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寄稿・提言・訓辞・挨拶集

新聞・雑誌等への投稿や、各種行事での講演・挨拶、政府への政策提言等を通じて、知事の考え方や政策を紹介します。

近畿大学大学院生物理工学研究科 知事特別講義

平成20年10月14日 近畿大学生物理工学部アリーナ/紀の川市

 以前近畿大学生物理工学部を見学させていただいた時にご依頼を受けた講演が、ようやく今日実現できました。お話させていただく内容ですが、大学の方から経済の話をしてくださいと申し受けましたので、本日は和歌山県の経済がどのような問題を抱えており、それをどういうふうに克服しようとしているかについてお話ししたいと思います。お聞きしますと、今日の講義は大学院生が対象ですが、学部生や教員の皆さんも一緒に聴講くださることになったそうです。院生の皆さんはどこに座っておられるのか手を挙げてください。あちこちに座っておられるのですね。それでは、院生の皆さんがメインのお客様ですので、優先的に質問をしながら進めたいと思います。その他の人も居眠りをしていると思う人にはわざと当てたいと思いますので、どうぞよろしくお願いします。
お手元の資料に沿って説明をしたいと思います。

和歌山県の概況

人口の推移(資料1ページ)

 和歌山県の経済がどのようになっているかについてご説明したいと思います。まず人口を見てみましょう。実は平成12年から平成17年の人口の減少率は全国2位です。一番減っている都道府県はどこかわかりますか。

学生:高知県。

 高知県、残念でした。秋田県でした。秋田県が一番減っているのですが、その次が残念ながら和歌山県です。考えてみると和歌山県は大阪府のすぐ近隣にあり、秋田県は本州の北端の近くにあるという感じがします。しかしその和歌山県でなぜこれほど減るのだろうかと皆さんも思うのではないでしょうか。これは何か原因があると考えないといけません。

人口の社会増減率の推移(資料1ページ)

 人口の社会増減については、資料の1ページにありますが、平成7年ぐらいまではなぜか社会増減率は社会増で、しかも結構良い線だったのですが、最近は社会減が大きく、社会増減率がかなり下位にあるというのが現状のようです。そうするとこの社会増、社会減がなぜ起こったかということを考えないといけないと思います。

県内総生産(資料2ページ)

 県内総生産の伸び率を調べてみますと、資料2ページですが、残念ながら全国で最下位です。最下位というのはここ30年くらい最下位です。昭和50年というのは切りが良いのでこの辺から考えてみますと、残念ながら伸び率は最下位です。県内総生産の平成17年の順位は39位で、人口当たりにするともう少し上がりますが、それ程「赤貧洗うがごとし」というほどではないが残念ながら伸びませんでした。逆に言うと、その前は割と良い線だったとも言えます。
 そして製造品出荷額の伸びも低いというのが次に出てきます。山形県、熊本県にも追い抜かれています。なぜ山形県、熊本県を入れたかは後でまたご説明したいと思います。私の子供の頃は和歌山県もまあまあの線だったので、山形県というと雪深いというイメージがあったり、以前は熊本県から和歌山県に就職で来られている人も結構いましたので、その2県に抜かれているのかとこれは大変なことだというふうに思うわけです。
 和歌山県は、昭和50年から平成18年までの製造品出荷額の伸び率は44位です。ということは自動的に下位に3つあります。この3つを当てた人がいたら、これは日本の政策について大変知見がある人だと思います。大学院生に当ててみましょう。後3つを当ててみてください。

学生:山形県。

 山形県。答えを言う前にもう1人聞いてみましょう。最下位はどこでしょう。

学生:島根県。

 最下位は島根県ですか。これは絶対に当たらないと私は確信しております。先生にも聞いてみましょう。

先生:沖縄県。

 最下位は沖縄県、では司会の先生に聞いてみましょう。最下位はどこでしょう。

先生:沖縄県か、大阪府。

 沖縄県、大阪府。もう1つ言ってもいいです。

先生:高知県。

 高知県。「最下位がどこかわかります」と言う人はいませんか。これは面白いので少し時間を取っているのですが、分かる人はいませんか。最下位を当ててやるという人。我こそはと言う人はいませんか。もう1人先生に聞いてみましょう。どうでしょうか。

先生:秋田県。

 秋田県。全て間違いです。最下位は東京都です。最下位から2番目は大阪府です。先生当たりました。それからその次が沖縄県です。その次が和歌山県です。沖縄県は何となく皆さんおわかりになるかもしれません。
 私はヒントを申し上げました。「これは日本の政策に知見のある人です」と申し上げました。これは大変なヒントです。実は、日本の政策は高度成長期を少し過ぎる頃から東京と大阪に一極集中をするのは良くないということで、制限をかけたのです。具体的には「工場等制限法」です。今はもう無くなりましたが、東京や大阪の中心部から、工場と、それから何と大学を移転させようと図ったのです。その結果、例えば中央大学などは学生運動の時代はカルチェ・ラタン(※1)にあったわけですが、今、今中心は八王子に移っています。それから東芝、前身は東京芝浦電気ですから、当然東京の芝浦にありました。今も本社ビルは東京にありますが、製造設備などは東京から移されてなくなっています。「工場等制限法」は、新設や増設などに一定の制限を加えました。それから「工場立地法」を作って、周りに緑地を設けさせるなど都会ではなかなか大変なことをたくさん要請しました。更に「工業再配置促進法」を作って、田舎の方に行けば優遇しますというようなことをたくさん行いました。その結果、東京や大阪の中心部から工場がどんどん出ていき、それにより製造業の出荷額は下がりました。ただ和歌山県と沖縄県はそういう対象ではありませんでした。したがって、工場等の移転を図ったわけではない和歌山県と沖縄県については、本当に伸びなかったと言って良いかもしれません。
 経済を見る目で一番大事なことは、私は2つあると思います。1つは割合です。端々のところで「上がった、下がった」と言って喜んでいる人がいますが、割合で見ることは大事だと思います。皆さんは、一次産業、二次産業、三次産業の違いはわかりますね。3つの産業のうち、日本においてはどの産業が割合として一番大きいと思いますか。

学生:三次産業。

 三次産業、そのとおりです。三次産業が圧倒的に多くて、約60数パーセントぐらいです。それから二次産業が20パーセント強、残り10パーセント弱が一次産業だと思います。そういう意味で、「所得が上がった、下がった」というのはどこで見たら良いかというと、三次産業で見たらいいのです。
 もう1つの経済を見る目は、駆動力で見ます。何が引っ張っているかです。経済というのは1つが引っ張ると、次に影響を与えたりします。それでは何がぐんぐん引っ張っているのか。例えば輸出産業が頑張って、製造業の輸出が頑張って、そこで働く従業員の人数が増えて、それにより例えば三次産業の理容店などもその会社の従業員のお客さんが増えて、お店が良くなったというようなこともあります。従って駆動力は何かということを良く考えないといけないと思います。したがって、和歌山県では何が駆動力であったかというと、ここ数十年間では、マイナスの意味も含めて製造業であったと思います。一次産業では例えば農業や水産業は確かに調子が悪かったのですが、あまりにも小さかったので、全体のGDP、県民所得が伸びなかった原因は必ずしもそこではない。和歌山県の製造業が伸びなかったことがやはり大きかったと思います。

製造業構造比較(資料3~5ページ)

 実は2ページで、山形県の製造業出荷額の伸びが2位、熊本県が5位でしたが、熊本県や山形県と和歌山県を比べてみたいと思います。3ページを開けてください。これは割合で見るやり方です。表の左上で、和歌山県は化学工業、石油製品、鉄鋼業の上記3業種で、平成18年の構成比率が67.7パーセントです。昭和50年と比べるとほとんど変わっていないというのが和歌山県の姿です。それから、情報通信機械、電子部品・デバイス、輸送用機械、精密機械の下記4業種に昔からある電気機械を入れると、これらの業種がこの時期くらいから伸びて、日本の現状があると言ってもいいかと思います。和歌山県でこれらの業種がどうなったかというと、昭和50年の構成比率が0.9パーセントというノミナル(ほんのわずかの)なところから少し伸びて、平成18年は2.6パーセントになりました。ところが山形県を見ていただきますと、この下記4業種の構成比が昭和50年に3パーセントだったのが、平成18年は42.2パーセントに増えています。それから熊本県は昭和50年に4.5パーセントだったのが平成18年は38.3パーセントに伸びています。ということは結局、日本全体が伸びた原動力であった加工組立型のハイテク産業に和歌山県は見事に乗り遅れたと言ってもいいのではないかと思います。
 ここから出てくる答えは、これからハイテク産業を和歌山県に根付かせよう、それからハイテクと言っても過去のハイテクではいけないので、これからのハイテクを根付かせようということが大事です。これを根付かせるためには、まず企業を呼んでくることです。この間はほとんどハイテク関連企業が和歌山県に来ていないわけですから、ほとんど来ていないというのは語弊がありますが、割合としてあまり来ていないということです。よい要素はたくさんあって、中堅企業はどんどん伸びているし、島精機製作所やノーリツ鋼機などもあります。ところが全体としては他の県などに比べると圧倒的に少ないので、圧倒的にたくさん呼んでこよう、それから圧倒的にもっと育てよう、こういうことがオーソドックスな答えではないかと思います。
 4ページをご覧いただきますと、これは日本の経済史の資料です。日本の経済発展の中で和歌山県がどうであったかというと、上の表から見ると、全国順位がかなり良い所とそうでない所とが明らかにわかってきます。和歌山県は端的に言いますと、繊維を中心として産業革命の波にうまく乗り出しました。明治中期から大正期の初め頃まで続く産業革命の波に和歌山県は極めてうまく乗ったと思います。その結果として、和歌山県の順位は結構高かった。その後、戦後に何が起こったかというと、例えば日産やチッソなどの会社がそうですが、重化学工業の波が日本にも押し寄せてきました。その当時は和歌山県にその要素があまり多くなかったので、戦後にかけて順位を少し落としています。それから戦後、繊維を中心とする産業がまた復興しました。あわせて住友金属工業などの会社がどんどん増設を行いました。それから花王石鹸や東亜燃料などが頑張りました。化学産業も頑張りました。そういうことで和歌山県はいち早く戦後の復興を果たしたと言えるのではないかと思います。そこから何となく同じような構造のままで、30年前の姿で和歌山県は闘っています。したがって、新しく重武装した他県にどんどん置いていかれているというのが、今の姿ではないかと思います。
 現在の全国における製造業の産業構造を見ていただきますと、一番右に出ているように、上から6割くらいまでは基本的には機械の世界です。輸出になるともっとすごいのですが、このグループが日本の製造業の駆動力になっており、経済発展の駆動力になっているのは明らかです。和歌山県はどうかというと、やはり昔の名前の産業史が頑張っています。頑張っているということは大事なことなので、どうでもいいということではないのですが、化学などは特に中身を見ると、化学は化学でも昔はただの染色の染料を造っている化学でした。ところが今よく聞くと「ボーイングの羽の中身はうちが造っているのです」とか、そういうのがたくさんあります。したがってそういう意味ではあまり大きく捉え過ぎると間違えますが、もし大きく捉えることが是であるとすると、そういうことが言えるのではないかと思います。
 その結果何が起こったか、次の5ページにあります。潜在成長率論争、論争は私がふっかけたのですが、今年の1月3日に、日本経済新聞が「潜在成長率地域で明暗」という見出しでこういうことを発表しました。左の表をご覧いただきますと、その結果、和歌山県は最下位です。潜在成長率最下位。和歌山県はしかもマイナスです。潜在成長率はこれから伸びるだろうということで、マイナスということは、「これから下がっていきますよ」と言われたのと一緒です。和歌山県の知事である私は、盛んに日本経済新聞の記事の批判を新年から言いました。これは私が言っていることが正しいのです。経済成長率の生産関数がどういうふうにできているかおわかりになる人はいませんか。生物理工学部ですから数式は皆さんお得意だと思いますが、我々のような経済屋は、実は私は計量経済学がすごく弱いのですが、知っているようなふりをして申し上げますと、実は「コブダグラス型生産関数」というのを使います。「AX+BY+C」です。Xは「人口の増減」、Yは「資本の蓄積」、Aは「人口の増減にかかる係数」、Bは「資本の蓄積にかかる係数」、それからCは「全要素生産性」です。一言で言うと技術開発の進歩によって出てくる係数です。こういう式を作って、過去のデータを放り込みます。そうすると和歌山県はどうなりましたでしょうか。まず人口がどんどん減ってきているので低下の趨勢を描きます。資本蓄積はまだ説明していませんが、例えば大手であった住友金属工業は、この数十年間、一時伸びて絶頂を極めた後はどんどんと鹿島(茨城県鹿嶋市)に移していきました。和歌山製鉄所の設備がどんどん低下していって、資本の蓄積は低くなっていったわけです。もちろん一方では、先程申しました島精機製作所などは資本蓄積をどんどん行っているので相殺される部分もありますが、その資本蓄積もひょっとしたらマイナスになっている可能性があります。そうすると、AとBは常数ですから先に決めて、Cも決めて、Xは線形で落ちるだろうと、資本蓄積の方はどうかわかりませんが、まあせいぜい横ばいくらいだろう。そういうふうに計算すると、明らかにマイナスになるわけです。したがって、これは単純なる数学の計算として間違いとは言えません。しかし、それを潜在成長率という言葉で言っていいのかということは言えると思います。これは愚かなる経済学がこういう言葉を使っているので仕方がないことですが、実際は過去のトレンド成長率と言ってもいいかもしれません。したがって、以前から言われているように、「和歌山県は残念ながら取り残された」ということと全く同じことを言っているので、国語的な意味で我々の潜在性が無いのだとか、そういうことを言ってはいけません。
 経済の屈折点がある時に計量経済学は必ず失敗します。皆さんは生物理工学部で色々議論をやったり、実験をやったり、応用をやったりされますが、前提が崩れたら必ず違う答えが出てきます。皆さんは科学者だから良くお分かりだと思いますが、前提が崩れたらということが大事なのですが、明らかに和歌山県の前提はもう崩れています。例えば住友金属工業は和歌山県回帰を始めました。それから例えば和歌山県の賃金や地価などが下がったことや、県庁なども一生懸命頑張り始めたことで、企業も少し目を向けてくれるようになりました。それから以前どんどん右肩下がりだった部分は、今はマイナスの要素が出尽くしたようなところがあります。そういうことがあると、経済というのは屈折点を経験します。屈折点を経験すると、過去のトレンドから来る計算結果は必ず外れます。「絶対に外れている。我々はもう最下位ではなく、かなり上の方にいる」と言いました。そうしたら、実質経済成長率が1月末頃だったと思いますが、内閣府から発表されました。これは平成17年の統計ですが、なんと和歌山県は6.0パーセント増加で、全国は2.8パーセント増加なので、全国順位は1位でした。しかしこれは別に日本経済新聞の予測がはずれたというわけでは決してありません。皆さん誤解しないでくださいということです。
 ではこの屈折点を経験した和歌山県がこのまま黙っていてもうまくいくのかというと、これはまた違います。なぜならこの単年度の成長というのは、その前から比べると、明らかに住友金属工業が立て直したところがかなり大きいだけと言っても良いと思います。したがって、この勢いに我々は力を得て、今後持続的な経済成長がちゃんとできるように、みんなが元気になるようにもっと官民力を合わせて頑張らなければいけません。その効果は現在行っている努力が数年後に統計に載って出てくるということなので、そう喜んでいてはいけません。
 予測を大胆にしておきますと、平成18年度、平成19年度の経済成長率ではトップというのは無理だと思います。ただ逆に大きく下がったというようなことでもないので、それほど悪い数字も出てこないのではないかと思います。今、住友金属工業などは設備投資をどんどん行っているので、この設備投資の部分も入ってくるし、設備投資が終わると生産力がアップしてこの生産の部分も出てくるので、それほど悪い数字は数年間出てこないのではないかと思っています。ただこの数字は、我々が今努力し良い結果を出していかないと、数年後はまたマイナスになるということだと思います。

農林水産業(資料6~7ページ)

 それで、先程割合で物事を見ようと言いましたが、残りの産業についても少し申し上げたいと思います。農林水産業はどうか。農業生産額のピークは平成3年でした。和歌山県は果実生産県です。これは全国でも珍しい構造ですが、他の県は大体米を作っています。米を作ったり、野菜を作ったり、それから果実などを作ったりしています。それから他県が儲けているのが牧畜です。牧畜、食肉、乳製品、米、野菜等で儲けています。和歌山県は圧倒的に果実が多く、牧畜は少なく、野菜や米もあまり多くありません。そういう意味では果実生産に和歌山県は依存しています。果実生産はどういう農業かというと、国の政策にはそれほど左右されない、商業的に成功すれば大儲けができる、そういう農業です。
 平成3年の頃は梅で和歌山県の果実生産額がかなり伸びた頃だと思います。ふっくらした梅干をどんどん開発して、和歌山県の梅農家がどんどん伸びました。梅の生産額が上がりました。それから梅酒などもどんどん良いものが出ました。それにより和歌山県は結構伸びました。しかし、その効果は剥落していくので段々と伸びなくなります。果実産出額は、現在青森県に次いで2位です。りんごだけに頼る青森県に対して、和歌山県は柿、桃、みかん、梅の4大果実が拮抗しています。桃は全国で4位ですが、残りは全部1位です。その他、キウイやりんご、ぶどうなど全部合わせて和歌山県は2位です。そういう意味では、現在の地位というのは何も国の政策によってドタバタする話ではなく、商業生産に乗ってしか実現できなかった話なので、売り方をもっと工夫して儲けるように産業振興策を行っていけば、もっと我々は所得を得ることができます。そうすると後継者などもできるようになります。だから頑張って販売促進や体質強化を行っていくということではないかと思います。
 それから林業産出額ですが、和歌山県は林業県なので、私の子供の頃は、和歌山県の山はほとんど植林したばかりでしたが、まだ奥地の方ではどんどん林業が盛んで、山林所有者は農地解放を経験していない方が多く、今でもそうですが、結構個人的にもかなりの資産家が多く、林業が大いに栄えていた時代でした。現在林業従事者は千人ぐらいだと思いますが、当時のデータを取ると1万4千人ぐらいであり、林業で和歌山県が引っ張られていたところも少しあったわけです。ところが、その後林価がどんどん下がりました。それから経済成長があって、所得がみんな上がります。そうするとコストが上がってきます。そのバランスが崩れて林業家は今逼塞をしている状態です。その間も森は育ちます。杉、檜をどんどん植えたのですが、それがかなり育ってきて、和歌山県の山はとても緑が豊かです。ただ中へ入ってみると、同じ美林でも例えば間伐が進んで、1本、1本がとても太く大きくなった林ではなく、真っ黒な林の中に細い木がいっぱい生えています。これでは将来にわたって林価が回復したとしても良い林ができません。それからいざとなって切ろうと思った時に、切る技術者がいなくなったら困ります。したがって、林業はある程度のところで頑張って、踏み止まって、永続させていかなければいけません。どうやってうまく間伐をしていくかという、今大事な瀬戸際にあるわけです。そのために様々な政策を行っています。「企業の森」や「低コスト林業」、それから「緑の雇用」などたくさんの政策を県としても様々な方にご協力いただきながら行っているところです。まだまだ手を付けたばかりで完全に「それ見たか」と言えるところまではいっていません。
 それから漁業算出額は平成2年頃がピークで、今はその3分の1くらいまで減少しています。これは2つ理由があって、1つは魚価が下がったこともありますが、もう1つは魚が捕れなくなったということもあります。したがって、魚が捕れなくなったのを追い求めてもなかなか辛いので、育てる、あるいは魚礁などをどんどん入れて魚を捕れるようにする、それから加工で勝負をする、販売をうまくやる、そういうことを全部複合的にやっていかないといけないと思います。

労働(資料8ページ)

 今、労働環境で、和歌山県の経済がどういう状況にあるかは労働指標を見るとわかります。皆さんも「有効求人倍率」という言葉はよく聞いたことがあると思います。私も定義は忘れてしまったのですが、コンセプトがどういうものか少し聞いてみましょう。「有効求人倍率」とは何ですか。何と何の比率ですか。

学生:会社が雇用したい人数と就職したい人数。

 そうです。今「求人倍率」の説明をしてくださいました。「求人倍率」には「新規求人倍率」と「有効求人倍率」があります。「新規求人倍率」は、今月どのくらいの人が求職をしたか、それからどのくらいの会社が求人したかの比率です。それから「有効求人倍率」は、実は数ヶ月にわたって就職を希望したがまだかなえられていない人が残っており、その残っている人を言わば数ヶ月のストックとした場合にどうなるかということです。「新規求人倍率」はすぐ出るがすぐに消え、「有効求人倍率」は少し残る、そのような考え方です。この資料を見ると今和歌山県の有効求人倍率は0.83倍ぐらいです。ということは、求職者に対して求人の方が少ないという状況です。皆さんはこれから就職しなければいけない立場ですが、和歌山県で雇ってくださいと言っても雇ってもらえない確率の方が高いという状況です。
 ところが全国の状況を見ると、何も他所に行けば就職がしやすいわけではありません。全国は今0.86ぐらいになってきています。この中味は、例えば東京都や愛知県といった、割合活気のあるような所も入っているので、和歌山県の今の位置付けがそれ程悪いわけではありません。ちょうど真ん中ぐらいになりました。実は平成18年の8月と比べると、和歌山県の有効求人倍率は0.84で、今とほとんど一緒です。ところが全国は1.07ありました。例えば東京都や愛知県はかなり状況が良くなってきています。それが和歌山県にも段々と及んできて、和歌山県も大分良くなってきたと思います。先程言ったように平成17年の経済成長率はトップだったわけですから、そんなふうに良くなってきたのだなというのが昨今の状況です。これで見てみると平成19年の8月は、0.94ぐらいまでいきました。そこから少し頭を押さえられているうちにじりじりと下がっているという状況です。ところが全国はその下がり方が激しいわけです。したがって相対的に言えば和歌山県の地位は上がってきており、就職しやすい状況にあると言っても差し支えないかと思います。何も1以下の倍数で和歌山県の状況を誇りたいと思っているわけではありません。しかし少なくとも最近は、様々な意味で、全国、全世界の荒波を受けながらも、細かいところでは少しずつ健闘しているというのが和歌山県の姿ではないかと思います。
 現金給与額ではもっとそういう傾向があります。和歌山県はある意味で田舎なので、全国の給与額に比べるとマイナスです。その代わりに物価、地価、あるいは人件費、そういうものは東京などに比べると低いわけです。それが、私が就任して以来、「和歌山県の現金給与総額が少しも上がらない。少し調子が良いはずなのにおかしい」と思っていたら、全国的に不況が大変心配される中で実はじりじりと上がっているわけです。和歌山県の賃上げは、全国に比べて最後のところでようやく上がったということだと思います。去年上がらなかった分だけ、今年は対前年比で結構上がっています。しかしこのままの勢いでいけるかどうかは、今の経済状況及び今後の我々の努力にかかっていると思っております。

和歌山県経済復興への取り組み

 そういうことで、和歌山県の置かれた状況を考えると、30年間にわたってずっと取り残されてきたということです。したがって駆動力である何かを和歌山県のものにして、全体を引っ張っていかないといけない。それは何かというとたくさんあるのですが、やはり製造業を中心とするような駆動力を付けないといけない。それに観光や農林水産業など全部まとめてたくさん力を入れていこうと思います。ゼロサムになるようなものは駆動力にはなりません。例えば県内のある企業が大きくなる代わりに別の企業が潰れていくということだと、県としての駆動力にはならないわけです。県としての駆動力というのは、誰かが伸びて、それに引っ張られるような形で他の人も伸びるということでないと駄目です。したがって、何が引っ張れるかを見つけて、皆さんと一緒になって引っ張っていくようにしないといけません。先程言ったようなことがそれではないかと思います。
 そして、我々としてはポテンシャリティがあるかということを次に考えないといけません。歴史的に考えれば、我々は産業革命も乗り越えました。その前は紀州五十五万石と威張っていたわけです。参勤交代の時は「どけ、どけ」と言って他の大名を押しのけて偉そうにやっていました。そういう紀州藩がぺしゃんこになったわけです。その後それまでの武士階級に替わって、町人、それから一部士族などが産業革命に乗り出して、リスクは大変なものだったが頑張ったわけです。頑張ってある程度の地位を築きました。そして戦後焼け野原になりました。また頑張りました。頑張って伸び、頑張って伸び、少し油断してしょぼくれています。それならばまた頑張ればいい、そういうことでないかと思います。

和歌山には元気な中小企業が多数存在(資料9~10ぺージ)

 ではどんなポテンシャリティがあるか。復興への取組ということですが、和歌山県には元気な中小企業が多数存在します。経済産業省中小企業庁が毎年「元気なモノ作り中小企業300社」というのを作っています。和歌山県の人口は日本全体の中でどのくらいあると思いますか。100分の1ですね。100分の1以下です。人口1億2千万人程のうち和歌山県は102万人程ですので、100分の1弱になります。100分の1弱とすると、人口比で言えば300社を選んだら和歌山県は3社ぐらいが相場と言ってもいいかもしれません。ところが2006年6社、2007年6社、2008年は少し落ちましたがそれでも4社、ちゃんと選んでくれています。私が別に胡麻をすって選んでもらったわけでなく、全国的なスキャニングをするとそうなりました。だから中堅中小でこれから頑張ろうという企業が結構たくさんあります。
 それから「モンドセレクション」を知っている人は手を挙げてください。それでは、「サントリープレミアムモルツ」を知っている人は手を挙げてください。「サントリープレミアムモルツ」に「モンドセレクション3年連続最高金賞」と書いているのをテレビで見たことがある人は手を挙げてください。先生だけですか。サントリーも気の毒にあまり宣伝効果が出てないなと思いますが、実は「モンドセレクション」はベルギーの伝統的な食品展示会で、そこで最高金賞、銀賞、銅賞を出しています。全世界から誰でも出せるのです。それで最高金賞は1人というのではなく、ある一定水準以上だったら最高金賞をもらえるのです。サントリーは、3年連続「プレミアムモルツ」で最高金賞をもらい、テレビでがんがん宣伝をしています。私は「サントリープレミアムモルツ」はおいしいし、さすがだと思うのですが、和歌山県には20年連続最高金賞というメーカーがあるのです。大阪の財界人と話をすることがあったのですが、サントリーは大阪財界人の雄と称される会社ですので、「皆さんは、サントリープレミアムモルツ3年連続最高金賞とおっしゃっておりますが、和歌山県ではまだまだヒヨコですね」と言って少しからかってやりました。「羅生門龍寿」というお酒は田端酒造が造っているのですが、20年連続最高金賞です。ただ若干の批評を申し上げますと、皆さんには宣伝効果がなかったことが証明されてしまったのですが、サントリーは3年でも、あれだけがんがんそれを売り物にして増産を行い、みんなにアピールして売ろうとしています。しかし、和歌山県の田端酒造は20年もやっているがあまり増産も行っていないし、何となく受賞されただけで終わっています。それでは、皆さんのような方々を新しく雇って伸びて行こうという元気は出ない。だからそういう意味では、もっと積極的に頑張らないといけないと思います。資料の中にこの「モンドセレクション」が県内17社と書いてありますが、和歌山県が100分の1件だとすると、全国で最高金賞や銀賞をもらっている人は100分の1くらいが和歌山県だと考えるわけですが、実は8分の1くらい和歌山県にあり、和歌山県の良い物がずいぶんたくさんあるということが国際的にも証明されているということだと思います。ただ先程申し上げたように、証明するところまでいっているが、そこから販促をかけて、リスクを冒して、全国のネットワークを使って、がんがん売って、キッコーマンやヤマサ醤油のようになってやろうというようなものが、まだまだそれほど多くないというのが和歌山県の現状だと言えるかと思います。これからそういう人達の企業家意識をかき立てて、県としても抱え起こして引っ張っていかないと、その企業が伸びて皆さん達を雇ってくれる余地がそんなに増えない、それは困ったものだから頑張るのだということだと思います。

活力あふれる元気な和歌山経済の創造(資料11ページ)

 和歌山県は11ページにあるような経済ゾーンを作って頑張っていこうと考えています。これは今年策定しました「和歌山県長期総合計画」に載っています。そのために何をするかということを考えなければいけません。

産業別担当者制度(資料12ページ)

 まず「産業別担当者」とは何かということをお話します。全国の都道府県で自分の県にどんな産業があり、どんな企業があるということをちゃんとすらすらと話せる都道府県庁は多分ないのではないでしょうか。なぜそういうふうになるのかと言うと、県庁の産業行政というのは立派なものがあるのです。他県もみんな一緒です。ところがその産業行政というのは、みんな手段を基にして構成されています。例えば産業金融が、ベンチャー資金がほしいというと貸付をしてあげます。しかしベンチャー資金の担当者はいますが、ベンチャー企業が例えばIT企業だったらIT企業担当者はいません。したがってそこへ来ないと誰がどこにいるかわからない。それではやはり企業の情報はちゃんと入りません。企業の情報が入らなければ政策は独りよがりで、頭の中で考えるものになりがちです。理論家というのは必要ですが、その理論の前提となる必要性というものがないと社会科学は成り立ちません。皆さんのような自然科学では、「あなたは一体何を実験しているのですか」という話になる可能性があると思います。したがって実態をしっかりと把握して、何に困っておられるのかを分からないといけません。
 そのために「産業別担当者」を設けて、企業へ行って、産業を鳥瞰できるように、色々調べてくるということを今やっています。ただ県庁の職員はそう多くないので、専門組織は作れません。したがって先程お話ししたような産業金融担当者がいたら、その人は同時に化学産業も担当ですと、化学産業は20社ほどあるので、20社のうちの5社は自分で担当して、部下にも担当させる、こういうふうに決めて今走らせています。多分県庁職員にとって、このミッションは驚天動地の任務です。なかなかそういうことは簡単にいきません。なぜなら企業に行くと、「あなたは何をしに来たのですか」と必ず言われます。「何か問題を起こしたでしょうか」と言われるわけです。「いいえ違います。最近商売はうまくいっていますか」と言ったらまずびっくりされて、そこから自分の意図や知事の意図を一生懸命説明して、それで聞き出さないといけません。皆さん忙しい企業の方ばかりなのでそんなに簡単ではありません。しかしそれが成功したら、和歌山県では行政が企業の困っているところをちゃんとつかんで相談に乗ってくれる所だということを皆さん体感としてわかってくれると思います。それがわかれば人間というのは話します。皆さんは全国から来ておられますが、全国の出身地でみんな話をします。話をしたらどんどん広がります。
 今まで和歌山県という所は逆のことを話されました。私も企業誘致の時に1度負けました。どうやって負けたかというと、県は色んな条件を整えて「来てください」と言ったのですが、最後には負けました。なぜ負けたのかを調べてみると、和歌山派の人達が後でこっそり教えてくれたのですが、誘致しようとしていた企業の社長に大銀行が、「和歌山県へ行くのは止めなさい。県や市町村は何もしてくれないし、住民は非協力的だし、止めなさい」と忠告したそうです。さすがにステークフォルダー(利害関係者)の銀行にそこまで言われたら、押し切っていく社長も大変な勇気がいります。したがって負けてしまったのですが、この銀行のパーセプション(認識)が変わったらどうでしょうか。和歌山県へ行ったらちゃんと話を聞いてくれる。もう汚職をする知事も出てこないし、邪魔をするような人がいたら、県の職員が体を張って止めてくれる。そうなれば銀行のパーセプションも変わってくるのではないかと思います。悪名は何年もかけて積み重ねられましたが、今度はその悪名を晴らすのも、何年もかけて積み重ねなければいけないわけです。したがって私は汚職をできないような仕組み作りに必死になって努力をしております。産業振興策は従来からたくさん色々なものがあります。先程言ったように担当者の制度と組み合わせて利用していただけると我々も嬉しいわけで、こういうものを利用したらどうですかとお勧めするのも担当者の仕事です。そのようなことが色々とあります。

技術開発(資料18~20ページ)

 技術開発は皆さん割と興味があると思いますが、技術開発で「わかやま版新連携共同研究事業」という少し規模の小さい政策を我々は持っておりまして、それに加えて工業技術センターがなかなかよく頑張ってくれているのですが、私は先程のスタイルで「何をしに来たの」と言われるのですが、中小企業へよく入っていきます。聞いてみると実験室などを見せてくれる所がありますが、「工業技術センターにずいぶん実験をやってもらいました」と経営者が言ってくれることが多くて、また工業技術センターを見に行っても地場の中小企業の方がよく来て一緒に実験したりしています。そういう意味で、象牙の塔にならないなかなか良い技術センターだと思っています。実は我々は、今年からここに少しエース級の人を雇うことができました。経済産業省の産業技術総合研究所の関西センター所長をしておられた請川孝治さんを、電池などエネルギー関係の技術の専門家なのですが、その方を雇うことができまして、更にもっと活動が広がっていくのではないかと思っています。非常に産業のことについて造詣の深い方で、企業と一緒に歩もうというようなことをよく言っておられます。
 それから、今年から食品工業をもっと和歌山県で盛んにしようと思っております。そのために食品工業で必要になってくるような測定機器などを工業技術センターにたくさん増強しました。それが18ページに書いてあるところです。それから和歌山県で何億円もつぎ込むというのは難しいので、国の競争的研究資金を取ってくるということも行っています。1つは「地域結集型共同研究事業」で、科学技術振興機構のかなり大きな資金を5年間に渡って取ってきました。一言で言うと、これはアグリバイオテクノロジー(農業分野でのバイオテクノロジーの研究、利用)でありまして、なかなか良いプロジェクトを持ったと思います。少し難を言えば、企業を十分に巻き込んでやっていないので、後に残らないという所が若干あります。次に20ページを開いていただきますと、「都市エリア産学官連携促進事業」とありますが、この事業は、私が知事になってから取ってきた事業ですが、これはナノケミカルです。このプロジェクトでは、参加機関が資料にたくさん出ておりますが、県内外の企業にたくさん入ってもらって、工業技術センターや大学などに声をかけて、このような形で組ませていただきました。それで研究成果が企業の中に残ることによって次の時代の雇用につながることを目指していきたいと思っております。
 それから中小企業金融など色々あります。海外進出もやっております。

地域資源の活用(資料23ページ)

 地域資源の活用では「わかやま中小企業元気ファンド」をつくりました。80億円の規模のファンドで、アントレプレナーシップ(起業家精神)を持っている人達の活用が期待されるところです。

和歌山県優良県産品(プレミア和歌山)推奨制度(資料24ページ)

 それからもうすぐベールが剥がれてきますが、「和歌山県優良県産品プレミア和歌山」というのを創りました。これは一番端的に言うとワインの「AOC」です。皆さんワインのお好きな方はいますか。フランスに「AOC」というのがあります。フランス語で「アペラシオン・ドリジーヌ・コントロレ」というのですが、国家の規格なのです。ある規格に沿っているものは良いものだということで、信用力が出てきます。それと同じものを和歌山県で創りまして、ワインだけではなく、全ての産品、それから一部余暇や観光などに「優良県産品推奨制度」というブランドを付けて売り出そうと考えております。

和歌山県の企業立地環境と誘致施策(資料25~29ページ)

 次に少し端折りますが、25ページの和歌山県の企業立地環境について申し上げます。先程1つはこういう製造業等を伸ばさないといけない、1つは呼んでこないといけないと申し上げましたが、呼ぼうとすると、「何が嬉しくて和歌山県へ行かないといけないのだ」と言われます。したがって、少し訴えるポイントがないといけません。関西国際空港に近いということはポイントとして挙げられます。大阪市に住んでおられる人はいますか、手を挙げてください。大阪市から関西国際空港に行くより、和歌山市から関西国際空港に行く方がはるかに近い。国際的にビジネスをしようとする、あるいはファインな製品を送るという時に、全部関西国際空港があっと言う間に使えるというのは和歌山県の1つの強みです。
 それから用地ですが、先程和歌山県が栄えていた頃のことを申し上げましたが、あの頃は、大阪府の南の方よりも和歌山県の紀の川筋の方がはるかに地価が高かった。それから例えば労働力についても、先程「熊本県に負けました」と言いましたが、あの辺などよりもはるかに和歌山県の方が労働需給は逼迫していました。それから労賃もはるかに高かった。その中で勝負してきたわけですが、今度はずっと停滞をしてきました。その結果として何が残るか、残念なことですが、労賃は安いままです。しかし、安いということは次の時代には武器になるわけです。それに土地もある。工賃も安い。それから環境も悪くはない。そういうことになると、次の和歌山県の立地環境ができます。それから先程言いましたが、石をぶつける人には体を張ってでも止めないといけない、その止める勇気があるはずであると、県庁で一生懸命言っています。
 2つ重点があって、紀の川筋と紀南地方の両方に分けてそれぞれ身の丈にあった企業を誘致してこようということです。用地は27ページに色々あります。28ページにそのためのインセンティブとして助成制度をつくりました。これは全国に遅ればせながら、平成18年についに和歌山県は目覚めてつくりました。総額100億円。100億円を一度に出すことはないのですが、限度額100億円のインセンティブをつくりました。それから企業立地のための組織をつくりました。それで頑張るという時にちょうど私が来たというところです。それから最大25億円の融資制度をつくりました。しかし、はっきり言うと企業立地が成功するかどうかはこういう奨励金の多寡の問題ではありません。今この奨励金を止めるのは、少し我々の姿勢を疑われるのでそういうわけにもいかないのですが、お金の問題ではないと思います。少し誤解を招いたかもしれないので申し上げますと、企業の立地を考えると、100パーセントお金の問題です。企業は100パーセントお金の問題として考えます。しかし、企業が投下する資金は、例えば住友金属工業が今投下しようとしている資金は1期2期を合わせると2,500億円。それから、パナソニックが尼崎につくっているプラズマ工場は5,000億円です。5,000億円で最大限100億円を上げるから来てくださいと言っても絶対に来ません。5,000億円がちゃんと回収できるような環境にあるかどうかです。例えば、労働力がちゃんと確保できて、行政が邪魔をせずに守ってくれて、それから住民との関係が良くて、インフラができていて、そういうことを全て考えて初めてお金の問題になるわけです。したがって、100億円があるから来てくださいと言っても全く効果がありません。そういうことを考えながら、我々はこの100億円の企業立地奨励金を使っていかないといけません。偉そうにあると言ってもフンと言われたら終わりです。これが現実です。
 では立地政策とは一体何だろう。企業の立地はどうやって決まるのだろうかということを申し上げたいと思います。こういう直接的な奨励金などで呼ぶこともあると思いますが、更に言えば、環境を整えることが企業誘致政策では一番大事なことです。その環境とは何かというと、まず専門家は工業用水とか、あるいは土地の造成とかそういう事を考えます。それも大事です。その次にみんなが考えるのが、空港があるかとか、道路がちゃんと付いているかとか、あるいは通信がちゃんとしているかとか、これも大事なことです。その次に考えることは、これも実は大事なのですが、従業員に優秀な人を雇用したいとすれば、ちゃんとした学校があるかということです。それから、病気になった時にちゃんと助けてくれる病院の制度ができているかどうか、警察がしっかりしていて暴力団がうろうろしているような所ではないか、そういう治安の問題も大事です。それから更に空気や緑、環境なども大事です。それから人々の気持ちとか、政治や行政の姿勢、そういうものも大事です。つまり、企業を呼んできたいと思えば、トータルな地域力というのが要請されるわけです。我々はトータルな地域力をこれから創っていかなければなりません。幸い、例えば土地の話などは今言いました。人の話も言いました。それから道路も特にこの紀の川筋では京奈和自動車道が出きてきてどんどん良くなってきます。空港も近い。通信も頑張っている。それから学校は良いのがたくさんあります。それから病院も、近畿地方で唯一救急医療が崩壊していない県は和歌山県だけだと思っています。それはとても献身的なお医者さんや看護師さんの努力によってできているわけですが、そういう所で必死になって頑張っています。治安もみんなが協力して取り組んでいます。例えば、「きしゅう君の家(※2)」は県内にたくさんあります。送り迎えなども、地域の方々がみんなで一生懸命やっています。それによってどんどん良くなってきています。人々の気持ちも、昔は「よそ者はいらない」などと言っていたのですが、元々我々が持っていた親切な気持ちがまた出てきていると思います。そういう意味で我々はトータルな力が大分付いてきたと言っても良いと思います。
 ただ2つの強敵があって、それはイナーシア(慣性、惰性)ということです。つまり過去の慣性。慣性というのは流れです。こっちへ転がっていったらみんなパーセプション(認識)としてまだ転がっているだろうと思う。それが変わっているのだということを認識するまでにやはり時間はかかるのです。もう1つは経済の全体的な流れです。設備投資が盛んな時は割合新しいものがつかみやすい。そういう意味ではここ7、8年前から、その頃はまだ不況で大変だったのですが、今年などはつかみやすい時期です。ところがこれから少しつかみにくい時期に入る可能性もあります。しかし、将来のことを考えて努力を怠ってはいけないということです。
 私が就任してから来ていただいた企業というのは29ページに一覧で並んでおりますが、一部はパナソニックの電池工場のように稼働しているものもあります。

和歌山県の道路整備(資料30~36ページ)

 それから2つだけ申し上げます。インフラというのは大事です。1つは道路。面白い話を申し上げますと、江戸時代、高速道路は和歌山県の沖を通っていました。東名高速道路の代わりにもっとすごい高速道路が通っていました。それは、「樽廻船」や「菱垣廻船」です。その頃和歌山県は経済的にものすごく栄えていました。鉄道の時代になっても何とか頑張っていました。和歌山線も紀勢線も造ってもらえました。人口は、この頃はそう減っていません。それから経済もまあまあでした。ところが高速道路になってからとうとう取り残されました。どこが取り残されてどこで人口が減ったかというと、まさに高速道路の空白地区で減ってしまいました。それから高速道路の真上、例えば岩手県や山形県などに大きな半導体の工場が続々と建っていきました。それによって世の中が変わっていきました。残念ながら和歌山県はそういうものがなくて、取り残されることになったということではないかと思います。
 それからもう1つのいけないところは、選択と集中を怠ったことです。31ページの左を見ていただきますと、改良完成区間延長率が全国ワースト1です。これだけやる所がたくさんあるのですが、選択と集中をしないで全部一度に手を付けるからこういうことになるのです。これは県当局の心がやさしいからこうなったのだと私は思っています。みんな自分の所の道を直してもらいたい。たくさん陳情が来ます。一番政治的に良いのは全部少しずつ良い顔をすることです。「そっちはやってあげるがこっちは待ってほしい」と言ったら、そっちの人は喜ぶけれどもこっちの人は怒ります。それでは敵に回る可能性があります。選挙で落ちる可能性があります。そういうことを恐れるとどうなるかというと全員に少しずつ良い顔をしたくなるわけです。そうなるとどうなるか。和歌山県は全体的に衰退していきます。和歌山県の道路を走っていると、良くなったと思うとまた悪くなる、そういう道路ばかりです。他県を走ったことのある人は、高速道路を下りて、どこそこまで行こうと思ったら大体同じ道路でスーッと行けるわけです。一旦横道へ入ったらひどい道になるということが多いですが、和歌山県はどこに行ってもほどほどに良いという状況で、これがこの左の図です。その結果、道路改良率は25年遅れました。その結果だけではないのですが、これはやはり山が多い和歌山県ということもあると思いますが、そういうことになってしまったと思います。道路は人が暮らすための平等な権利の保障です。チャンスを保障されずに手足を縛られて、「駄目なのはお前たちが悪いからだ」と言われたくないというのが和歌山県にとっての主張です。岩手県を見てください。高速道路が付いたらそこへどっと来るではないですか。だから、せめて紀伊半島一周道路ぐらい造ってから、「もう道路は造るな。道路はいらない」と言ってほしいというのが私の意見であります。
 それから資料の35ぺージ右下を見ていただきますと、現在例えば道路では年間の揮発油税で、和歌山県は東京都の3.6倍も1人当たり払っています。ずいぶんたくさん払っている、負担しているということです。その結果、答は2つあります。1つは、「地域で勝手にやったらもうその方が得でしょう」という意見です。もう1つは、「宿題はしっかりと果たしてほしい」ということです。後者の方で申し上げますと、実は3.6倍というこの構造は基本的にずっと変わっていません。戦後60年ずっとこの形で我々は払い続けてきました。それで60年代、70年代に何が起こったのか。資料35ぺージの左上を見てください。東京都あるいは大都市に我々は優先的に道路投資を行ってきました。「田舎は後回しで待ってください」ということで、その結果、東京の周辺、大阪の周辺、東名高速道路、それから東北自動車道などではあっという間に良い道ができました。しかし、端っこの和歌山県や高知県は取り残されたわけです。そこで今になって「自分たちでやってください」と言われたら、私は「50年分を返せ」と言いたくなります。高速道路をはじめ国の幹線ネットワークは、国土をどうやってうまく使うかという国の政策そのものだと私は思います。したがって全部終わってから言ってほしい。「全部終わったら後は勝手にそれぞれメンテナンスしてやりなさい」というのは1つのやり方だと思います。しかし終わってもいないうちから「田舎の道は無駄だ」とは言われたくないというのは1つの考え方です。
 36ページを開いていただきますと、現況の将来交通需要推計で、道路を造る時に考える交通量です。現況交通量から将来交通量を予測するのですが、全部でき上がると予想を上回る交通量になるわけです。なぜならチャンスがそこからできるわけです。従来、道のない時は、交通量は少ない。良い道ができると行ってみようかと人々の気持ちに変化ができるわけです。それによって実際の実現交通量は影響されます。ところが、今道路をどこに造るかを計算する時に、B/C、ベネフィットパーコスト(費用対効果)という計算をします。このベネフィット(効果)の計算をする時に交通量の予測などをするのですが、現在の道路の保存状況を基にして、「交通量がこのぐらいだから少し増えるだろう」と、増やしてみるというのがせいぜいできることなのです。ところが実際には、道ができてしまうと人々のマインドが変わってしまい、予測を上回る交通量が実現されてしまう。したがって田舎の道はもういらないという人は、皆さんの学問的な言葉で言えば、動学という言葉をわかっていない人達かもしれません。しかし、我々はそういうことを要求しながら、主張することは主張し、かつ先程の選択と集中に関しても、たとえ人気が無くなっても良い、和歌山県がそれにより救われるのならば少し頑張ろうというのが現状ではないかと思います。通信の方も大事ですが、時間の都合上割愛させていただきました。
 少ししゃべりすぎましたので、質問の時間が短くなりましたが、少し時間がありますので手を挙げていただければ、お応えさせていただきます。

質疑応答

司会:どうもありがとうございました。質問の時間を取りたいと思いますので、積極的に質問をしてください。特に住友金属工業が投資するというのはとても良い話だと思います。就職をする人もいると思います。手を挙げてください。

就職と和歌山県の企業について

知事:今就職の話が出ましたが、最近私は和歌山県の中を回って企業訪問をしています。そうすると、こんな良い企業がたくさんあるのかと発見することがよくあります。それでも先程言ったようにまだ足りないのかというのが次に出てくるのですが、こんなに良い企業がたくさんあるのかと思います。良い企業というのは、中堅企業あるいは中小企業といっても良いかもしれません。その中に2通りあって、皆さんは大学生だから大学生に申し上げますが、大卒者が自分の力を振るえる企業と、それから仕事熱心だが大卒では少し物足りない企業とがあります。それは生産プロセスだけをやっている所と、生産プロセスをコントロールする部分を持っている所、それから本社がある島精機製作所などマネジメントそのものを和歌山県でされている所と3段階あります。それで2段階目の企業が結構和歌山県にたくさんあります。規模は小さいので、「鶏口となるも牛後となるなかれ」という人でないとなかなか難しいのではないかと思います。腕の振るいどころはたくさんあります。もちろん住友金属工業や島精機製作所など大きい所も良いと思いますが、結構探せばあると私は思います。

和歌山県の道路環境について

学生:僕は和歌山県生まれの和歌山県育ちで、就職も今年住友金属工業に内定をいただき、和歌山県に骨を埋めるつもりでこれから頑張っていこうと思っています。また僕は和歌山県がとても好きで、これから自分のためだけではなく、和歌山県のために頑張っていきたいと思っています。僕は和歌山県が好きなのですが、この資料にもたくさん書いてありましたが、なぜ白浜まで行く高速道路が片側1車線なのかという疑問があり、和歌山県はせっかく紀南の方に白浜や熊野古道など観光地が色々あるのに、詳しいことはよくわからないのですが、高速道路を片側2車線にしただけで経済効果もあるのではないかと不思議でしょうがないのです。結構今までどの知事も道路はどうにかするとか言っておきながら結局今までずるずる行っているので、仁坂知事には是非頑張っていただきたいと思います。あと大阪に出る道路も少ないのではないかと思いますので、道路については本当に頑張ってください。

知事:はい、わかりました。今のような意見は私と意見を同じくするものです。ところが和歌山県がなぜ駄目かという議論をする間もなく、「政治が悪い」、「行政が悪い」、「某政党が悪い」、「ガソリンは25円安い方が良い」などと言ってみんな短絡的に走り、「待て、待て」と言って議論をする人がほとんどいない。だから「知事さん頑張ってください」と言われるのはそのとおりです。では、「道路特定財源などいるものか」と言ったら、その人にちゃんとわかってもらうということもまた必要なのです。それから、「自分の地位を守りたいために、どこでも良いから道路財源をばらまくとはどういうことだ」というような声もないといけない。実は和歌山県の長期総合計画には、これは私たちが一生懸命作ったのですが、重点はどこだとちゃんと露骨に書いてあるのです。是非紀伊半島一周道路を造りたい。それは多分この10年間ではできないだろう。そしたら、10年間で是非田辺からすさみまで伸ばしたい。京奈和自動車道は全部つなぎたい。それからこれは10年でできないかもしれないが、海南から白浜まで片側2車線にしたい。途中の有田までは3年ぐらいでできるだろう。実は驚くべきことに、有田−御坊間というのは都市計画もできていなかったのです。都市計画ができていないと、お金を付けてもらえない。なぜその都市計画ができていなかったかというと、当時みんなが反対したからです。なぜ反対したかというと、「いやもうこれで良い」と言って、「みかん畑は潰してもらいたくない」とか、「国道42号線の岬の先まで車が来てもらわないと困る(のに、高速道路ができると来てもらえなくなる)」とか、こういうことを言ったわけです。確かに困るかもしれない。しかし、国道42号線を利用した人が、必ずまた国道42号線を利用して和歌山県に来てくれるかというと、例えば大阪の人を考えると、「あんな遠い所はもう嫌だ」と全く来なくなる可能性があるわけです。それから道路が良くならないと、片側1車線のままでは、和歌山県は渋滞があちこちですごいのです。そうなると、「あんな所に行くよりも北陸へ行く方が良い」とか、「淡路島へ行こうか」とか、そういうふうに皆さんは考えるわけです。これは動学的な考え方です。そういうことを考えられるという想像力を、あるいは「道路はもういらない」と言ったらどういうふうになるかという想像力を、皆さんのような若い人も含めて全ての県民が共有しないとうまくいかない。それを私がはっきりと言うから、「そんなことを言っていたら財政が破綻するぞ」と言われるのですが、議論が正しいか、正しくないかというのは皆さんが自分で考えるべきことでもあると思います。

地方分権について

学生:少し話が逸れるのですが、私自身少し疑問に思っているので、知事に質問をさせていただきたいと思います。地方分権について知事のお考えをお聞かせください。

知事:地方分権については絶対やった方がいいと思います。なぜかというと地方公共団体、例えば県、市町村は、自分のやったことに責任を持たないといけません。責任を持つことによって、そこからインセンティブがわいてきます。責任を取らなければいけないと思ったら、頑張って自分で考えようとします。しかし、現状では県や市町村は国に助けてもらっています。逆に国に取られているところもあります。例えば道路などを見ると、道路は補助金をたくさんもらっています。一方で国が造らなければいけない道路にも、負担金をたくさん取られています。両方が団子になってまだらになり、日本の社会はできています。そうすると私はやはりどこか無責任ではないかと思います。したがって、地方公共団体は自分の分はここだとなったらそれについては全部説明責任を負って、こうでなければいけないと言うべきであり、人の責任にしてはいけません。一方、国も「地方がやるものですから」などと言ってはいけません。例えば幹線ネットワークというのは国の責任で100パーセントやるべきものだと思います。道路について言えばそうです。そういうことをきちんとすることが私は地方分権ではないかと思います。
 もう1つの視点は、責任を持つべきところが持つようにするためには、今補助金や負担金の問題だけを言ったのですが、その他に財源もきちんと分けないといけないと思います。例えば、今は国が財源を一旦召し上げて、不足分を地方交付税という形で配っています。そうではなく、初めから地方にこれだけと言って渡しておいて、その中でやりなさいと言った方が責任はきちんと取れます。それが地方分権だと私は思います。ところがそういうことを言うと、貧乏なところはどうやってやり繰りするのかとなります。現在でも東京都はかなりのお金持ちです。一方で和歌山県は数十万円のお金でひいひい言っています。しかし、それが一般の県民や国民に及んで、例えば義務教育などが十分受けられない地域が出てくるとどうするのかという議論もあります。責任を取るのは良いが、責任を取った結果貧しい者はますます貧しくなるのでは困るではないか。したがって、次に導入すべきはナショナルミニマムという考え方だと思います。日本国民であるならばどこに住んでいたとしても、最低限の生活保障を受けられる、そういうトリートメント(手当て)を受けられることを国が保障しなければ、日本と言えないのではないか、というのが地方分権の2番目の視点です。地方分権の今の議論の中で、この2番目の視点がほとんど抜け落ちていると私は思います。これはちゃんと言わないといけない。こういうと国権主義者のように聞こえ、「国の役割を重んずるのか」などと言われるのですが、我々は日本人であることを放棄したいと言っているわけではないのだから、国のナショナルミニマムの保障機能というのは、しっかりとつくっていくべきではないかと思います。
 そういうことを念頭に置きながら、地方分権を進めていかないといけない。しかし、今の現実の流れを考えると、何か地方分権というと「何とかの権限をください」とか、そんなものばかりです。それでは盛り上がらないと思います。何がないかというと、この国のあり方をちゃんと議論しないと地方分権は答えがないのです。明治維新の時に薩長は何を考えたか。これは幕府を倒そうと考えました。幕府を倒して藩が力を持てばいい。この地方分権だと私は21世紀に世界の中で日本は生きていけないと思います。しかし、現実の明治維新はどうなったかというと、実は新しい国家ができました。それは当県出身の陸奥宗光などが構想したことでもあるのです。少し勉強していただいたら良いと思います。そういうことで、単に幕府を倒すことだけではなく、その代わりにこういうものを創る。それは国でもあるし地方でもある。そういうものの中で地方分権を考えていかないと、私は世界の中で日本が置いてけぼりを食うだけだと思います。

※1 パリの地名。学生の街で有名。中央大学があった駿河台周辺がかつて「日本のカルチェ・ラタン」と呼ばれた。

※2 子どもを犯罪から守るために、主旨に賛同して和歌山県警察のシンボルマスコット「きしゅう君」の防犯ステッカーを貼っている家や店。

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