所の景観。そういうものを全部きちんと昔の雰囲気が味わえるものに保っていこうということです。それが、リピーターがどんどん来る理由になります。リピーターだけでなく、「いいなあ」と思ったら、その人は他の人に喋りますから、そうすると新しい人がまた来ます。それから逆に、「あれは参ったなあ、俗化してしまって」という話になると、客はどんどん減っていきます。
 そのために、平成19年から景観条例の準備をしました。中身をどうするかという議論をしなくてはいけないから、専門委員会を作ってやりました。西村幸夫さんという東京大学教授がいまして、この方は、世界遺産を決める時にイコモス(ICOMOS)という学者さんの集まりがあるのですが、その一員です。西村さんは、景観条例の元になっている法律「景観法」を作る時に1番貢献をした人です。この西村さんに来ていただいて、他に和歌山の観光について見識のある人、それから関西の学者さん、そういう人に色々意見をもらって、平成20年の初めに条例を作り、20年いっぱいかけて、景観計画、つまり景観条例の中身を作りました。
 それによって、熊野古道沿いは「特定景観形成地域」にしました。「特定景観形成地域」というのは、「小さい家でも全て言うことを聞いてもらいます。看板なんかも勝手に換えてもらっては困ります」、こういう厳しい所です。だから、私有財産に対するものすごい制限になるわけです。一方それ以外の所は、「大きい建物だけ周りと合わせて下さい。小さいところまでは言いません」という地域、一般地域です。こういう計画を作ってやってきました。この特定景観形成地域は、今後増やすことができます。例えば、湯浅の伝建地域(伝統的建造物群保存地区)とか、それから海南の黒江のたたずまいとか、そういうところを増やしていけばいいと思います。
 先程、和歌山市と言いましたが、この条例は和歌山市については県の権限がありません。なぜなら、和歌山市は中核市となっていて、中核市というのは一部の権限を県の代わりに行使するようになっているわけです。従って、景観条例を作って景観計画を作って規制をするかどうかは、和歌山市内は和歌山市が考えます。ところが、この和歌山市がやることがものすごく遅い。県と比べ3年も遅れてしまいました。
 それから、和歌山県の中には、高野町という町があります。高野町というのは、この景観を守ろうというセンスを遥か昔からずっと持っています。高野山に行ったら、ちり1つ落ちていないです。それから、電線は全部地中化。変な色の看板なんて町が許さない。そういうことで、元々、景観計画がきちんとあるのです。従って、そこの権限は県はとやかく言わずに、高野町にお任せしています。
 それで、観光にはものめずらしさがとても大事だということであれば、「その観光資源を毀損させない」、「保存する」ことが大切で、その1つが景観条例などを色々工夫することです。

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自然公園の見直しについて

 それから、その観光資源が自然である場合は、自然を守らなければならない。そのために、県立自然公園を見直しました。
 家が建て込んでいる大池なんかは対象外にして、そして、「ここは本当の自然が残っているから保護しよう」という所は、その利用の程度に応じて保護対応を決めて、1年半くらいかけてきちんと見直しをしました。
 今、本当の原生林が残っているような所は、かなり規制の網がかかっていて、簡単には木は切れない。その結果、和歌山の南方熊楠が活躍した地域というのは完璧に守られるはずです。そういう風にしています。

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観光地へのアクセスと観光資源の毀損について

 ここで、①(ものめずらしさ)の話は終わりますが、今度は②の話、『観光客のコストパフォーマンス』の問題を考えていきましょう。
 これについては、先程の最初の資料の観光地を選択する時に大事なものの中で、3番目くらいに、アクセスが便利だというのがありました。現代人というのは、お金もないけれど暇もない。ない暇を犠牲にしてどこかに行くわけだから、その暇を犠牲にする、これを「機会費用」と言いますが、その機会費用と、便益つまり喜びのどちらが大きいかを考えます。従って、機会費用が高い所、つまり遠い所は、よほど便益が高くないと誰も来てくれないということになります。
 昔、和歌山の観光地はとても栄えていました。しかし、半島1周の高速道路がないため、相対的に今はとても遠い所になっています。したがって、他の観光地に遅れをとっているのです。
 資料の9ページを開けて下さい。日本地図が載っています。
 例えば大阪の北部に住んでいると、昔は、「旅行」というと南紀に電車で来たわけです。この方々にとって、例えば北陸に行く、新潟に行くとなると「すごく遠いなぁ」と思っていたわけです。ところが、高速道路網ができてくると、新潟の糸魚川に行くのも、大歩危小歩危に行くのも、或いは片山津温泉に行くのも近いわけです。那智勝浦温泉に行くよりは、そういう所に行く方がむしろ早いくらいになっているわけです。そうすると、今までは、勝浦が機会費用が相対的に低かったのが、高くなってしまった。特に暇のない人にはなかなか行きにくい所になってしまったというのが最近の状況です。勝浦の資源が、例えばグリーンピアのようなものばかりになって毀損されていれば、あんな所に行く必要はありません。けれども那智の滝があります。それからホテル浦島みたいな洞窟の温泉は滅多にないですね。それから、山の中に行くと自然がいっぱい残っています。「そういうような所がとても魅力的なんだけれど、やっぱり遠いなぁ」ということになるとこれは大変です。
 だから我々行政の責任は、少なくとも他の地域とイコールフッティングになるように、条件で観光業者の足を引っ張らないようにすることです。そのためには、国が「高速道路を南紀には作らないぞ」と言った時に怒って、再考を求めに行くのも私達の仕事ではないかと思います。
 さらにこれが、高速道路だけでなく、電車や飛行機でも同じです。例えば、下関でフグを食べるのと、勝浦温泉でマグロを食べるのとどちらが近いかというと、従来は同じぐらいか勝浦が近かったのです。ところが新幹線ができ、今では下関でフグを食べる方が遥かに近いわけです。そうすると、下関にどんどん行くようになってくる。下手をすると飛行機で飛んで行ってしまいます。値段は高いですが、沖縄で高瀬貝か何かを食べる方がよっぽど近いということになってしまうわけです。そうすると相対的な機会費用が、「和歌山は高い、他の所は低い」ということになります。ベネフィットで、「ものめずらしいなぁ」、「いいなぁ」と思う気持ちが同じくらいだとすると、苦戦してしまうということになります。こういうことを常に考えておかないといけません。
 けれど、人々の選好は多様です。全て同じように負けるとすると、いっぺんに客はゼロになります。だけど実際にはゼロにはなりません。そうすると、勝浦に本当に来てもらえる人はどんな人か、これを考えないといけません。
 例えば、熊野古道の雰囲気は沖縄には絶対ない。片山津温泉にも下関にもありません。だからそういうところをどんどんアピールしていけばいいのです。白浜にパンダが8頭いますが、8頭もいる所なんて日本ではどこにもありません。中国に行かなければありません。子供を連れてゆっくり遊んでいこうかという、そういう客に対してアピールすれば、なんとかなるのではないか。そういうことを苦戦しながら、和歌山はこれから考えていかなければならないと思います。

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湯布院の事例と、情報伝達、おもてなし・総合力

 それから6番目、湯布院の話。資料の8ページです。これを読んでいただき、どう思ったかを聞いてみましょう。

学生: 湯布院が町を守るために、リゾートブームなどにも乗らないで、町のことを1番に考えてダム建設を中止にしたり、ファームタウン建設計画等を白紙撤回したというのは、町の雰囲気、湯布院の温泉できちんと売ろうという、そういう考えがあったのかなと思います。

知事: 湯布院の雰囲気を守るということが、この人達の非常に大事なポイントだったのだということを指摘してくれました。
 観光の本質はものめずらしさである。そうすると、湯布院のものめずらしさは何かと言うと、あんな山の中にある鄙びた温泉で、ちょっと秘境みたいなところがあって自然が残っている。こういう所を愛する人が来てくれたらいいねということだと思います。そうすると、ゴルフ場計画とかファームタウンとか、おとぎのサファリパークとか、それは湯布院の雰囲気には合いませんね。鄙びた温泉で売ろうという所には合いません。合わないものを敢然と拒絶したんですね。ここがグリーンピアとは違うところです。
 それからその次に、観光の要素の中の『情報伝達』と『おもてなし、総合力』についても関係があるのでこれから説明したいと思います。
 湯布院では、地元の方が皆、「この温泉地をどうやって盛り立てていけばいいか」ということを考えて、それで、「雰囲気を守るのが1番いいんだ」と考え戦略的に動いています。何も行政や知事や国が指導してこうなったわけではありません。つまり『総合力』です。地域の住民が地域についてどう考え、どういうビジョンを持って、どういう風にしようとして、努力しているのか。こういうことが観光というものの成否を握っている。そういうモデルになっていると私は思います。
 それからもう1つ。そうは言っても、自分達だけで自己満足して、湯布院の辺り、湯布院町と湯平村ぐらいでじっとしていては、永久に一部の人にしかこの場所は分からなかったかもしれません。そういう鄙びた所で映画祭をやってみようとか、ここには書いていませんが、「鄙びた秘境でいいぞ」という情報を20年ぐらい前からどんどん流しました。そうすると、若い女性が、温泉ブームで「ああいう所に行きたいな」ということになり、若い男性も「女の人が行っているなら僕たちも」と行くようになる。そうすると、「なんだか流行っているそうだな」といって、おじさんやおばさんも行くようになる、ということで、どんどん増えていくようになったんだと思います。
 ですから、いいものを守っても、やはりそれをアピールしなければならない。アピールの仕方は色々あると思うのですが、「しよう」という意欲がなければ絶対できません。
 観光のアクションプログラムも県が考えたやり方ですが、町が考えたものがあってもいいし、住民が考えたものがあってもいいわけです。業者さんが考えてもいいということになります。
 それから最後に、湯布院は実は行きやすいのです。大分空港からそんなに遠くありません。東京の人だって、お金さえあれば、羽田から飛行機で簡単に飛んで行けるわけです。近くまでは非常に便利な交通手段ができている。目的地までの最後の最後は、何でも自動車で乗り入れればいいというものではないからそっと歩いて行こう、雰囲気を壊さないようにという知恵が必要だと、そういう風に思います。
 今日は、『観光の振興と観光資源の保全』というテーマで、前回お教えした『観光を考える際に有用な項目』が現実に活きているんだぞということを皆さんにお示ししました。

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